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南充浩 オフィシャルブログ

小手先のトレンド論で売上高を大きく左右できた時代はすでに終わっている

2016年12月9日 トレンド 0

 筆者が40代後半の感性の衰えたオッサンだからかもしれないが、ここ10年間くらいで、洋服において「これぞ画期的だ」というような新機軸のデザインやディテールは見たことがない。

コーディネイトや着こなしなんかではある。

例えば、インナーダウン。
これまでダウンジャケットといえば、アウターとして着る物だったが、薄手にしてジャケットの下に着るという発想である。
登山なんかでは当たり前だったが、これをカジュアルとして提案することは新しかった。
ユニクロのおかげなのか、最近ではおよそファッションとは縁遠い風貌のサラリーマンのオッサンでさえインナーダウンを着ている姿を見かける。

ただし、インナーダウンというコーディネイトもここまで行き渡れば、あとはひたすら商品の微細なマイナーチェンジを続けて何とか売り上げ維持を図るというのがアパレル業界の通例である。

しかし、商品の微細なマイナーチェンジを繰り返すことで売り上げを維持するという手法は、2000年ごろまでなら通用したが、現在では通用しなくなっている。

昨年買ったウルトラライトダウンと今年のウルトラライトダウンがどう違うのか?
物としてはまだ傷んでいないから今年も来年も再来年も着用できる。

いわく「色のトーンが少し変わりました」
いわく「スナップボタンの色を変更しました」
いわく「素材の光沢感を少し抑えました」
いわく「スナップボタンの材質を変えました」
いわく「着丈が1センチ長くなりました」

そんな微細なマイナーチェンジで「買おう」と思う消費者は今はほとんどいない。

可処分所得が減ったこともあるが、社会が成熟化しており、ほとんど変わらない商品を毎年わざわざ買い替えるような不合理な行動はとらない。

多くのアパレル、衣料品販売店はまだこのバブル期の発想のままだ。
微細な小手先の変化で何とか売り上げを作ろうとしており、その究極の発想が「他社の売れ筋を丸パクリする」ことである。

売れている商品を寸分たがわずコピーすれば自社の商品も同じくらい売れると思っている。

先日、関西で売れに売れており、業界で注目を集めている苦楽園のセレクトショップ「パーマネントエイジ」に4~5年ぶりに取材に伺った。

http://www.permanent-age.co.jp/

その取材内容はまた、ウェブメディア「インディペンド」に掲載するが、その中でパーマネントエイジの林行雄社長の言葉の中で印象的なものがあった。

https://independ.tokyo/

「今のアパレル業界は、ナイフとフォークで食べていたトンカツを『今季は箸で食べなさい。そうすれば美味しく感じるでしょう?』という小手先の変化に終始している」

という比喩で、「成熟化した社会ではそういうやり方では物は売れない」という指摘に続いた。

まったく上手い例えだと思うが、売れるようになるためにはトンカツそのものの味付けを変えるか、トンカツではない料理を出すかということが根本的な解決になるのに、そこに踏み込もうという企業、ブランドはあまり多くない。

以前にご紹介した河合拓氏の記事と同様の趣旨だ。

http://news.livedoor.com/article/detail/11470311/

先日、ある業界団体の討議会に参加した。アパレル業界をどうしてゆくべきかという議論が活発になされていたが、業界の常識にどっぷりつかった人は昔のフレームワークから抜け出せず、物事を「XXX系」という括りで語り、「この系」は流行る「この系」は廃れるという具合に昔から繰り広げられている「トレンド議論」を繰り返していた。

中略

「トレンド論」でなく「システム論」、「ビジネスモデル論」こそ重要なのである。分析の軸が間違っているのだ。

という内容で、国内のアパレル事業者にこの観点を持っている者はあまりにも少ない。

もちろん、大企業と町場の個人経営の洋服店が同様の手法で活性化することはないが、個人経営の洋服店がトレンドとかディスプレイとかの手法に特化して売上高を改善することは理解できるが、問題は大企業までもがいまだに同じ発想をしているということである。

大苦戦が続いているワールド、三陽商会、イトキンなどはその典型ではないか。

新ブランドや展示会の記事を読んでもほぼトレンド論に終始している。
トレンド論が正しいやり方であるなら、これまで何十年間もトレンド論に終始してきたアパレル企業がどうしてここまで凋落することになったのか。
そのことだけでもトレンド論だけでは通用しなくなったことを証明している。

トレンド論が無駄とは言わないが、商品トレンドだけで売れ行きを大きく左右できた時代はとっくに過ぎ去り、今後そういう時代に戻ることは二度とない。




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