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南充浩 オフィシャルブログ

「欠品させない病」を克服しないと衣料品値上げは不可能

2016年5月11日 企業研究 0

 商品が欠品すると機会ロスが生じる。
これは自明の理である。売り場に立った経験のある人ならわかると思うが、Mサイズがないから売れなかったとか、黒が無くなっていたから売れないとかそういうことは日常茶飯事で起きる。

量販店を含めた低価格チェーン店の基本としてこの機会ロスをなくすために、欠品させないということがあたかも強固な戒律のように受け継がれている。

日経ビジネス5月9日号にこんな記事が掲載されている。
ウェブで無料で読めるのは冒頭部分だけなのだが、

ヨーカ堂100億円在庫買い取り要請が頓挫

セブン鈴木会長、伊藤家との確執に新事実
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/depth/050300271/?ST=pc

である。

この記事の中に、鈴木会長がトップに立ってから「欠品させないため」に商品を作りすぎて売れ残り、その膨大な在庫が滞留しているという内容が書かれている。
その在庫は衣料品なのだそうだが、それを100億円分、創業家に買い取り要請をしたとされている。
もちろん創業家は拒否して、鈴木会長との確執が深まった。

後日この記事を詳しく紹介したいが、衣料品に関していえば「欠品させない」ということは必要ないのではないかと思う。実用衣料として販売したいのなら「欠品させない」ことは重要だが、実際のところ、実用衣料は日本国民には行き渡っている。
いまどき、よほどの事情がない限り、明日着用できる肌着がないなんて人は国内にはいない。
明日の靴下がないとか、明日のワイシャツがないなんてことはない。

定期的に洗濯さえしていれば明日着るものがない人なんてほとんどいない。
肌着も靴下も仕事用のシャツもほとんどの人は複数枚所有している。

イトーヨーカドーをはじめとする大型スーパー(GMS)各社は価格競争も行き詰ったことから、衣料品に関してはブランド力を高めようとしている。
そしてこれはGMSだけではなく、ユニクロをはじめとする低価格衣料品ブランドも同じである。
だからユニクロはジル・サンダー氏やルメール、リバティとコラボをし、しまむらはハリスツイードと契約するのである。

ブランド力を高めて商品単価を何百円かでも上げたいと彼らは考えている。

しかし、欠品させなかったら誰がわざわざ衣料品を定価で買うだろうか。
なぜなら衣料品は最低でも必ず年に2回価格が下がる。
夏と冬にはバーゲンが行われる。
欠品しないほど商品があるのなら、発売と同時に定価で買う必要なんてさらさらなくて、値下がりしてから買えば良いのである。

これが終戦直後とか高度経済成長前夜のように物資が少ない時代ならそんなことは言っていられないが、日常生活を送るための洋服は各人がすでに何枚も所有している。
消費者は今すぐに服を買う必要性なんてない。
それをわかっているからこそGMSも低価格ブランドも「実用品」ではなく「ファッション衣料」を売ろうとしているのだろう。正確には「ファッション衣料を売る」ではなく「ファッション衣料的な売り方をしたい」であるが。

先日、ユニクロ×ルメールの最後のアイテムであるキャンバススリッポンシューズが発売された。
発売当日のユニクロ店舗は賑わっていたし、翌日には早くも店頭とオンラインストアで大きいサイズが売り切れているほどの好調ぶりだった。

しばらくして、先日、ユニクロの大型店を見に行くと、なくなっていたはずの黒の大きいサイズが補充されていた。
ユニクロもイトーヨーカドーと同じで病的なほど欠品を嫌う。
これは柳井正会長がそういう思考の持ち主だからだ。

たとえば肌着や靴下ならそれも良いかもしれないが、デザイナーコラボやブランドコラボ商品で欠品させないというのは結局のところ値下げ販売になるだけである。

現にすでにユニクロは値上げ政策に失敗して、今春から「新価格」と称して値下げ政策に転じているではないか。なぜ値上げに失敗したかというと要因はさまざまあろうが、「欠品させない」というユニクロの体質が招いた部分もあるのではないか。

欠品しない衣料品なんて定価で買う必要性はゼロだ。
いずれ、必ず値下がりするのだからそれまで待てばよい。
手持ちの服は山ほどある。

かつて+Jも第1期は品切れが出るほどに好調だったが、それ以降は最終的に投げ売られている。
なぜなら欠品しなかったからだ。
アンダーカバーとのUUもそうだ。

今回のルメールも春夏物がすでに値下がりしている。

衣料品のブランドステイタスを高めたいなら「欠品させない」という思考は逆にマイナスに働く。
とくに成熟化した市場ではそうなる。

ZARAはその逆で各品番は売り切れ御免で、なくなればまた新しいデザインが入ってくる。
最終的には投げ売る枚数もあるが、ユニクロやGMSの投げ売り数量にくらべたらかわいらしいものである。
だから、ZARAの場合は定価か、もしくは値下がりした直後に買わなければ同じ物は二度と手に入らないという恐怖感がある。
だから比較的高い価格で消費者は買う。

GMSやユニクロが本気で衣料品を値上げしたいのなら、実用品要素の強い定番商品以外は欠品させるべきである。
とくにデザイナーコラボやブランドコラボなんて商品は少数生産の売り切れ御免で十分である。
ここにまで「欠品させない病」を持ち込むからいつまでも値上げが成功しないのである。

しかし、鈴木会長も柳井会長も今更「欠品させない病」をあの年齢から治すことなんてできないだろうから、これがユニクロやGMS、鈴木会長と柳井会長の限界点である。
人間は所詮、自分が育った枠や世代の風潮からは抜け出せない生き物だからだ。



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