製造方法の提示が効果的な販促になるとは限らない
2016年2月16日 考察 0
最近は、使用素材とか製法とかを下げ札に書いて、その価値を消費者に伝えるブランドが増えた。
何もしないよりはした方が良いとは思うが、正直なところ、すべてに販促効果があるわけではない。
まるで効果のないものも多い。
その中の一つに筆者はホールガーメントがあると思っている。
いわゆる、無縫製のセーター類である。
通常のセーターは袖や身頃が縫製されているが、ホールガーメントはそれを無縫製で編み上げるという技術であり、専用の編み機が開発されたことで製品化が可能になった。
ホールガーメントという技術を否定しているわけではない。
それは製造側にとっては画期的なことである。
また、昨今はリンキング工場が倒産やら廃業で減っており、その減少をカバーできるという効果もある。
ただし、消費者サイドで考えるなら「ホールガーメントのセーターです」と言われたところで、「だから何?」としか言いようがない。
「無縫製です」と言われても、それによってどういう効果があるのかはさっぱりわからない。
例えば、シルエットが綺麗になるとか、フィット感があるとか、そういう意味での「効果」である。
「ストレッチ混素材を使用しました」という説明なら、消費者は「あ、生地が伸縮して動きやすいんだな」とその効果が容易に想像できる。
ホールガーメントについて「無縫製のセーターです」という説明を売り場で受けるが、それで得られる消費者の利便性なり満足感なりはちょっと思いつかない。
実際に筆者も買ってみたことがある。
もう5年以上前のことだが、ジーンズメイトでホールガーメントのジップアップカーディガンが売られていた。
素材はウール100%。
「ホールガーメント」と書かれた下げ札が付けられていた。
たしか定価は5900円くらいだった。
興味深く見ていたが、その時は買わなかった。
筆者は定価では服を買わない。
それからちょうど1年後くらいに同じ商品を同じ売り場で見つけた。
前年の在庫品である。
1000円に値下がりしていたので購入した。
ひとつにはホールガーメントのセーターがどういう着心地なのかを試してみたかったこともある。
で、購入して何度か着用したわけだが、至って普通である。
通常品と何も変わらない。
それが筆者の感想である。
最近は肌着にも無縫製という物がある。
これはホールガーメントで製造されているのではないが、縫製せずに圧着テープで接着されていたりする。
肌着の場合は、直接肌に触れるものなので、縫い目が擦れてかゆいとかイタイということがある。
無縫製肌着はそれを解決できるという機能を持っている。
しかし、セーター類の場合は、素肌に直接触れることは考えにくい。
大概が、Tシャツとかカジュアルシャツの上からセーター類を着る。
となると、縫い目があろうがなかろうが大した違いはなくなる。
動きやすさとかフィット感がさらに向上したかというとそうでもない。
もともとセーターは編み物で伸縮性が高いため、動きやすいものだしフィット感もある。
また、熟練の職人による手作業でもない。
個人的には手作業自体に意味はないと考えるが、それでも「こんなすごい物を手作業で作るなんて」という驚きは理解できるし、それを評価したいという心理も理解できる。
しかし、ホールガーメントはそういう類のものではない。
製造は限りなく自動化されている。
専用の編み機さえ導入すればだれでも作れる。
現段階においてホールガーメントというのは、製造側に大きなメリットをもたらす技術ではあるが、消費者側にはあまり効果のない技術ということができる。
今後の技術進歩によって消費者側にも何らかのメリットを供与できるようになる可能性もあるが、現時点ではその部分が低いと感じる。
何が言いたいかというと、今回はホールガーメントを例に出したが、こういう「効果のない販促」が多々あるのではないかということである。
ブランド側、小売店側ももう少し販促手法を吟味する必要があるのではないか。
昨今は、洋服のデザインや色柄だけでは差別化しにくくなっており、使用素材や製造方法で差別化を図る事例が増えている。
それ自体は決して悪いことではないと思っているし、いろいろと工夫してみるべきだと思っている。
しかし、何でもかんでも使用素材や製造方法の提示が効果的な販促になるとは限らない。
〇〇製法で作られました
〇〇素材を使用しました
こういう下げ札を付ける際に、それで消費者の何が解決できるのか、消費者のどういう満足が得られるのかを考えてみるとより効果が高まるのではないか。
それが見いだせない物は逆にわざわざその手の下げ札を付ける必要はないのではないか。