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南充浩 オフィシャルブログ

既製服は工業製品以外の何物でもない

2016年2月1日 考察 0

 以前にも書いたことがあるが、オートクチュールとオーダーメイド以外の既製服はすべて工業製品である。
モノヅクリガーとかイシキタカイ系がどんなに暑苦しくピントの外れた思い入れを語ったところで、ミニマムロットが存在する工業製品である。

そして、糸作り、生地作り、染色加工でもミニマムロットは存在する。
これは厳然たる事実である。

この前提を共有しない限り、繊維産業・アパレル産業の活性化なんてありえない。

しかし、残念ながらメディア全般、極小ロットデザイナー、小売店関係者の中には既製服をまるで手作業の伝統工芸か家内制手工業のように捉えている人が少なくない。
そのため、いつまで経って非効率で、非合法的な取引や商慣行が横行しているのが我が国の繊維・アパレル業界だといえる。

そんなに家内制手工業が良いのであれば、彼らはオートクチュールかオーダーメイドの世界に行くべきだと思うのだが何故だか既製服の世界から離れない。
オートクチュールに行けばいくらでも極小ロットで生産できるし、家内制手工業が味わえるのに。
不思議なことである。

既製服の場合、アイテムや工場によって縫製のミニマムロットは異なるが、多くのアイテムの場合、国内工場だと1型サイズ込みで100枚となっている。
SMLの3サイズ展開なら1サイズあたり33枚の生産になる。

もし仮にこのブランドが10店舗に卸売りをしていたなら、1店舗あたりへの配布は10枚、各サイズ3枚ずつということになる。20店舗なら5枚ずつだ。

昨今は洋服の販売不振で苦戦店舗が多いとはいえ、これくらいなら何とか売り切れるだろう。

自ブランドの直営店を持っているなら、さらに卸売りの枚数は減らしてもミニマムロットの100枚は達成できる。

けれども現実的にはこのミニマムロットに達しないブランドが数多くある。
ミニマムロットに達しない場合は、1枚当たりの縫製工賃は高くならざるを得ない。
それだけ非効率的な作業になるからだ。

通常の縫製工場ではなく、サンプル工場へ発注するというやり方もある。
30枚とか50枚ならサンプルの範疇とみなされる。
その場合、縫製工賃はさらに高くなる。

先日、某業界紙で「洋服が工業製品のように製造されているのを見て驚いた」という書き出しで始まるコラムがあった。新人のころにそれを見て驚いたという内容である。
たしかに筆者も新人のころにそれを見て驚いた経験がある。

そのコラムは「昨今の洋服不振を見るにつけても、打開策は工業製品ではない作り方ではないか」というような結論で結ばれていたのだが、その結論は疑問である。

なぜならば既製服は工業製品だからだ。
買った人がどんなに思い入れがあろうと、その服は最低でも同じ物が100枚は存在する。
その服の元となっている生地も糸も工業製品の論理で製造された物である。

そうではない作り方を目指すならば、各社はオートクチュールかオーダーメイドの世界を目指すべきだろう。

昔に比べると国内の工場は随分とミニマムロットを下げている。
しかし、数点だけでの製造でOKということにはならない。もともとが工業製品としての製造体系が存在しているからだ。

洋服不振を打開するには、工業製品としての体系を理解しつつ、創意工夫で各ブランドの生産数量がミニマムロットに達するようにすべきだし、あとは売り方、見せ方の工夫を凝らすべきである。
ミニマムロットに達することで製造コストは下がり、売れることでさらに売り上げ高と利益が確保できる。

そうして初めて業界は活性化するのであって、工業製品を家内制手工業に戻しても何の発展性もない。
そういう施策を採る工場やブランドがあっても、それは独自の方針なので構わないが、業界を挙げてそちらを目指すのは自殺行為に等しい。

何故だかメディア関係者、ブランド関係者、小売店関係者は手作業、家内制手工業を変に理想化しているような印象があり、そういうサジェスチョンは業界を却ってミスリードする。
業界の振興を目指すなら、工業製品の製造体系を理解し、それをもって利益構造の構築と消費拡大を目指すべきであろう。




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