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南充浩 オフィシャルブログ

POSデータに依存しすぎる危険性

2016年1月21日 考察 0

 以前に、このブログでワールドをはじめとする大手アパレルの凋落は、POSレジとQRとOEM・ODMに依存しすぎた結果だと書いたことがある。

このブログはアパレル関係以外の人も少しだが読んでおられるようなので簡単な注釈をつけてみる。

POSというのは値札のバーコードをスキャニングで読み取るレジシステムのことで、コンピュータ内蔵のレジが自動的にそれを集計してくれる。
その結果、何色のどんな柄のどんな形の服が何枚売れたというのが、わかるというシステムである。

これが登場する前はレジで手書きで「正」を書いて集計したりして、消費者動向を把握していた。
今では大手から中規模のアパレル、食品スーパーなどはほとんどこれを導入している。

QRというのは、クイックレスポンスの略とされており、POSデータを基に売れ行きの良い商品を2週間くらいで再生産して補充するという仕組みである。

OEMは他社のブランドの製造を請け負うことで、ODMは製造のみならず、商品デザインまで請け負うことである。

この4点を抜きにしては現在のアパレル各社は立ち行かないので、廃止するとかそういうことは現実的ではない。
それにこの4つとも利便性のあるものなのでこれからも上手く利用すべきである。

しかし、「依存しすぎる」のは危険なのである。

筆者は大学卒業後2年半ほど販売員として就職した。
スーパーにテナント出店しているような低価格の衣料品チェーンだったが、当時最新鋭だったPOSレジを導入していた。
当然、インターネットも無線LANも存在しないから、いちいち、専用端末に吸い上げてから本部へ送信していた。

当時のPOSレジだと、「白無地Tシャツが10枚」みたいなそんなデータしか出てこなかったが、それでもボールペンで「正」の字を書いて集計するよりは随分と正確なデータだった。

昨年後半から読んでいるMB氏のブログ「knower mag」にはさらに進化したPOSが紹介されている。

http://www.neqwsnet-japan.info/?p=5880

近年のPOSシステムは顧客管理やVMD(ざっくり言うと商品レイアウトなどのこと)と紐付いて高度な分析を可能にしています。単純に「何がいくつ売れた」などではなく、「リピーターは〜を買う傾向がある」「〜の次は〜を買う傾向がある」「雨の日には〜が動く」「21番の棚は稼働率が良い」などの複雑な分析まで可能にしています。

とある。

なんと便利に進化しているのだろう。
20年も経てばそれくらい進歩しても不思議ではない。

しかし、なぜ「依存しすぎる」と危険なのかというと、データと予測データ通りに品揃えすれば、他店とあっという間に同質化してしまうからだ。

当たり前である。
POSを導入しているのは自社だけではない。
他社も導入しているのだ。
とくに予測データをそのまま鵜呑みにすれば他社と同質化することは当然だろう。

また、「売れた」データからそのまま補充発注するのもダメである。

なぜなら、売れる商品というのはほとんどの場合、ベーシックだからである。
トレンド最先端の商品や色柄はあまり売れず、一番量が売れるのは白、黒、紺、グレー、ベージュなどのベーシックな色でベーシックなデザインの商品である。

そのデータ通りに品揃えすればベーシックな無印良品みたいな店になる。

同質化した上にベーシックな店なんて売れるはずもない。

それをQRで即座にリピートするからたまらない。(笑)

OEM・ODMについては以前も書いた。
活用すべきシステムだが、依存しすぎると、デザインから新規企画開発まで丸投げすることになる。
楽だからだ。
何せ注文するだけで新規デザインまで提案してくれるし、中には「ブランド開発」まで任せるという究極の丸投げも珍しくない。

じゃあ、アパレル企業本社社員は何の仕事をするの?って話になる。
そもそもそんな社員が必要なのかということにもなる。
社員個人のスキルは当然高まらない。OEM・ODM会社のスキルは高まるばかりだが。(笑)

これらに依存しすぎた結果、社員のスキルは高まらない、ベーシックで同質化した店が拡大再生産される、という状況になる。
これが今の大手アパレル各社に共通する問題点ではないか。

POSというシステムは本当に便利で適切に使えばものすごい武器になる。
しかし、そのデータに依存しすぎるなら、自動発注システムに変えても同じなのである。
どうせデータを加工・分析せずにそのまま反映させるなら、データを眺めているだけの社員の手元に届くワンクッションを省いた方が追加・補充のスピードもより速まる。

データ通りに協力工場へオーダーが出るシステムを構築した方が効率的ということになる。

しかし、現実は異なった。

データをどう読んで、加工・分析するかが本来はアパレル企業のノウハウだし、そこに所属する担当社員のノウハウである。

その部分での人材育成を怠ったまま、経費削減やらEC比率の上昇やら、販売管理費削減やら、利益率の向上やらの数値目標だけを発表しても無駄ではないか。
人材が育たなければそこには至らない。

無理やりに利益率を向上させようとするなら、下請け企業を叩くしかない。
それはそうだろう。売れる商品を生み出せない・考え出せないなら、製造工場の工賃を下げたり、納入される生地値・副資材の値段を叩くしかなくなる。

で、これを「優れた経営手法」だとか「優れたマネジメント」と信じている愚かな上層部も多くない。
嘆かわしいことにそういう考えの一般社員も多いと耳にする。

かくして悪循環スパイラルは深まるばかりである。

そういう意味では、現在の大手アパレルの苦境というのは、各社の人材の適性に沿った結果だといえなくもない。




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