「服が売れない」のではなく「売れにくい」だけ
2016年1月20日 考察 0
「服が売れない」と言われている。
しかし、大手アパレル各社も売上高が減少しつつも1000億円とか500億円くらいは売上高があるので、まったく売れないということはない。
反対にむしろ、不振と言われながらも各社とも1000億円も売れていると見ることもできる。
売れなくはないが、バブル期のように売れるわけでもない。
正確には、90年代後半からは「服が売れにくい」時代と言えるのではないか。
先日、このブログで紹介したアメリカ市場も「服が売れないから価格競争に陥って二重価格が横行している」と言われている。
おそらく、欧州も似たような感じだろう。
なにせ、ZARAとH&Mの本社があって、売上高の何割かは欧州で稼いでいるのだから。
なぜ「売れにくくなったのか」を考えてみたい。
1、各人の収入が減っている、または収入が伸びていない
2、トレンドの変化が緩やかで毎年服を買い替える必要がない
3、服が丈夫なので長持ちする
4、ファッションに対しての興味が薄れている、バブル期ほどの熱意がない
5、家庭に収納スペースがない
この5点が複合的に作用して「服が売れにくい」時代になっているのではないだろうか。
そして、おそらく、今後バブル期ほど「服が売れやすい」時代というのは未来永劫来ないと考えた方が適切だろう。
どれほど我が国の景気が回復しようと、GDPが伸びようと、バブル期ほどのイージーな時代にはならないだろう。
「売れにくい時代」にどう売るかということが今後の最重要課題である。
以上を踏まえて、こんなブログを紹介したい。
買ったばかりの服が2年前のものだったこと、ありません?
http://www.apalog.com/lemonade/archive/59
はい。普通にあります。
筆者のタンスには普通にそういう服がたくさんある。
中には12年着ているPコート、15年以上着ている圧縮フェルトジャケットなんていうのもある。
2008年末に買ったダウンジャケットも普通に着ている。そろそろ7年くらいになるが。
例えばダウンジャケット。2年前に購入したものを「もうデザインが古いから買い替えよう」と思う人がどれくらいいるだろうか。昨今流通している製品の品質は良く、2年で痛むことはまずない。買い替えるならよほどトレンドが変化しないといけないが、ここ数年くらいはほとんど変化がないように思う。
むしろ2年前のダウンジャケットなら「まだ買ったばかり」と思っている人も多いのではないだろうか。ならば違う色型のダウンジャケットをもう一着買ってくれればいいのだが、一般人にとってそこまでの財布も、クローゼットのスペースにも余裕はないだろう。
とあるが、まさにその通りだろう。
そして洋服を定期的に買う人は、洋服自体を各シーズン複数枚所有しており、それぞれの服を各シーズンに数回程度しか着ない。
だからさらに服が長持ちする。
従って毎シーズン少しずつ服を買い足すだけで済んでしまう。
その「少し買い足す」中にあなた方のブランドが選ばれるかどうかは、努力次第であろう。
筆者で言えば、3年前に買ったPコートも5年前に買ったPコートも普通に着ているし、それを着たところで「ひどくおかしい」という印象はない。
シルエットやデザインのトレンドはこの10年間ほとんど変化していない。
とくにメンズは。
ファッション雑誌を筆頭にメディアは毎シーズン「これがトレンド」と煽るが、そのトレンドが爆発的に売れたことはない。
98年のユニクロフリースほど売れるようなアイテムはこれ以降ほとんどない。
強いてあげればウルトラライトダウンくらいか。ヒートテックも爆発的だったが、下着なのでここでは除外する。
ステテコは爆発する前に終わっている。というかステテコが爆発する要素なんて皆無だったのだが。
それはさておき。
ファッション雑誌も含めたメディアというのは、どうもトレンドを「一斉に変わる物」「急激に変わる物」として捉えて報道しているように感じられる。
そして、それをアパレルのエライ人たちが鵜呑みにするから経営状態が可笑しなことになっているのではないか。
市場や街行く人々を見ていればわかると思うのだが、マスのトレンドは急には変わらない。
非常に緩やかに変わる。
急激に変わるトレンドは、最先端層くらいである。
トレンドのピラミッドを見てもらうと、その頂点と次の層くらいまでであって、ここの人口は恐ろしく少ない。
そして頂点層の着こなしは一般人には理解できない。
パリコレのステージに登場する「変な服」を思い浮かべてもらえばイメージしやすいのではないか。
それぞれの解説をジョイジッパーさんの古いブログエントリーから引用する。
http://ameblo.jp/knitkitchen/entry-10631311505.html
サイバー・・・凡人には理解しがたい近未来的ファッションを提案する人。
イノベーター・・・常に革新的な次世代ファッションを提案する人。
オピニオンリーダー・・・最新のファッショントレンドを発信する人。
マス・・・とりあえずファッション誌くらいは読み普通にデパートとかで服を買う人。(ここはさらに「ちょっとお洒落さん」と「普通な人」に別けられます)
ディスカウンター・・・服ならなんでも良い人。服に興味がない人
で、このサイバーという人々は、オシャレというより一般人からすれば「変人」に映るような着こなしを好む。
ディスカウンターというのは在庫処分店などでできるだけ安く服を買いたい人。
この両層が一般アパレル店で服を買うこともあるが、すごく重要な客層というわけではない。
アパレル側からすれば「気に入ったら買ってくださいね」程度の扱いで十分である。
この両層を必死で獲得しようとすれば、それこそ「マス」層を逃してしまう。
そのマス層の緩やかなトレンド変化だが、MB氏のブログで分かりやすく説明されている。
http://www.neqwsnet-japan.info/?p=6435
そして2016年は長らく続いたノームコアの反動から徐々に「タッキー」トレンドがスタート。「タッキー」とは「悪趣味な」という意味。柄と柄のコンビネーションだったり、刺繍を入れた服やパッチワークなど、とにかく柄や派手や目を引く色モノなどを織り交ぜるのがトレンドとなりつつあります。
とあり、次が肝要なのだが、
もっともトレンドというのは「はい!今日からタッキーね!」とバッサリ切り替わるものではありません。ノームコアから徐々に徐々に時間をかけてタッキートレンドが浸透していくことが考えられます。2016年度はちょうど「転換点の始まり」の様なもの。ある意味、ノームコアからタッキーまで様々なアイテムが多種多様に見られる「面白いシーズン」と考えることも出来るかもしれませんね。ユニクロなどはこの春夏はノームコアを強く意識して推進していますし、トレンドは織り混ざっている印象が強いです。
とある。
シンプルさが売りの「ノームコア」から、装飾のある「タッキー」にトレンドが移り変わるといわれているが、昨日まで無地のトレーナーを着ていた人が、今日から突然に派手な柄シャツを着始めるわけではない。
柄シャツを着る日が少し増えた程度の変化である。
じゃあ、昨日までの無地トレーナーは一切着なくなるかというとそうではない。
それを着る日もある。
それこそ上で紹介したように「2年前の服も着る」のである。
昨年夏にレディースでガウチョパンツがヒットしたが、じゃあ街行く女性が全員ガウチョパンツになったかというとそうではない。
相変わらずスキニーパンツも多かったし、今も多い。
大阪だけではなく、夏は何度か東京に行く機会があったので東京でも見ていたが、原宿も渋谷も恵比寿も品川もガウチョ一色ということはなかった。けっこうスキニーを着用している人も多かった。
しかし、そういうスキニー着用者もガウチョを着用する日がある。
そういうことであろう。
レディースのパンツでは、今春はフレア(ブーツカット)が復活するのではないかと言われているが、おそらくスキニー着用者はいなくならない。
せいぜいフレアと併用だろう。
報道するメディア側(ファッション雑誌も含めて)は、いまだにバブル期の栄光?が頭にこびりついているのではないか。
バブル期みたいにトレンドが一年で変わって、前年と服を総入れ替えするような状況ではないし、そういう時代は二度と来ない。
一般のアパレルにとって重要な客層は「マス」である。
上にさかのぼっても「イノベーター」までである。
一般人からしても理解できるのは「イノベーター」層の着こなしまでである。
この3層のトレンドはそれほど急激には変わらない。
イノベーターくらいになるとかなり急激に変わることもあるが、「オピニオンリーダー」と「マス」をターゲットとするならそれほど急激なトレンドの変化はない。
そして国内のアパレル企業、ブランドのほとんどはこの「オピニオンリーダー」と「マス」をターゲットとしている。
それなら、急激なトレンド変化を提案するよりも、「昨年買ったあのアイテムとも合わせやすいコレ」というようなアイテム提案の方が売れやすいし、消費者の実状に沿っているのではないかと思う。
今後も「服が売れにくい」ことが常態化するのだから、そういう売り方を模索した方が賢明ではないか。