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南充浩 オフィシャルブログ

縫製工場にとっての最良案件は毎月一定数量のオーダーがあること

2015年11月26日 考察 0

 ある起業家からの相談を受けている。
「国産のカットソー類を作って売りたい」という内容だ。

まあ、これだけならありふれているが、起業家はあちこちに相談に行っているらしく、
そこで言われたことをいろいろと総合してみると、

・高額化しろ
・量産はするな
・わかりやすいストーリー作り(気仙沼ニットのような)
・高品質を謳え

などなどである。
だいたい今、大手アパレルやセレクトショップ、こだわり系ブランドが使っている手法といえる。
どういう物を作るかにもよるが、手法としては陳腐化している。

そしてそれが必ずしも的中するわけではない。

上手く行っているブランドとそうでないブランドがある。
個人的にはメディアが煽っている割には「メイドインジャパン」の洋服は予想より盛り上がっていないと感じる。

そりゃそうだ。
メイドインジャパンは必ずしも高品質ではないし、出来上がった洋服の見た目が特別違っているわけではない。
それでいて高いとなると、よほどの愛好家しか買わないし買えない。

洋服の見た目を劇的に変えたいならデザインに工夫を凝らす方が手っ取り早い。
先日、日登美の「日本製ハイブリッドポロシャツ」をご紹介したが、あれだって説明されなければ、単なる大柄なチェック柄のポロシャツである。

「先染めでチェック柄の生地を編むと肉厚になってしまう。薄い編み地でチェック柄を表現するためには、先染めで横縞を作ってから、縦のストライプ柄をプリントした。その際に生地の斜行を抑えるには国内の製造・加工業の技術が必要だった」ということを説明された。

IMG_4739

説明を聞かずに以上のことが理解できる人は、繊維の製造・加工業者に限られるのではないか。
まず一般消費者には無理である。

となると、何の変哲もないデザインの商品を作って、「日本製」というふれこみだけで「高くても買うよな?」という姿勢はかなり俺様なドSプレイだといえるのではないか。

起業家は縫製工場との取り組みを考えている。
縫製工場と取り組む場合、気を付けなくてはならないのは、一時期にドカンと大量の発注をして、それ以外の時期には発注がゼロであることである。
これは縫製工場にとっては有難迷惑である。

例えば、7月だけ1000枚のオーダーを出して、残り11カ月のオーダーがゼロというのは、縫製工場にとって何のメリットもない。

それよりも毎月、100枚ずつのオーダーがもらえる方がありがたい。
縫製工場にとっての優良顧客はこちらの方である。

なぜなら、幾人かの工員を雇用・契約している工場にとって、仕事がない月が生じるのが一番困る。
その月は工員を遊ばせておくことになってしまう。
それよりも毎月わずかずつでもオーダーがある方が良い。

上の例で行くと、年間発注数は1000枚と1200枚だから大きな差はないが、工場側にとっては後者の方が何倍もありがたい。

となると、縫製工場と取り組むのであれば、毎月最低でも一定数量の生産ができなくてはだめだ。
毎月、買ってもらえるような商品ということになるとむやみやたらな高額化をしてはいけない。
かといって、超低価格だと逆に怪しさが増すから、中価格帯ということになる。

国産Tシャツをオンライン通販で販売する京都イージーの価格帯は2000~4000円弱である。
Tシャツを毎月一定数量を買ってもらおうと思うならこのくらいの価格帯が適正ではないかと思う。

鎌倉シャツの場合は5000円だ。
ワイシャツを毎月1枚か2枚買ってもらうとするとこれくらいの価格が適当ではないか。
1000円だと安すぎて国産かどうかが怪しまれるし、1万円を越えると毎月買える人は少なくなる。

となると、縫製工場と密に取り組みたいのであるなら、このあたりの価格帯を考えるべきではないか。

近年、雨後の筍のように現れた「日本製」を売りにするブランドは、高価格化でイメージアップを狙っているのかもしれないが、それはブランド側の理屈であって工場側の理屈ではない。
なにも工場側のことのみを考えて商品展開をする必要はないが、社会貢献として国内工場維持を掲げるのなら、工場の業務活動を維持しやすいような施策を講じるべきではないか。

今のブランドの施策の多くは工場にとっては、一時期だけの「スポット」商品でしかない。

工場との取り組みを真剣に考えるなら、スポット商品だけではない、毎月一定数量をオーダーできるような商品施策を考えるべきである。

まあ、「煽るだけ煽って、ブームが終わったら次のことを考えるわ~」というのなら、今のスポット商品販売に終始していれば良いのではないか。


 




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