ファッション用途の高級素材はその「良さ」がわかりにくい
2015年11月17日 考察 0
連続テレビドラマ「下町ロケット」の視聴率が好調だそうだ。
筆者も毎回楽しく見ている。
佃製作所というエンジンメーカーが町工場(と言っても100人以上の社員を抱えている)として物作りに打ち込む姿を描いている。
ひたすらに高品質なエンジンとその部品作りに励んでいる姿に、胸アツになる視聴者も多いのではないかと思う。
佃製作所は大手による嫌がらせにもめげることなく、自社の製品の高性能さを突きつけることで様々な困難を突破していく。
昨今、物作りについて日本製が見直されているが、衣料品や生地、素材に関していえば、佃製作所のようにはなかなか行かない。
一口に生地と言ってもさまざまな切り口があるが、機能素材はその性能の高さを証明することは簡単である。
様々な実験データでそれを証明することができる。
あとは再現性が確保されていれば良い。
製造コストの高低はあるが、製造コストが高い機能素材なら、競技用とか専門職用などの販路へ、製造コストが低い機能素材ならこちらは量販店系へ販売できる。
また消費者にも説明しやすいし、消費者も理解しやすい。
「これはこれだけの機能があって、この値段になります」と言われると大概の消費者は納得する。
それでも値引き交渉をするかどうかは消費者個々人の性格の問題である。
前提条件は共有化されている。
一方、ファッション用素材はわかりにくいと感じる。
風合いが良いと言ったって、そんなものは主観によって差異が生じる。
すごく風合いが良いと思う人がいる反面、そうでもないと感じる人もいる。
また高額素材だからと言って耐久性や機能性に優れているわけでもない。
むしろ、劣っている場合も多い。
例えば、仕立てれば20万円とか30万円になるようなスーツ生地は耐久性が無い場合が多い。
1日着用したら何日か寝かせる必要がある。
その昔、そういうスーツを仕立てたという業界の先輩によると、2~3日、連続着用しただけで袖口が擦り切れ始めたという。
その先輩によると「こういうスーツは5着くらい所有して、毎日ローテーションで着まわさないとダメだった。勉強になった」とのことだった。
おそらく、大手総合スーパーで販売されているような7000~1万円くらいのスーツ地の方が耐久性は高いのではないかと思う。
デニム生地にしてもそうだ。
厚手でごつごつした凹凸感のあるデニム生地が高額である場合が多いが、機能性が高いとは言えない。
またその生地で作るジーンズの形にもよるが、よほどにゆったりとしたシルエット以外は、着用すると動きにくい。
ハートマーケットあたりで1900円で売られているスキニージーンズに使われているストレッチデニム生地の方がよほど機能性が高くて快適である。
高級素材とされるシルクにしてもそうだ。
シルクには様々な優れた性質もあるが取り扱いが難しい。
洗濯や保管にはとくに気を使う。
言ってみればかなり「不便」な素材だといえる。
ユニクロがシルクを大々的に打ち出したことがあったが、それほどの反響がなく、取り扱いも終了していることを見ると、ユニクロで買うような層には「不便」なシルク素材のアイテムは必要なかったのではないかと思う。
こうして見ると、一般大衆に高級なファッション素材をアピールすることはひどく難しいと感じる。
単に「高い糸を使っているから」とか「希少性の高い素材で」とか「伝統の技法で織りあげた」とかそういう文言で納得する人は少ないのではないかと思う。
そういう物を欲しいと思わせるには、きっと違うアプローチ方法が適切なのだろう。
どういうアプローチが適切なのかはまだ筆者自身が見えていないのだが、今までのように「高い糸を使ったから」とか「伝統の技法で織りあげた」とかいうような説明をいくら繰り返してもそれが購買につながる決定力にはならない。
もちろんそういう事実は説明する必要があるが、それを説明したから購買につながるというわけではないということを頭に入れてアプローチ方法を模索するべきではないか。
佃製作所が扱う工業部品のように、性能と機能性とコストだけですべてが決まればラクなのだが。