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南充浩 オフィシャルブログ

高価格品の少量販売というモデルは主流にならない

2015年6月18日 未分類 0

 ユニクロをはじめとする低価格グローバルSPAブランドの成長を背景として、
「低価格はグローバルSPAに任せて、アパレルブランドは良い物を高く少量で売るモデルを目指すべきではないか。良い物を何年も修理して使うような消費活動が主流になるのではないか」
という意見を耳にすることがある。

我が国は経済活動の自由が認められている国であり、今後、そういうブランドが起業される可能性はある。
またそういう性質のブランドが多数生まれる可能性もある。

しかし、グローバルSPAブランド以外のブランドすべてがそうなるということはありえないだろう。
もしそうなったとしたら、国内の繊維産業・アパレル産業は今以上に衰退する。

このモデルの代表例として挙げられるのが気仙沼ニットである。
被災地復興のビジネスとしてはたしかに一定の成果を上げたといえる。
しかし、これを現在のアパレルブランドに当てはめて事業転換させることは不可能であるし、もし、させてしまえばアパレル産業はさらに衰退するし、アパレルに原料を提供する産地製造業もさらに衰退してしまう。

なぜなら気仙沼ニットは単価も高いが生産数量が少ない。
1年間の生産量は一説によると150枚~200枚程度だといわれている。
商品の価格が仮に20万円だとしても150枚なら年間売上高は3000万円である。
それでどれだけの人数が生活できるのかということになる。

そしてこの手のブランドが主流になれば、低所得者はさらにグローバルSPAしか買えなくなるし、減少しつつある中間所得層もグローバルSPAブランドしか買えなくなるだろう。
少数の富裕層のみがそういうブランドで買うことになるが、その手のブランドが増えすぎれば今度は顧客の奪い合いが始まる。
無制限に高級品を買えるような富裕層はほとんどいないに等しいし、日本の富裕層は低価格ブランドだって購入するからだ。

低所得者・中間所得者は低価格のグローバルSPAブランドを買い、少数の富裕層だけが高級ブランドを買う。
これは社会格差の激しい欧米と同じ構図であり、そういう社会を望んでいるのだろうか。

また、グローバルSPAブランド以外はすべて少量生産ブランドになってしまうと、ブランドへ生地を納入したり、縫製を行うような産地製造業は今以上に衰退する。

生地製造業も染色加工業も縫製業もアジアの工場と比べるとロットは小さいが、量産が基本なのである。
だからこそミニマムロットが設定されている。

例えば、デニム生地でいえば、ロープ染色で別注色を染めてもらった生地を作ろうとすると、最低でも5000メートルくらいのミニマムロットが必要になる。
これは何も製造業側が楽をしたいから言っているわけではない。
原価とか物性の安定性からそういう数字をはじき出しているのである。

縫製業だってアイテムによって少しずつ異なるがミニマムロットはある。
1型3サイズ別(各サイズ約30枚ずつ)で100枚というのがだいたいの国内工場の相場であり、1型サイズ込みで20枚とか30枚という枚数は嫌がられるし、工賃も高くなる。
またあまりに少量だと縫製の物性も安定しない。

生地メーカーは10メートルだけの特注生地を織るよりも、最低でも1反(50メートル)は織りたい。
できれば数反は織りたい。

そして工場は毎日、毎月稼働し続けなくてはならない。
少数でも従業員がいる工場はとくにそうだ。
稀に家族だけで動かしている工場がある。
暇なときは止めて、仕事が入れば動かすということができるのはこういう工場である。

年に何度かしか服が売れないようなブランドばかりになると、工場は従業員を雇えない。
家族だけでの運営ということになるだろうから、雇用に対しても悪影響を及ぼす。

またアパレル側でもそういうブランドは年間に売れる枚数が決まっているから売上高はほぼ横ばいである。
となると、従業員の昇給はほぼ永遠にないということになる。

ただでさえ若者に不人気職種となりつつあるアパレルだが、昇給が望めないとなるとさらに業界への就職を希望する若者は減る。
就職希望者のない業種は間違いなく衰退する。

こういう高額商品を少量販売するブランドというのは、皮肉だが、大量生産・大量販売のブランドに囲まれているからこそ存在価値があり、そういうブランドばかり増えると逆に業界は疲弊してしまう。

即座に消えてしまう飲食物と、よほどのことがない限り存在し続ける衣料品とではさまざまな面が異なるが、同様に考えらえる部分もある。
大量生産・大量販売モデルの崩壊の例としてマクドナルドが挙げられる。
日本だけでなく米国本国でもマクドナルドは苦戦中だ。
一方、日本では同じハンバーガーでも少しだけ高額なモスバーガーは好調だとされる。

しかし、不調だとはいえ、日本マクドナルドの売上高は2200億円強だが、モスバーガーの売上高は660億円程度であり、4倍近い開きがある。

http://biz-journal.jp/2015/06/post_10399_2.html

さらにここから引用すると、

同じように、米国で高級グルメバーガーとして人気を呼ぶファストカジュアル・チェーン店であるシェイク・シャックは、自然の環境で放し飼いの牛の肉を使うことで急成長しているといわれる。しかし、14年度の売上高は1億1900万ドル、一方のマクドナルドは減少傾向とはいえ、まだ270億ドルの売上高を記録している。

とあり、1ドル=100円とするとシェイク・シャックは100億円、マクドナルドは2兆7000億円である。
これほどの開きがある。

この売り上げ規模の差は衣料品でも同じだろうし、逆に飲食でもモスバーガーが2200億円にまで、シャック・シェイクが2兆7000億円まで成長することはあり得ないだろう。

ただし、消費者のムードというか気分が変わっているのも事実である。

その消費者ムードに合わせて「高付加価値少量生産を建前、見せ球」としながら、ある程度の量産販売ができるブランドが今後は成長が可能ではないか。もちろん、価格は超高価格ではない。

言葉は悪いがきれいごとを建前・見せ球にしつつ、実際のところはそれを中価格で量産販売につなげることができるブランドが成長できるだろう。ただし、それはユニクロほどの売り上げ規模ではないことを蛇足ながら付け加えておきたい。

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