高品質しか取り柄のない日本製品は売れない
2015年4月9日 未分類 0
先日、こんな話を聞いた。
ある石鹸メーカーが石鹸そのものの形を変え、パッケージのデザインを変え、合同展示会での見せ方・ブースの作り方を一新したところ、これまでにはない集客ができ、商談がまとまったという。
石鹸そのものの成分は変わっていない。
製造方法も変えていない。
ただ、形とパッケージ、見せ方・伝え方を変えただけである。
このデザインを担当した会社にも直接確認した。
もう少し詳しいコンセプト設計やら、その狙いやらを伺うことができたがそこは省略する。
これを聞いたときに、繊維製造業にも同じことがいえるのではないかと感じた。
石鹸と繊維製品なので相違点はもちろんある。
一概に同一視することはできない。
これは大前提としてある。
しかし、それでも参考にすべき部分は大いにあるのではないか。
成分・原料は同じで、製造方法も同じ。
ただ商品デザインとパッケージ、見せ方伝え方を変えるだけで反響は大きく変わる。
日本の繊維製造業のクオリティはそれなりに高い。
(すべてが高いとは言えないし、中国の工場の方が高い場合もあるし、韓国の方が小ロットで小回りが利く場合もある)
昨今は「日本製」の見直しがブームとして起きつつあるが、製造業者から話を聞くと「さらに品質を高める」という抱負を述べる業者が少なくない。
その場合、個人的には違和感を覚える。
これ以上「高品質化を追求する必要があるのだろうか」と。
それよりも商品のデザインや見せ方、売り方、伝え方を工夫する必要があるのではないかと感じる。
繊維製造業者・加工業者が自社オリジナル製品を開発するケースが昨今増えてきた。
知られていないだけでずっと以前からそういうケースはあった。
けれども今も昔も含めて、それが成功したという事例はあまり多くない。
成功しなかった原因として、品質の高低ではなく、製品のデザイン、見せ方、売り方、伝え方が不味かったという場合が多いのではないか。
いくつかの産地ブランドを拝見したことがあるが、産地ブランドとして満足に市場に流通しているものはほとんど皆無だろう。
ここでいう産地ブランドというのは「産地全体で企画製造したブランド」であり、「産地に属する個別企業が開発した自社ブランド」という意味ではない。
産地全体で企画製造したブランドは、意思統一までに時間がかかるという欠点があるが、それ以上にやはりデザイン、見せ方、売り方、伝え方が不味いというものが多いと感じる。
そしてセールスポイントが、「国内製造」とか「メイドインジャパン」しかないのであれば、そんな商品が売れるはずがない。
いくら「国内製造」で高品質でもデザインがモサっとして、見た目が悪ければ売れない。
お客は「品質のみ」を買いたいわけではなく、デザインの良さも求めている。
当然それ以外の要素も求めており、消費者が購入に至るまでには複数の要因が密接に絡み合っていることは言うまでもない。
ただ、「高品質」しか取り柄がないようなメイドインジャパン製品が高い価格で売れるかというと、それはほとんどない。
そして、デザイン、見せ方・売り方・伝え方を手に入れようとすると、それはそれなりに代金が必要になる。
これらの「形ない物」に対して、支払うことを極度にためらうという性質が、多くの繊維製造加工業には共通している。
逆に、過去の栄光にのみすがっているような第一線を退いたデザイナーやコンサルタントにはなぜか大枚をはたいてしまうこともある。
その部分での判断基準を確立できない産地企業は淘汰されるほかないだろう。
それに対していささかの惜別の念はあるが、無理をして(たとえば国や行政、団体が過剰に保護するようなこと)まで存続させる必要がないというのが筆者の考えである。
今後はこの部分を乗り越えた一部の産地企業が集まって次のステージを目指すというのが正しい姿なのではないかと思う。