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南充浩 オフィシャルブログ

大塚家具の株主は至極まっとうな判断を下した

2015年3月30日 未分類 0

 大塚家具の株主総会が開かれ、話題となっていた父娘対決で、娘社長が勝利をおさめた。

創業者であり、家具のカリスマである父会長と、大手銀行やコンサルティング会社出身の娘社長との対立は、親子関係があるから世間の注目を集めたが、血縁が無ければどこの会社でも経営方針の対立だといえる。

金融機関は、娘社長を支持するのではないかと思っていたがその通りになった。

父会長がこれまで作ってきた高級品・接客重視の販売に対して、娘社長はイケアやニトリを視野に入れた中・低価格で接客を軽減したセルフ・カジュアル販売店を提唱した。
どちらも一長一短があり、ビジネスには、これをやったから確実に売れるということはない。
どっちの方策を採っても上手く行くかもしれないし、上手く行かないかもしれない。

今回は家具業界のことだが、同じような事例は繊維業界・アパレル業界にも数多くある。
産地の製造加工業者にだってある。

カリスマ親父と対立する息子役員なんてのは産地でもザラに見かける光景である。

カリスマである創業者や先代が年老いてくると、後継者が問題になる。
家具にしろ、服にしろ、繊維製造にしろ、カリスマと言われる人はセンスというか、嗅覚というか感覚に秀でている。
幾人かそういう方に直接取材をしたことがあるが、性格の好き嫌いは別にして、あの感覚の鋭さは天性であり、学んで近づくことはできるが、完全コピーすることは不可能である。

後継者に先代や創業者と同じくらいのカリスマ性があるというケースは滅多にない。
皆無といっても言い過ぎではないだろう。

となると、後継社長は先代や創業者と同じ企業経営はできない。
逆にカリスマをまねるととんでもないことになる。

とくに大塚家具の場合、長男を差し置いてなぜか、姉である現社長を後継者に選んでいる。
現社長は大手銀行やコンサルティング会社で育っているから、理詰めのビジネスを好むものと推測される。

そういう人を後継社長に選んだのだから、今後は、そういう方向性に流れるであろうことは、最初から分かっていたはずである。とくに家族なら。

ここからは個人的な意見だが、この娘社長が、逆に親父と同じ経営スタイルを選択したとしたら、そちらの方が経営危機に陥ったのではないかと想像してしまう。

これが家族数人で経営している零細事務所なら、潰れようとどうなろうと大したことはないが、大塚家具は上場企業であり、昨年末で1749人の従業員がいる。
当然、新社長としては1749人の従業員の生活を支えなくてはならない。企業もなるべく長続きさせなくてはならない。
「めんどくさいから事務所たたむわ」というようなことは許されない。

であるなら、新社長としては自分ができる範囲でのビジネスを企画構築するほかはない。
新社長が、中・低価格のセルフ販売路線を企画するのは当然だと個人的には思う。

株主総会の記事が掲載されている。

大塚家具、優勢だった父・会長はなぜ大敗したのか?具体論なき感情的発言連発の代償
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150329-00010003-bjournal-bus_all&p=1

この「知」対「情」アプローチが、株主総会で両者の明暗を分けたのである。

とある。
もちろん、娘社長が知で、会長が情である。

勝久氏は発言内で「私には5人の子供がいて、最初の子供はとても難産で」などと家族のことに触れ、それが一般株主に強い違和感を覚えさせた。その後、一般株主が何人も質問に立ったが、勝久氏の独善的な差配を指摘したり、今回の騒動を批判する発言が続いた。

さらに勝久氏の妻、千代子相談役も株主として発言したが、久美子氏を諌めるような長い発言の途中で一般株主から失笑が漏れたり、「もうやめろ」などと野次を浴びる有様となってしまった。勝久氏は最後に次のように訴えたのだが、将来のビジョンや方策を示すことがなかった。それが一般株主の支持を得られなかった最大の理由だろう。

とある。

親族間の話合いなら情に訴えかけるのは有効な一手段であるが、株主総会という場にはふさわしくない。
株主総会は会社の今後の方向性やビジョンを討議する場であり、家族間の情とか愛憎を見せつける場ではない。

この記事が事実なら、筆者が株主でも会長を支持することは絶対になかっただろう。

この記事は

単純に「自分を信じてくれ」では、他人である一般株主に対して通用しない。

と結んであるが、まさしくその通りである。

そして個人的には、情に訴える経営が可能なのはカリスマだけであると思う。
そのカリスマ会長の年齢はもう72歳である。あと10年ほどすればほぼ確実に引退せざるを得ないだろう。

娘社長はあと10年経ってもまだ56、57歳くらいである。

カリスマ会長が今、もし50代か60代なら、「俺を信じてくれ」でも良かったかもしれない。
あと20年~30年陣頭指揮することが可能だからだ。
しかし、あと10年くらいしかないなら、今のうちに次のビジネスモデルを模索するのは新社長としても株主としても当然ではないか。

やや的外れかもしれないが、ジョブズというカリスマを失ったappleだが、新CEOに代わってからの方が、iphoneの売り上げ台数を増やしている。
もし、新CEOがジョブズと同じカリスマを演じようとしたなら失敗した可能性が高いのではないか。
新CEOがジョブズとは異なる路線を採ったことが奏功したのではないかと思えてくる。

今回の事例は、アパレル業界や繊維業界にとっても他山の石となるのではないだろうか。

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