大手にとっては旨味の無い市場でも中小企業にとっては美味しい市場という場合もある
2024年3月29日 企業研究 1
超大手が注目しないような商材でも専業メーカーや中小企業にとってみればそこそこ美味しい商材だという場合も世の中にはある。
あまり他のメディアでは話題にならなかったが、こんな報道があった。
タビオ FCバルセロナとライセンス契約 春から中国、日本で靴下販売 | 繊研新聞 (senken.co.jp)
タビオは、スペインの名門サッカーチームであるFCバルセロナとの間で、26年10月までの3年間にわたるライセンス契約を締結した。24年春夏物から、カジュアル靴下10型、フットボールソックス1型を国内と中国の実店舗、オンラインストアで販売する。
とのことである。
海外の著名大手スポーツチームとのライセンス契約というのは、通常めちゃくちゃ知名度の高いブランドやメーカーである場合が多い。また世界的スポーツウェアメーカーである場合が多い。
しかし、少し失礼ながらタビオという会社はそこまで大手でもないし、著名ブランドでもない。にもかかわらず、FCバルセロナとライセンス契約できたというのはなかなか珍しいといえる。
今回の提携は、タビオの品質への評価のほか、パリやロンドン、中国などにおけるグローバルな販売展開が評価されたと見られている。
とある。
もちろん、この背景はその通りだろうと思う。しかし、それ以外の背景もあると当方は見ている。
というのもタビオの2024年2月期第三四半期連結では、海外フランチャイズ29店舗、海外直営4店舗と報告されており、グローバルにそれほど多店舗展開できているわけではないからだ。そして海外フランチャイズのほとんどは中国での展開だと考えられるので、スペインのサッカーチームがこれを大きく評価するということもちょっと考えにくい。
あまり報道されていないが、実はタビオはサッカー向け靴下の国内シェアではかなり高い比率を誇っており、多分現在はトップなのではないかと思う。
恐らくこの点が評価されてのライセンス契約なのではないかと当方は考えている。
サッカー向け靴下でタビオがそこまで売れているという理由について、何度かタビオの中の人に非公式にお尋ねしたことがある。
サッカー向け靴下というとナイキやアディダスなどの大手スポーツウェアメーカーが高いシェア率を握っていると当方は考えていたから少し奇異に感じたわけである。
ちなみに当方が小学生高学年時代、男子はアディダスのハイソックスを履くのが最先端でカッコイイとされていた。80年頃のことで、子供たちの間にはまだナイキはそれほど知られていなかった。
サッカーに関してそんなに詳しくもなく、あまり興味も無い当方は、依然としてアディダスの靴下が人気なのではないかと思っていたという次第である。
ただ、中の人に非公式に尋ねてみると、大手スポーツウェアメーカーはサッカー向けの商材としてはユニホームや練習着、靴などは力が入っているが靴下はそれらに比べるとイマイチなのだという。
理由は「単価が安いから」ということを挙げておられた。
たしかに靴なら何万円もするしユニホームや練習着なんかも何万円かする。しかし靴下なんて何万円もするはずがない。高くてもだいたい3000円くらいだろう。
それこそ、超大手のナイキやアディダス、プーマなんかからするとそんな単価の低い商材に渾身の力を籠める必要は無く、単価の高い靴、ユニホーム、練習着などに渾身の力を籠めた方がはるかに効率性が高い。
1足売って3000円しか入金がない靴下と1足売って3万円が入金される靴があるなら、どちらを売った方が効率が高いかは言うまでもない。
そんなわけで、ともすると無敵と思われる世界的大手スポーツウェアメーカーだが、靴下には靴やユニホームに比べると力が入っていないそうで、その理由に納得できる。
しかし、靴下専業であり、それら大手ブランドよりも企業規模が小さいタビオからするとサッカー靴下というのは競合が少ない美味しいニッチ市場だったというわけである。
タビオの2023年2月期連結は売上高が152億6400万円(対前年比11・6%増)となっている。まあ、150億円規模の企業だということになる。
ちなみに24年2月期の業績も好調で、第3四半期連結では
売上高 117億7800万円(対前年同期比7・5%増)
営業利益 4億9700万円(同121・7%増)
経常利益 5億1200万円(同110・6%増)
当期利益 4億1400万円(同329・2%増)
となっている。
そして24年2月期連結通期では売上高159億円を見込んでいる。
ちなみに株価は1100円台~1200円台をうろうろしていて、衣料品関連企業としては比較的株価は高い方だと考えられ、300円台をうろうろしている某トウキョウベースの株価と比較するとその高さが理解できるだろう。
スポーツウェアに限らず、衣料品関連では「強いところはより強く」なる傾向が顕著化しており、中小零細企業は太刀打ちできないと感じてしまいがちで、当方もそのようについつい感じてしまう。
しかし、大手からすると低単価で旨味の少ないと感じるサッカー向け靴下という分野は150億円規模で専業のタビオからすると美味しいニッチ市場だったというわけで、もしかすると他分野でもこういうニッチ市場というのは他にもあるかもしれない。中小零細企業が生き残るためには、これに類するニッチ市場を見つける・開拓する・創造する活動が求められるのではないか。
ただし、このサッカー向け靴下がいくら伸びても、何百億円・何千億円にはならないだろうから今更大手が参入してくる可能性も低い。中小零細企業にとっては身の丈に合ったブルーオーシャンだったということになる。
そういう分野を見つけたり、作ったり、開拓したりすることがこれからの中小零細企業の生き残りには必要不可欠になるだろう。
私の勤める金属加工業界だと、「エーワン精密」という中小でも上場している会社がニッチ分野でナンバーワンのシェアを取っていて、平均の経常利益率が35%超という異常な業績を誇ってますね(って、前にもコメントしたかも?w)
ここの社長さんは、小学卒で丁稚奉公に行かされ(もちろん当時でも違法w)、若くして独立して上場するまでになったそうです。作ってる製品は大きく括ったら二種類だけで、大手メーカーでは高くて納期が遅くて融通が利かない所を、短納期、低価格で対応することで大儲けできたらしいです。
うちの工場でもエーワン精密の製品を買っていますが、箱とかのデザインはモロに昭和で、どうでも良いところには全くお金を掛けていない感じですw