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南充浩 オフィシャルブログ

デジタル化しても業績は伸びないどころか悪化することもあるという千趣会の事例

2024年2月20日 企業研究 5

世の中に「これをやれば誰でも確実に売上高が伸びる」というやり方は無い。

もちろん、時流に合ったやり方はあるだろうが、全社がそれで必ず業績が伸びるわけでもない。好景気でも倒産する会社があるのと同じである。

時流に合ったやり方が、さらに自社の顧客に適しているかどうかが最大の問題である。いくらトレンドのやり方でも自社の顧客層に適していなければ業績は伸びない。

盛んにDXと叫ばれているが、デラックスと紛らわしくていけない。便利なビジネスツールなのでデジタルを取り入れることに異論は無いが、デジタル化すれば確実に業績が好転するとは限らない。下手をすると自社の顧客層には適合しなくて却って業績を悪化させることもある。

千趣会はそれの好例ではないかと思う。

千趣会の通販売上は18%減の431億円、6年で半減以上の衝撃。デジタル中心へのプロモーションシフトも想定効果を得られず | ネットショップ担当者フォーラム (impress.co.jp)

この記事に限らず、選手会の23年12月期連結の業績悪化記事は各メディアで報道されている。

ただ、この記事は6年前からの流れも総括している点において当方は優秀だと思う。もちろん売上高の増減だけで企業を評価することは誤りだが、千趣会は営業損益も経常損益も2期連続の大赤字である。

 

千趣会の2023年12月期連結業績は、売上高が前期比16.4%減の492億2600万円、営業損失は55億5700万円(前期は81億3900万円の損失)、経常損失が56億7900万円(同78億8900円の損失)、当期損失は47億8200万円(前期は109億7600万円の損失)だった。

主力となる通信販売事業の売上高が同18.0%減の431億4200万円にとどまり、業績悪化の要因となった。通販事業の売上原価率は50.3%と同2.8ポイント改善、売上減の影響で販管費は同17.2%減の274億1100万円。原価率改善と販管費削減で赤字幅は縮小した。

 

とのことで、この原因についてはこの記事の見出しや他の記事でも同様に「デジタル中心のプロモーションの失敗」である。

 

コスト削減は、高コストのカタログ中心からデジタル中心へのシフトによるプロモーション費用の効率化を進めたため。一方、新規獲得などで期待した効果を得られず売上高の減少に影響した。購入会員数は同37万3000人減の163万1000人、新規・復活購入会員数は同22万6000人減の78万5000人、継続購入会員数は同14万7000人減の84万6000人だった。

たしかに紙のカタログは製造コストがデジタルよりも高い。各ページの製作費(撮影・原稿・ページデザイン&レイアウト)だけでなく、カタログとしての印刷代・製本代・配送料がかかってくる。この印刷・製本代というのが実は書籍の場合、馬鹿にならない。
だから売れなくなったファッション雑誌は廃刊して、そろいもそろって「デジタル化」するわけである。
デジタル化はコスト削減以外にも消費者にとっても便利な一面もある。わざわざ誌面を持ち歩かなくてもスマホで閲覧できる。
ただ、千趣会が全く失念していたのは、自社の顧客層がデジタルカタログやウェブページからの購入を好むかどうかという点である。
端的に言えば、千趣会の現顧客層はデジタル化をあまり好んでいなかったということになる。顧客層が望んでいない手法は世間的に評価されたとて全く意味をなさない。メディアやコンサルに褒められても売れなければ意味がない。
それにしても23年12月末まで千趣会は業績をつるべ落としに落とし続けている。
近年、急速に通信販売事業の売上高が減少している千趣会。1000億円台を維持していたのは2017年12月期までだ(1012億7900万円)。紙媒体のカタログ発行部数を減らし、ECへのシフトを進めてきたが減収が続く。2020年12月期は巣ごもり重要などで増収に転じたものの、その後も減収決算が止まらない。通販売上はこの6年で5割以上減った計算になる。
とのことで通販売上高が6年で半分以下にまで縮小し、巨額の赤字が続いているとなると経営状態は相当に厳しい。すでに何人もの社員が退職しているとも内部からの声を聴く。腕に自信のある人は自主退職しただろう。
やみくもなデジタル化がどの企業にも適するわけではないということである。
実のところ、千趣会はちょうど6年ほど前から経営コンサルタントを契約している。一人のコンサルが続けているのではなく、何度か交代させている。ただ、どのコンサルの施策も結果としては全く効果が無かったということになる。業績は下がる一方だからだ。
デジタル化に限らず通り一遍の一律的な「指標」だけで評価し方向性を決めるのは危険だ。
千趣会の事例もそうだし、例えば「ユニクロ危機論」も同様である。ここ3年くらいはあまり聞こえなくなったが、「ユニクロはネット通販比率が低いから危機である」という言説である。たしかにユニクロは知名度と売り上げ規模の大きさの割にはネット通販比率は低い。
23年8月期決算でも国内ユニクロ売上高8904億円に対して、Eコマース売上高は2・3%増の1338億円しかなく、売り上げ構成比は15%である。
これを指して「ネット通販比率が20%に満たないユニクロは危険だ」という馬鹿げた言説があるのだが、ネット通販において1338億円もの売上高を誇っている単独衣料品ブランドは国内には存在しない。ユニクロのネット通販売上高は国内単独衣料品ブランドとしては他の追随を許さないほど巨大である。
いかに「ネット通販比率の高低という指標だけ」で評価することが馬鹿げているかという話である。
千趣会はデジタル化も進めつつ、自社の現顧客層に合った販促を模索してもらいたいと思う。ただ、難しいのは現顧客層がいつまでも生きているわけではないということで、そのうちに現顧客層は残らず死滅して新しい顧客層と入れ替わる。その時に備えて新顧客層の獲得も同時に行われなければならない。

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2024/02/20(火) 11:23 AM

    やっぱ紙のほうがWebサイトより一覧性が高くて見やすいんすよね。
    居酒屋とかファミレスとかも紙のメニュー辞めて携帯端末から注文するとこが増えてますが、アレも商品探すのが面倒で見にくいですよね。ま、お店側は注文取らなくて良いし間違いも無くなるんで良いんでしょうけど、売上は実は減ってたりしないんですかね?紙のメニューだとたまたま目に入って追加で注文てのもありそうですが。

    あとは、紙のカタログ通販だとリビングとかにカタログ放置するだろうから、ふとした時に目に入ってカタログ見ちゃうということもありそうですが、スマホじゃ意識しないとカタログ見ないだろうというのもありそう。
    誰か、この辺の人間の心理や行動をちゃんと研究したら、面白い結果になるんじゃないですかね?w

  • のえ より: 2024/02/20(火) 3:49 PM

    数十年前までベルメゾン良く買ってました。
    今は通販の同業他社が居て競争負けでしょうね。それとベルメゾンはコンサバティブな服が多くて今のベルメゾン世代のアラフォーは子育てに金かかるし微妙に高い価格のベルメゾンは買いにくい&着ていく場所がない服が多い印象。服に金使う20代の若者には認知度は低いしにっちもさっちもいかんね、
    あとサイズ豊富な靴を沢山販売してたの有難かったけどそっちは軒並み品数減らして服とかの方ばかりチカラ入れてるんかな。そりゃ需要も減るよね。カタログは届くけど欲しい商品がないのが一番の理由かな、、、

  • 元メンズアパレル業界の端くれ より: 2024/02/21(水) 11:03 AM

    激安靴でおなじみの「ヒラキ」で度々購入するので、季節ごとにカタログが届きます。
    注文自体はネットでしますけど、商品を探すのはカタログのほうが見やすくていいです。

  • 細野 より: 2024/02/21(水) 12:52 PM

    私はベルメゾンではなくてフェリシモの方をよく利用します。フェリシモもカタログをよく送ってくるのですが、一冊にまとめればいいのに、チラシみたいなのと冊子みたいのを何枚もバラバラにして送ってくるので、正直見るのが面倒くさいし、重いので処分が大変です。たしかにネット通販のサイトよりは見やすいですが、フェリシモの場合はネット通販の方がいいなと個人的には思います。

  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2024/02/22(木) 10:17 AM

    eコマースで売れる物は限られている上、
    カタログ通販業態のように多品種を売るには
    実はとても高コストという事が
    分かっていなかったんでしょうなぁ

    プラス、売ってるモノ自体は大型量販店の物と同じ
    となると、実際に手に取って買いたいのが人情ですし、
    大型品は今では配送サービスが良くなりました

    そして今では日本全国ひとの住む所から車で20分もいけば
    イオンなりニトリなりでお買い物できます

    「チャネルごとで売れる物が実はそうとう限られている」
    「なんでも問題解決な販売チャネルなど存在しない」

    こうした事実を理解するのに要した時間・20年
    費やした費用と見込んだ売上・いっせん億円
    うしなった人材・プライスレスww

    消費財を扱う人間が得た貴重な教訓だと思います

    もつとも、その裏でくちさき商売で儲けた人間が
    多少はいたでしょうがね

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