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南充浩 オフィシャルブログ

総合スーパーマーケットの衣料品事業を取り込み始めたアダストリア

2024年2月16日 企業研究 0

イトーヨーカドーが肌着・靴下類以外の衣料品から撤退すると報道されてから結構な時間が経った。

報道されている文章だけ見ると様々に解釈もできるため、現実的にはあり得ない解釈をする人もウェブ上では相当数見かけた。

普通に読んで理解するなら、イトーヨーカドーは外衣のPB類を全廃し、肌着類・靴下類(おそらくパジャマも含むと推測する)のPBや仕入れは続けると読める。

では外衣のPBを廃止した後の売り場はどうなるのかという問題があったが、これはヨーカドー側も明言してこなかった。

常識的に推測すると、空いたスペースには量販ブランドの直営テナントや自主管理売り場を誘致するのではないかと当方は考えてきた。今更、他社ブランド仕入れ品100%のヨーカドー自主編集売り場にしたところでさらに衣料品部門の利益率を悪化させるだけである。

 

そうしたところ、昨夜突然こんな報道があった。

 

イトーヨーカ堂が撤退した衣料品平場をアダストリアが改革 6月までに64店に導入

アダストリアは2月15日から、総合スーパーのイトーヨーカ堂(以下、ヨーカ堂)にヨーカ堂専用のアパレルブランド「ファウンドグッド(FOUND GOOD)」を供給し、販売している。セブン&アイ・ホールディングス傘下のヨーカ堂は、長年の低迷を受けて2023年3月に自前でのアパレル事業から撤退すると発表していた。まずはヨーカ堂の木場店(東京)、立場店(神奈川)の2店に売り場を設けており、6月までに順次64店に拡大していく。

アダストリアでBtoB事業を手掛けるビジネスプロデュース本部が商品を企画・生産し、ヨーカ堂に供給する。売り場の空間演出や販促もアダストリアが手掛け、ヨーカ堂スタッフに向けた接客研修、商品説明会も行うなど、商品だけでなくサービスも含めてアダストリアがノウハウを提供する形。

 

ヨーカドーが廃止したPB売り場をアダストリアによるヨーカドー専用ブランド「ファウンドグッド」で埋めるというプランで、すでに2月15日から木場店と立場店の二店舗で立ち上がっている。

単にアダストリアがヨーカドー用にデザイン企画し、生産してする納品だけではなく、接客研修やMD計画などもサポートするとのことである。

 

衣料品部門をどうするのかというのは、イトーヨーカドーのみならず、全GMS・全スーパーマーケットの共通の課題だが、効率から考えると今回はアダストリアだが、大手低価格アパレルに任せるべきだろう。

しかし、理想からいえばGMS・スーパーマーケットが自前でPBを運営した方が良いということに異論はないだろう。ただ、イトーヨーカドーのみならず全GMS・スーパーマーケットには最早、衣料品PBを育て教育できるような人材が内部にいない。外部から連れてくるにしても人選の勘所を経営陣が掴んでいない。

だから、亡くなった元伊勢丹のカリスマバイヤーを連れてくるような人選ミスをイトーヨーカドーは起こしてしまうのである。

イトーヨーカドーとしては今回の選択は決してベストとは言えないが、ベターといえるのではないかと当方は思っている。

 

一方、アダストリアからするとメリットしかない。

不振とはいえ、イトーヨーカドーの衣料品売上高をほぼそっくりそのまま手中におさめることができる。

イトーヨーカドーの衣料品売上高はどれほどかというと、

イトーヨーカ堂「アパレル事業撤退」の教訓【小島健輔リポート】

 

イトーヨーカ堂の衣料品部門の売り上げはピークの96年2月期の4568億円から06年2月期には3073億円と67%に萎縮し、15年2月期には1933.5億円と2000億円を割り込み、20年2月期には1175億円とピークの25.7%まで落ちている。以降は住関連と統合したライフスタイル部門の売り上げしか開示されていないが、直近の22年2月期は2199億8500万円と20年2月期の2859億8500万円から77%に減少しているから、衣料品売り上げは1000億円を割り込んで900億円程度まで落ちたと推計される。

と推測されている。

この記事が書かれたのが2023年3月のことだから、現在はもう少し落ちて800億円台~700億円台ではないかと個人的には考えるのだが、アダストリアの売上高は23年2月期で2425億5200万円で2024年2月期の見通しは2600億円である。ここに仮にイトーヨーカドーの衣料品売上高のうちから400億円だけでも引き継ぐことができれば、売上高3000億円の大台を突破できてしまう。

仮に売上高400億円とすると、アダストリアで最大売上高を誇るグローバルワークの23年2月期売上高455億9700万円に匹敵する金額となり、売上高第2位のニコアンドの298億2500万円よりもはるかに大きい。

イトーヨーカドーの衣料品売り場を手中におさめることによって企業規模が大きくなるばかりでなく、生産・仕入れのスケールメリットもさらに強めることができるようになる。

 

今回のイトーヨーカドーの件については日経新聞には

イトーヨーカ堂撤退の衣料品、アダストリアから商品供給 – 日本経済新聞 (nikkei.com)

「撤退を見据えてアダストリアと1年以上議論を重ねてきた」(ヨーカ堂幹部)。今回の取り組みはセブン&アイ、ヨーカ堂双方にとって祖業といえる衣料品販売について、自前路線撤退からの新たな成長戦略との位置付けだ。

とのコメントがあり、撤退早々から両者の協議が始まっていることがわかる。

ヨーカドーがアダストリアに撤退前から相談を持ち掛けた理由としては、アダストリアの政治力(笑)以外に、アダストリアが中四国のスーパーであるイズミとのコラボブランドを開始した実績が大きいのではないかと推測される。イズミとのコラボブランドではアダストリアはあくまでもテナント出店という形で、今回のイトーヨーカドーはコラボブランド投入+売り場全体のディレクションという形になるので規模感は違うが、イトーヨーカドー革からすると「アダストリアは我々スーパーマーケットのことを他アパレルよりも深く理解してくれている」という判断に至ったのではないだろうか。

また、アダストリアの経営に近い関係者からは「直営店販売、EC事業に次ぐ第三の柱がBtoB事業となる」というコメントも私的にはいただいている。

スーパーマーケットとのコラボ以外にBtoB事業としては制服・ユニフォームへの対応も含まれている。

そのうえで「メリットがあれば他のGMS・スーパーマーケットとの取り組みもあり得る。現在、他のGMSからの依頼・要望も来ている」としている。

 

現在、国内市場は低価格ゾーンでは、ユニクロ、しまむら、ジーユーが大きな割合を押さえてしまっていて、直営店展開とネット通販のみではその牙城に迫ることは難しいし、競争云々以前に伸びしろを探すことも難しい。そうなると奇策が必要となるが、アダストリアはGMS・スーパーマーケットの衣料品部門を取り込むことに活路を見出したといえる。

ちなみに日本チェーンストア協会は、22年度の全国スーパーマーケットの衣料品売上高を7434億円と発表しており、仮にこの半分を取り込んだとして3500億円くらいにはなる。

捕らぬ狸の皮算用になってしまうが、それをアダストリアが取り込んだとするとアダストリアの売上高は一気に6000億円台となり、しまむらと肩を並べるまでになる。

とはいえ。今回のイトーヨーカドーとの取り組みが失敗すればこの企ても水泡に帰す。

どのような展開を見せるのか、外野から生暖かく見守ってみたい。

 

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