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南充浩 オフィシャルブログ

家電量販店を積極的に誘致する近鉄百貨店の戦略は現時点では正解だろうという話

2024年2月1日 百貨店 0

百貨店と一口に言っても、各社ごとに客層が異なる部分がある。また各社の中でも都心大型旗艦店と中小型の地方郊外店は客層や好まれる商品が異なる。

百貨店=ハイファッションという構図が成り立ってもう長い時間が過ぎているが、ハイファッションに強いと言われている伊勢丹新宿本店や阪急うめだ本店がそのままの形で多店舗化することには成功していない。

もちろん、ブランド誘致に際して近隣競合百貨店からのさまざま圧力はあるだろうが、それはお互い様である。

個人的には、伊勢丹新宿や阪急うめだ本店を日本各地に作って多店舗化することはこれまでの歴史を見ても不可能なのだろうと思っている。

理由は競合他百貨店からの圧力以外に、あの手のハイブランドを欲しがる人間の数が全国的にそんなに多くないということがあるだろう。

そして、中小型の地方郊外店は不採算が改善されないままに閉店が進んでいる。それはそれで当方は仕方がないと思っていて、別段無理に存続させる必要はないと思っている。

 

都心大型旗艦店では昨年、西武池袋店のヨドバシカメラへの売却が話題となったが、そごう西武という企業全体では利益が少ない上に巨額債務もあるのだから、個人的には売却は極めて当然だと思っている。というか、当方がセブンアイの経営者ならそもそも買収していない。

ヨドバシへの売却反対の意見には「都心大型百貨店が家電量販店に変わることなんてケシカラン」という考えが共通しているように当方には感じられたのだが、すでに池袋西武の周りには元百貨店だった大型家電量販店が複数存在するので何がケシカランのかさっぱり理解ができない。

現在の人流を見ていると家電量販店はハイファションよりもある意味で集客装置となっている。

 

そんな中、近鉄百貨店の各店のリニューアル戦略はなかなか興味深い。

近鉄百貨店「郊外店も閉めない」 積極投資で低層階を活性化 | 繊研新聞 (senken.co.jp)

「全店黒字。今後も店を閉める予定はない」。そう語るのは、近鉄百貨店の秋田拓士社長だ。奈良、上本町店など「中規模・郊外店」9店の収益のさらなる拡大を目指した改装に取り組む。収益性の高いFC事業や本店で構築した〝スクランブルMD〟を組み合わせながら、各店の低層階の活性化に着手する。

中規模・郊外店は、近鉄沿線の駅立地にある。上層階に家電量販店などの大型テナントや行政施設を誘致・導入して館を多機能化する「タウンセンター化」を進めながら、低層階で「稼ぐ」収益構造への転換を順次進めてきた。23年度は9店とも黒字という。今春からの改装は、収益性をさらに高めるものだ。

 

とある。

近鉄百貨店は都心大型旗艦店は天王寺にあるハルカス本店のみであとは中小型の地方郊外店ばかりだ。地方郊外店を安易に閉めるとスケールメリットが享受できなくなる上に、企業としての収益構造が揺らぐ。

そのため、地方郊外店を活性化させざるを得ないという背景がある。

具体的には

上本町店は「エディオン」(17年春)、「ニトリ・エクスプレス」(18年春)など上層階に賃貸借契約の大型テナントを導入する一方、地下1階に「成城石井」(22年6月)、2階に「プラグスマーケット」(23年4月)を開設してきた。今春は1階化粧品売り場を圧縮し、「レディスファッション、雑貨、婦人洋品を混在化した1階にする」(同)。クラスカ(東京)の「クラスカギャラリー&ショップ〝ドー〟」を新規導入し、既存のツジ(三重県伊勢市)の婦人服セレクト店「ファーレ」と婦人洋品を改装する。この三つの売り場を統一環境で構築し、「共同運営型」のファーレを含め自社社員で運営する。

奈良店は22年11月、賃貸借契約で「ケーズデンキ」を6階に新規導入し、2階婦人服にライフスタイル雑貨「ハンプティーダンプティー」、フルーツカフェ「フルフルール」のFC店などを開設してきた。今春から今秋にかけて1階を改装する。今春に「今までに例がない形」のFC契約店を開設するほか、本店タワー館4階に開設した衣料・食・雑貨を組み合わせた自主売り場「サロンドゲート」の奈良版などを秋に開設する計画だ。いずれも1階の魅力化・個性化が狙いだ。

とある。

上本町店はまだ比較的都心にあるが店舗面積はさほど大きくない。都会下町の百貨店という感じである。奈良店は完全に郊外である。

この2店ともに大型家電量販店をフロアに誘致している。

そもそも、都心大型旗艦店たる、あべのハルカス本店でさえ専門店を集めたウイング館に家電量販店のエディオンをテナント出店させている。

都心大型旗艦店とはいっても、あべのハルカス本店ですら昔から「庶民派百貨店」と言われており、恐らく現在でもそのような位置づけだろう。

当方の亡母、元妻、元妻母もハルカスになる前の「近鉄阿倍野店」時代には、3000円均一の婦人靴とか5000円均一のレディースバッグを定期的に買いに出かけていた。近隣住民からすると「3000円均一、5000円均一でバッグや靴が買える庶民的百貨店」という認識だった。

そういう位置付けだから、地方郊外店やハルカスウイング館に家電量販店をテナント誘致することも可能だったと思われる。恐らくは他の百貨店関係者は「庶民的近鉄さんはできるが、伝統と高感度がナンタラな当社には無理」というような意味合いのことをおっしゃられると思うのだが、それを貫いた結果として不採算が改善されずに地方郊外店が閉店となるのであれば、家電量販店でも何でも誘致して黒字化して存続を図った方がよほど効率的である。

家電量販店に加えて、決して高級ブランドではなく量販ブランドよりもワンランク程度上の商材を集積させるという近鉄百貨店の戦略は今の時代に非常にマッチしているのではないかと思う。

地方郊外店の存続に苦戦している他百貨店は参考になる部分が大いにあるのではないかと思う。

 

 

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