フランドルの買収に盛者必衰を感じた話
2023年12月27日 企業研究 8
「イネド」を展開しているフランドルが不動産会社に買収された。
ランドビジネスがフランドルの全株取得 服飾事業を強化 | 繊研新聞 (senken.co.jp)
東証スタンダード市場上場の不動産業、ランドビジネス(東京、森作哲朗社長)は、「イネド」などを企画・販売するフランドル(東京)の全株を取得し、子会社化したと発表した。12月22日開催の取締役会で決議、株式譲渡契約を締結した。フランドルは同社の連結子会社となる。取得価額は非公表。
ランドビジネスは、21年3月にメーカーズシャツ鎌倉の紳士重衣料のカスタムオーダー事業を譲り受け、23年5月と10月に縫製業のジェンツとサンク(ともに福島県)をそれぞれ買収している。ジェンツは紳士服、サンクは婦人服が主力。縫製事業に加え、フランドルをグループ会社化することで全国に販売網を得た。製販一貫を強みに、「巨大マーケットである婦人プレタポルテ市場へ参入する」(同社)考え。
とある。
WWDにも記事が掲載されているがほとんど同じ文面なので、ランドビジネス側かフランドル側からのプレスリリースを記事化したものだろうと推測される。
40代後半以上の方にはいろいろと感慨深い事象なのではないかと思う。
まず、90年代に超人気ブランドだった「イネド」を擁するフランドルというアパレル企業が凋落し、ついに買収されてしまったということに驚かざるを得ない。諸行無常・盛者必衰を絵に描いたような事態である。
23年2月期の業績は、売上高69億円、営業利益5400万円、純利益2200万円だった。従業員数は386人。
とあるが、その営業利益率の低さと売上高の激減ぶりに驚いてしまう。営業利益率はわずかに0・78%しかない。また、売上高だがフランドルは非上場企業なので原則非公表だが、ピーク時の90年代には数百億円だったと耳にしているが、多く見積もっても5分の1~6分の1にまで縮小してしまっており、この縮小ぶりにも驚かざるを得ない。
さらに言うなら、21年2月期と比べると32億円強も売上高が減少している。2年で32億円の減収だから平均すると毎年16億円ずつ減収していたということになり、そりゃ身売りせずにはいられなくなるというものである。
ファッションと着心地を軸に新たなマーケットを開拓―フランドル | 経済界ウェブ (keizaikai.co.jp)
上記の2021年3月29日掲載の記事には「売上高102億9040万円」と書かれている。
フランドルは1980年(昭和55年)に創業されている。創業者の栗田英俊氏がファイブフォックスから独立した。80年代、90年代と絶好調で「イネド」は超人気レディースブランドで、90年代にはメンズの「イネドオム」もあった。
ところが2000年代になると勢いに陰りが見え始めた。陰りが顕著になり始めたのは2000年代半ば以降だろう。そして2010年代に入ると完全に失速してしまった。
それは当方のような何の接点も無い人間からしても明らかで、ファッション雑誌などのメディアへのブランド露出が如実に減少して行った。また2000年代半ば以降になると、「イネドを愛用しています」という若い女性を見かける機会も激減した。
その結果、2010年代に入ると若い女性の間で、イネドというブランドの知名度、フランドルという会社の知名度は恐ろしく低くなってしまっていて、ファッション専門学校の女子学生に尋ねても誰も知らないくらいになっていた。
オンワード樫山、ワールド、レナウン(倒産)、TSIなどのかつての大手総合アパレル各社も若い世代への知名度は同様に低下していたので、これは各社共通の傾向だったともいえるが、個人的体感でいえば、ワールドやオンワード樫山よりもフランドル、イネドの知名度低下の方が激しかったと感じている。
フランドルもただ手をこまねいていたわけではない。いろいろと手を打ってはいるが効果は出ていないだけのことである。
例えば2011年には三陽商会と業務提携している。
三陽商会、フランドルと業務提携 経営効率高める – 日本経済新聞 (nikkei.com)
しかし、続報が無いので効果があったのか疑問である。何よりもまだ続いているのだろうか?
また、著名人やインフルエンサーとのコラボもかなり頻繁に行っている。
フランドル「イネド」 エディター三尋木奈保さんと協業企画
フランドル「スーペリアクローゼット」 上野樹里さんの「トゥイカウリ」と協業企画
フランドル「エム・マーリエ・ル・カセット」 ママインフルエンサーと〝品あり夏服〟
フランドル「エム・マーリエ・ル・カセット」 冨張愛さんと協業企画
「エム・マーリエ・ル・カセット」 吉田理紗さんとの協業商品を販売、期間限定店も
上記はすべて2023年内のコラボである。
これだけ頻繁に自社の各ブランドでコラボしながら減収が止まらないということは、インフルエンサーコラボで大きく10億円単位で売上高を回復させることはフランドルに限らず難しいのではないかと考えられる。
フランドルは創業者が退任後、実子が二代目社長となっていたが、2020年に取締役に降格となり外部の三代目社長が就任している。
Japan|フランドルが改革成功で栗田社長が取締役へ降格 |
ヤングカジュアルウェアメーカーのフランドルは、6月1日に栗田貴史代表取締役社長を取締役に降格し、2018年8月から執行役員として経営に携わってきた戸田隆行氏に代表権を一本化した。戸田氏は1980年生まれの慶應大学卒で経営コンサルタント会社TRAILの代表取締役でもある。戸田氏は2020年2月期決算でフランドル社の連結営業損益を黒字化するという経営課題をクリアしたために今回の人事となった。
今回取締役に降格した栗田貴史氏は、創業者栗田英俊現同社会長兼名誉顧問商品企画アドバイザーの実子。栗田会長は、2018年10月1日からの新経営体制時に代表取締役から退いていた。今回の人事により栗田ファミリー色が同社から大きく消えそうだ。戸田体制で今回の「コロナ・ショック」を乗り越えられるかどうか注目される。
とあるが、「コロナ・ショック」は乗り越えられなかったといえる。
23年2月末はまだコロナ自粛の影響が残っていたので不運な側面もあるが、22年後半からは復調傾向の他社ブランドも少なからずあるので一方的な同情は難しい。ただ、創業家の影響力が薄れたことで身売りしやすくなった部分は大いにあるだろう。
それにしても全盛期のフランドルと「イネド」を知っている者からすると、10数年間でここまで凋落したことを思うと世の儚さを思うばかりである。
そんな「イネド」の商品をどうぞ~
comment
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kた より: 2023/12/27(水) 12:41 PM
時代背景だけで作れば売れた時代の典型的な事例。
作る服に価値を追求せず、最後まで無形の何かに縋る対策しか打たない。
なるべくしてなった末路。規模感で違いはあれど服売るなら服作る以外に策ないと思う。 -
ハマオ より: 2023/12/27(水) 2:42 PM
20世紀の会社がまた一つ寂しい結果になりますね
ピーク時ファイブフォックスグループ3社で
3000億位あった売上が直近では500億ないかと思いますし
ほとんどのショッピングセンターにあったコムサイズムも
全く見なくなりました。
自由の女神の会社も関東と一部関西に縮小してますね
イトキンもほとんど見なくなりましたね -
元メンズアパレル業界の端くれ より: 2023/12/27(水) 6:49 PM
先月ブラックフライデーの際にイオンスタイルに行ったときにイネドオムブランドの商品が並んでいて、全然高級感の無いブランド扱いになっていて驚いたところでしたが、、、完全に廃れてしまいましたね。
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Joey より: 2023/12/27(水) 8:15 PM
フランドルって、まだあったんだ…というのに驚きました。
昔スーツか何かを買った記憶があります。
高いだけのブランドはお呼びでない時代になりましたね。 -
読者 より: 2023/12/27(水) 9:26 PM
このニュースは驚いた
昔はイネドオムでギローバーコラボのワイシャツがセールで叩き売りしていてよく購入した。
二千円台だったし末期のアッティラというセレクト業態のはアウトレット店で千円台だった記憶。
ユニクロより安い値段でインポートパターンのシャツ買えて重宝したが、大赤字だったと思う。商品の品質は高いけど販売力が低かったし、そもそも創価学会系の力が強かった印象。
宗教じゃない人は良い人多かったけど、一部の信者がキツかったな。
女性社員は優秀だったけど男子社員のレベルがセレクト系企業と比して低レベルで話にならなかった。
栗田父は優秀だったけど息子は凡人だった感じ。新しい会社がどう舵取りするのか興味ある。
顧客は高齢化してもはやあまり価値ないだろうけど、販売網は価値あるのかな?
今の利益率は正直業態転換して販売代行業になって他社セレクトの地方支店販売のほうが
儲かりそうな気がするレベルの売り上げでしたな。 -
昔人間 より: 2024/01/16(火) 9:59 AM
80年代のDCブランドの流れをくむアパレルブランドの終焉。
昔は良かったと嘆いても仕方ないが、ファッションに憧れのあった時代。
男女ともマルイカードの月賦やセゾンカードのリボ払いでブランドの服を買って着ていた時代ははるか昔の事。
レディスでいえば、もう少し下の世代に指示されていたUNTITLED、NBBも下降路線の一途。
今はユニクロでも郊外型紳士服チェーンでもレディスの仕事服が買える世の中で
作業着やパジャマと一緒になったスーツが売られている時代。
女性の社会進出や共働きが定着したにもかかわらず、キレイ目のアパレルが売れないのは
まだまだ女性のエクゼクティブが少ないからなのか、一足飛びにメゾンブランドに向かってるからだろうか。 -
元フランドル より: 2024/07/10(水) 10:20 PM
元フランドル社員ですが、今の転落はなすべくしてなった結果。
能力不足の人材達が我が物顔で運営しているんだから当然でしょ。
辞めて本当に本当に良かった😌
残念ながら時間の問題かと。
この記事は無駄な事実の羅列や無意味な考察が
いっさい無い、極めて良質な論評だと思います
しかもデータに基づく分析だけではなく
実態調査の結果も含まれている
まず冒頭の1行が良いです
>「40代後半以上の方には」感慨深い事象
世紀末にイネドや23区を買ってた層は
今では住宅ローンと教育費であっぷあっぷw
百貨店はもちろんファッションビルですら
服なぞ買いません
そして彼女らと入れ替わっているべき層は
>ファッション専門学校の女子学生に尋ねても
>フランドルもイネドも誰も知らない
ミジンコ1匹いない池で、釣り名人なw
コンサルが釣り糸たれても、そら無駄に決まってる
そして最後は異業種で金回りが良いところが
イメージだけで買収して、おしまい・・・
最後のプレスリリースの引用がまた良いですねぇ
>今回の買収で全国に販売網を得た、製販一貫を強みに
>巨大マーケットである婦人プレタポルテ市場へ参入する
売れもしないモノを製販一貫してどーするんでしょうかね?
そして、二ホンの婦人既製服の中の
百貨店やファッションビルが販路のセクタが
巨大マーケットでしたっけ?
私、そんな話、いま初めて聞きましたw
㏚を含め、ボロ会社売買専門集団が仕組んだのでは
ないのかな?「ゴミ商売で大儲けしたなら、ここで
かっくいい業界にしんしつしてイメージウプでしょう!」
とかなんとかいっちゃってwww