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南充浩 オフィシャルブログ

「安さと快適性」に勝てなくなってきたワコールの苦境

2023年11月10日 決算 4

2010年代半ば以降、ジワジワと暗い影が押し寄せてきた感じがするワコールHDだが、いよいよ苦境が顕在化し始めたといえる。

 

ワコールホールディングスがワコールで希望退職募集へ 米国子会社を清算 | 繊研新聞 (senken.co.jp)

ワコールホールディングスは11月9日、ワコールの事業構造改革、米国のインティメイツ・オンライン(IO)の清算、役員報酬の減額などを発表した。これに伴い、23年9月中間期と24年3月期の業績を大幅に下方修正。24年3月期の売上収益は前回予想から90億円減の1960億円、営業損益は180億円悪化し、120億円の損失となる見込みだ。

 

とのことで、今回の大幅な営業赤字の要因のほとんどは米国のIO社の不振とその解散による特別損失にある。

 

19年7月に買収した米国のIOは、ECを主販路に、ソーシャルメディアを中心としたデジタルメディア戦略で成長を期待していた。ただ、個人情報の利用制限や競合激化で、21年3月期以降、純損益段階の赤字が14億円、17億円、16億円と続く。今後も回復は困難と判断し、撤退を決めたものだ。米国の法制に従い、清算は25年3月末を見込む。IOの撤退に伴い、24年3月期にのれんの減損損失や在庫評価損などで、現時点73億円の損失を計上する予定だ。

 

とのことで、「米国でEC販路、ソーシャルメディアを中心としたデジタルメディア戦略」と、経済イキリとITイキリが好きそうなパワーワードが並ぶ米国企業だったが、コロナ禍ということも手伝ってか赤字続きであえなく解散となった。損失は73億~74億円に上ると伝えられている。米IO社の不振は競合が増えたことと、個人情報保護が強まったことだと伝えられているのだが、競合が増えて淘汰されるというのは、ネット通販も最早通常の実店舗と変わらない。「ネット通販なら必ず売れる」なんていうのは、すでに寝言の類となったことがわかる。

ワコールHDの24年3月期第2四半期連結は

売上収益 961億3000万円(対前年同期比2・4%減)

営業損失 33億8400万円

四半期損失 43億9600万円

となっている。

また24年3月期連結の通期見通しは

売上収益 1960億円 (同3・9%増)

営業損失 120億円

当期損失 108億円

に下方修正されており、増収ではあるものの赤字額は残り半年間でさらに増える見込みとなっている。

売上高が大きいし、過去の資産もあるだろうからすぐに経営が破綻する可能性はゼロだが、減収減益傾向が今後も長く続く可能性はそれほど低くないと個人的には見ている。

 

当方は97年に業界紙記者で入社してから2年間か2年半くらい婦人肌着も担当していた。そのときにワコールも担当させてもらった。正直ブラジャーには一片の興味も無かったし今も無いのだが、業務ということでは何とか勉強した。その当時の国内市場でいうと、ワコールというブランドへの女性の支持率はかなり高かった。同業他社と比べて圧倒的だったという体感がある。これを猛追していたのがトリンプインターナショナルジャパンだった。両社の現在の状況と比べると隔世の感が強い。

その後、担当から外れ、業界紙記者も退職して以降は元来女性肌着になんて何の興味も無いので、熱心には追いかけなかったが、2000年代半ば以降、ワコールの牙城が崩され始めるようになったということは断片的に知っていた。

そう。ユニクロにである。

ユニクロのブラトップが快適性と低価格を武器に急速に女性購買者数を伸ばしてきたのである。

例えば、これは2018年9月の記事だが

ワコールはユニクロにどう対抗していくのか 「大勢に宣伝する売り方はもう通用しない」 | ニュース・リポート | 東洋経済オンライン (toyokeizai.net)

すでに5年前にこういう記事が掲載される状況にあった。

この記事には「2017年の婦人下着の国内シェア」の円グラフが掲載されている。

1位はワコールでシェア率20・1%

2位がユニクロで20・0%

3位しまむら12・8%

4位トリンプインターナショナル7・9%

となっている。

すでに2017年の時点でワコールとユニクロの差はわずか0・1%にまで縮んでいた。そして、しまむらも13%弱にまでシェアを伸ばしていた。

そしてついに2021年春にはユニクロのシェア率がワコールを追い抜いてしまう。

 

ユニクロが女性用下着首位に、ワイヤレスブラ伸長-在宅で着心地優先 – Bloomberg

  • Fリテイリ(ファーストリテイリングの略)のシェア22%、ワコールの20%を抜く-ユーロモニター

という状況になり、22年、23年も恐らくは変わっていないだろうと推測される。もしかするとシェア率はさらに差が開いているかもしれない。

 

カップにワイヤーが入った従来型のワコールのブラジャーが、ノンワイヤーでしかもキャミソールに内蔵されているというユニクロのブラトップに追い抜かれたということである。理由は低価格と快適性の2点である。

ブラジャーを装着することが無いし、今後も装着したいとも思わないので確実な着用感を体感することは永遠に無いが、ワイヤー入りのカッチリとした従来型のブラジャーとブラトップのどちらが「楽な着用感」かと問われると明らかにブラトップだろうということは容易に想像できる。

安くて楽な方を多くの人は選ぶという典型である。

 

そして、もう一つ見逃せないのが、「ワコール」という社名とブランド名はワコールの中の人が思っているよりも知名度が低くなっているという点である。他方ユニクロは圧倒的に全世代での知名度が高い。

ワコールというと、30代半ば以上か40代以上の中高年女性には今でも圧倒的な知名度の高さとブランドステイタス性を持っているが、それ未満の世代では知名度もそれほど高くないし、ブランドステイタス性も無い。

知名度の高くない物をわざわざ検索して買うような人間はほとんどいないし、ブランド名・社名すら知らなければそもそもウェブ検索することすらできないのである。

今後、上の老人層が寿命で消えてゆくごとにワコールは顧客数を失うことになり、持ち上がったかつての若年層が新たにワコール客になる可能性が極めて低い。一方、ユニクロは今の若年層が持ち上がって中高年になっても商品力が落ちておらずに極端な値上げが無ければそのまま購買され続けるだろう。

ワコールが取り組むべきは新たに良い商品を開発することもさることながら、30代半ば以下の層に知名度を高め、ブランドステイタス性を認識させることだろう。ただし、これは一朝一夕にできることではないから、かなりの長期的な取り組みが必要となる。恐らく、もう小手先の販促キャンペーンで何とかなる状況ではなくなっている。

 

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 comment
  • 細野 より: 2023/11/10(金) 12:33 PM

    ワコールの下着はレースとかフリルなど過剰な装飾が施されていて、すごく恥ずかしいです。なんだか店の中に入るのも気後れしてしまいます。その過剰な装飾で服が盛り上がったりして、洋服のラインが崩れるのも残念です。その上、値段がとても高い。ユニクロの下着は全然服のラインを変えないので、とても便利です。

  • 大阪のオバチャン より: 2023/11/11(土) 12:37 AM

    私も普段は、ユニクロのブラトップを着用しています。
    たまには素敵な物を選ぶ時もありますが、ワコールでは買いません。
    外国の下着メーカーの物の方が色もデザインも美しくて好きです。
    ワコールはフリルやレースが、イマイチです。

  • 忍者猫 より: 2023/11/13(月) 1:37 PM

    ワコールでは、ボディサイズのデータを取っているらしいですね。それによるとブラジャーをつける女性のプロポーションは変わってきているとのこと。

    JIS規格の婦人物のサイズは何十年前から変わっていないと思われますが、変わったのでしょうか?
    なんとなく、素人観察では、平均的な寸法は変わってきていると思います。
    仮にそうだとして、どうしてずっと、同じJIS規格で服が作られているのか?
    ひどいと、フリーサイズ とかいう謎のサイズや、9と11しかないとか、7,9,11、あるいはS,M,Lしかないのです。サイズにバリエーションを増やすと、価格が上がるので、サイズが少なくなる方向にあるのでしょうか。

    自分より大きなサイズと推定される人が素敵な服を着ていると、どこで買っているのか?、オーダーしているのかと気になります。

    服にくらべて、下着メーカーさんはサイズ展開が豊富な点がうれしいです。
    でも下着業界も方向性としては、サイズ展開は少なく、ストレッチ生地、イージーフィット(ルーズフィット?)にいくんでしょうか。

    下着のレースはいらんですね。薄手のシャツのシルエットを崩します。
    ああいった過剰装飾の下着は、見せるための下着なのか?開発陣は女性なのか?男性なのか?謎です。

  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/11/13(月) 5:53 PM

    百貨店ネームのラインは大丈夫でしょうが、
    スーパーの売場はどうするつもりなんですかね?

    IYもAEONもブラトップつまりカップ内臓肌着を
    やってるから
    トリンプワコールの売場と競合しちゃってるんですよね・・・

    しかし、中の人たちは、売場の大家が
    競合相手だと思っていない・・・

    似たような構図が一時ぎょーかい人間が持ち上げてた
    アモスタイルなどにも言えます

    ・機能下着なら、ウニクロその他
    ・ちょっとメルヘン下着ならハニーズ
    ・愛人に買ってもらうなら百貨店でワコールw

    という構図になってますなぁ

    問題なのは、稼いでる総合職とか専門職の層にまで
    ウニクロ等の下着が普及している点

    若い子にいわすと、メンテを気にせずによくて
    ちょっと傷んだら、即ゴミ・新品購入
    いまどきはチョメチョメdayでも
    下着ウニクロでOKなんだそーな

    夢がない時代になったものだのぅw

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