MENU

南充浩 オフィシャルブログ

ラブレスの盛衰に見る「属人的要素」の重要性

2023年7月6日 企業研究 3

アパレルに限らずすべての仕事においては引継ぎやマニュアルの存在は前提としても「属人的要素」が成功・衰退の鍵になるといえるのだろう。とりわけアパレルは属人的要素が大きいと感じる。

「ラブレス」が心斎橋店を閉店 3店舗体制に (fashionsnap.com)

三陽商会のセレクトショップ「ラブレス(LOVELESS)」心斎橋店が、7月17日に閉店することをインスタグラムで発表した。2010年のオープン以来、約13年にわたる営業を終了する。

営業終了の理由は、これまで閉店してきた店舗と同様に、採算が合わなかったという。閉店に伴い、同店では7月17日までの期間、閉店イベントを開催している。

ラブレスは2020年2月末時点で15店舗を展開していたが、事業の立て直しの一環で縮小が続いており、今月30日には名古屋店も営業を終了する予定。心斎橋店の閉店をもって実店舗は青山店、ニュウマン横浜店、天神店の3店舗体制となり、関西エリアの店舗はゼロとなる。

 

とのことで、このところ、不振が続き浮上のきっかけさえつかめない「ラブレス」が7月17日に大阪・心斎橋店を、7月30日に名古屋店を閉店し、国内三店舗体制となる。記事中に「関西エリアの店舗はゼロになる」と書かれているが、名古屋圏もゼロになるのにそれは無視するんか?と疑問を感じてしまう。個人的には残り3店舗もそう遠くない未来に閉店に追い込まれると見ている。

 

ここ何年間かは三陽商会の中でもとりわけ不振ブランドとして高い認知度を誇るようになってしまった「ラブレス」だが、実は2010年代前半には「好調ブランド」として業界内からは注目されていたという輝かしい過去がある。

もちろん三陽商会の屋台骨を支えるような何百億円単位の売上高にまで成長することは無いと目されていたが、数十億円規模で利益率を確保できるという立ち位置で評価されていたのである。

例えばこの過去記事。2015年4月の記事である。

三陽商会、ラブレスなどセレクトショップ事業が好調 (fashionsnap.com)

三陽商会のセレクトショップ事業が好調に推移している。過去5年連続で売上計画を達成したほか、2015年1-3月の売り上げも2ケタ増で推移するなど、健闘が目立つ。

大阪・心斎橋に「LOVELESS」(2010年9月オープン)を出店するが、昨年7-12月が前年同期比118%、今年1-4月12日までの推移が同110%強と好調に推移している。

とある。

例としてこの記事だけを提示したが、2010年代半ばまでは売上高は数十億円と小粒だが、三陽商会の中にあって好調を維持している数少ないブランドとして「ラブレス」は業界内には知られおり、そのような記事がいくつも掲載されていた。

2010年代後半になるとラブレスの話題があまり報道されなくなったと気が付いた。正直、気が付くまで存在を忘れていた。以前から書いているように、話題にならなくなるというのは、高い確率で不振に陥っている場合が多い。

そう思っていたら、コロナ禍真っ最中の2020年12月にこんな記事が掲載され、一気にラブレスの不振ぷりが日の目を見ることになった。

【トップに聞く 2021】三陽商会 大江伸治社長 ラブレスの不振は「素人遊びの結果だ」 (fashionsnap.com)

 

特にラブレスはあれもこれもと仕入れてしまったために5000品番もある状態になっていた。そもそもセレクトショップの競争力の根幹となるのは編集力。編集力というのはブランドディレクションをきっちり立て、商品を集約するということ。それを忘れ、無計画に量だけを増やしたことでキャラクターが曖昧になってしまった。一時はエッジの効いたこだわり商品でちょっとした話題を瞬間的に呼んだらしいが、今はコンセプトが二転三転しているでしょう? 1匹の魚を大きな網で捕るという、リスクがないと思われたやり方で最大のリスクを冒してしまった。これは素人遊びの結果だ。

 

と極めて手厳しい表現で自社社長から非難されている。

マーチャンダイジングの基本だが、品番数を増やせば増やすほど売れ残り在庫が増える可能性は高まる。1品番ごとの仕入れ枚数・製造枚数は少ないかもしれないが、数枚残った品番が2000、3000もあるなら、投げ売りセールをしても全品番を消化できることは極めて難しい。処理不可能となった不良債権在庫がシーズンを追うごとに積み上がるということになる。だから5000品番も仕入れたり作ったりするのは、この当時のラブレスのバイヤー・ディレクターが素人だったと非難されても仕方が無い。

この記事が掲載されたくらいから、ラブレスの内情が業界内外でささやかれるようになった。敏腕のバイヤー・ディレクターが退職したあと、本当に素人同然の人間がその職を継いだというのである。

 

ブログコメントやSNSで敏腕だったのはY井氏ではないかとありがたいご指摘をいただいたので、修正しておく。

 

 

で、ここから考えると、通常の企業であれば前任者からの基本的な引継ぎは後任者にあったのだろうと考えられる。またマニュアルもある程度はあったのだろうと考えられる。(三陽商会の内情はそこまで詳しくないが上場大手企業ならあって不思議ではない)

しかし、引継ぎとマニュアルだけでは、敏腕前任者のノウハウすべてを後任の素人は獲得できなかったわけである。まあ、何事もそうだが、マニュアルだけで敏腕や辣腕になれるわけではない。なんぼYouTubeでノウハウ動画を観ても実践で練習とトライアンドエラーを繰り返さないと世の中のマス層である当方も含めた凡人はノウハウを獲得できない。

特にバイイングやブランドディレクションという仕事はもちろん計数管理の部分も重要だが、センスや直感という属人的な要素にも大きく成否は左右される。後任素人は恐らくどちら能力も不足していたのではないかと考えられる。

 

ラブレスのプチ成功からの急転直下の大幅縮小は、まさにアパレル業界の「属人的要素」の重要性を顕在化させたといえるだろう。ラブレスに限らず、バイヤーやディレクター、プロデューサー、マーチャンダイザーが交代すると途端に不振になるブランドは過去も現在も珍しくない。

ラブレスの残る3店舗も10年以内には全店無くなっていると当方は予測している。

 

そんなラブレスの商品をAmazonでどうぞ~

 

この記事をSNSでシェア
 comment
  • 読者 より: 2023/07/06(木) 12:43 PM

    http://www.fukudb.jp/node/26522

    ラブレスと言えばこの吉井のイメージが強かったので南さん紹介のこの人は知りませんでした。
    確かに吉井は人脈が凄いしチョイスする感覚は超一流なんだけど、
    数字が全くダメなのでだいぶ後で関与したベイクルーズも実質クビみたいになってた。
    ラブレス自体は当時グリーンを吉井の力で引っ張って販売し業界でも最先端行ってた。
    他方でそれは限られた規模でしかできないやり方で多店舗化大規模化には合わなかったように思う。
    おそらくはこの人が吉井がいなくなった後も地味なコントロールで規模を拡大したが、
    この人が退社して組織崩壊したんでしょうなぁ。

    吉井さんは昔高校生の時だったかゲットワイルドのイントロ初めて聴いて失禁したとか言う
    話をやたら盛るというか面白いオッサンというかゲ○です業界アルアルw

  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/07/06(木) 3:21 PM

    おなべ・やかんはこの業界に欠かせぬスパイス~www

    それはさておき、

    get wildのイントロ聴いて射セイだかおもらしだかをした
    とゆーネタがいかにも80年代らしくて良いなぁ・・・

    でも、そのセンス、21世紀にはだ~れにもウケません

  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/07/07(金) 9:28 AM

    社内のひと(社長)にしては、かなりドぎつい表現ですよ

    >「一時は」エッジの効いたこだわり商品で「ちょっとした」
    >「話題」を「瞬間的に」呼んだ「らしい」

    ようするに

    ・そもそも売上がちゃんと取れていたか、あやしい
    (話題話題という言葉のみ連呼)
    ・話題になったかどうかも、実はあやしい
    (らしい・らしい表現の連呼)
    ・それも瞬間的でちょびっとだけ
    (たった一時、それも瞬間的という表現)

    商社それも物産の人からすりゃ
    好調といわれた時期でも、あとから帳簿を見ると
    ものすご~くヤバかったんじゃないでしょうかね?

    そして最後にさらにドぎつい表現で〆ています

    >(たった)「1匹の魚」を「大きな網」で捕る

    市場が小さいのは織込み済・・ではなかった

    この業界のウマしか特有のカン違いで

    「俺さまのかんせーについてこれんのは
     エリートでかこよくてかんせー豊かで金持ちの
     ちょう小数の人間だけだぁ」

    と思いつつも、業界ネタになっちゃったもんだから

    「ひょっとしたら、俺たち天下取れるかもウシシシw」

    となって、カクダイ拡大カクダイで、ドボ~ンwww

    「(読者がほとんどいない)ぎょーかい誌で話題になる」

    のと

    「購買見込層が拡大する」

    を混同するのはいけませんね~本当に

    これ、真理だと思います

    同時に大きな組織なら、巨大赤字を作っても
    給料貰えるから、カコイイ事やるなら
    大会社の正社員になってやるのが良い

    これも真理です

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ