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南充浩 オフィシャルブログ

ホールガーメントの利点は「着心地の良さ」とか「フィット感」とかではない

2019年11月29日 製造加工業 0

何度も書いているが、無縫製の一体成型ニット、ホールガーメントの謳い文句には疑問しかない。

無縫製なので着心地が良いというのは全くの嘘である。

なぜなら、肌着やTシャツなら縫い目が肌に触れてかぶれたり、かゆかったりすることがある。しかし、セーターを素肌に着る人はほとんどいない。多くの人は下着の上かTシャツの上か、シャツ・ブラウスの上から着る。

となると、縫い目が肌に直接触れることはないから、縫い目があろうがなかろうが関係ない。

以前に、ジーンズメイトで1000円に値下げされたホールガーメントのセーターを買って着てみたが、普通のセーターとまったく着心地は変わらなかった。

たしか、セーターメーカーのジムの商品で定価は5900円だった。

 

次に縫い目がないからフィット感があるというのも全くの嘘である。

セーターはもともと編地なので伸縮性がある。タイトなサイズ感を選べばレオタードよろしくフィットしてくれる。それがカッコいいかどうかは別として。

そして、今はルーズシルエットが全盛で、セーターもルーズシルエットになっている。身体のラインを拾わないルーズフィットのセーターに対してフィット感もクソもない。何をわけのわからないことを言っているのだろうと呆れ果てる。

 

ホールガーメントの利点はそんな着心地とかフィット感とかではなく、リンキングが要らないという点である。

セーターは横編みという編み方で編まれている。胴体と袖のパーツは接合されているわけだが、これが通常の縫製ではなくリンキングという方法で行われている。

非常に細い針と糸を使って、縫うというより別パーツ同士を編み合わせると考えればわかりやすいだろう。

袖の先、胴体の裾と首元には通常リブ生地が付けられている。これもリンキングである。

 

しかし、このリンキングという工程は非常に重要ながら、現在、リンキング工場と工員がどんどんと減っているという現状にある。国内はもちろんのこと中国でも減少傾向にあるといわれている。

どうして工場と工員が減るのかというと、リンキングは非常に細かい作業なので視力を悪くさせる。若い頃からやり続けると40代でかなり視力が衰えるそうだ。

そんな過酷な労働をわざわざしたがる若者はいない。

それで儲けられるならまだしも工賃が安くて儲からない。他の工程のようにファクトリーブランドを作れれば儲ける機会もあるが、リンキングだけでは製品が作れないからファクトリーブランド化もできない。

だから若者が継がないのは当たり前である。

 

ホールガーメントには編み機の値段が高いとかコンピュータのプログラムが難しいとか、様々なハードルは高いがリンキング工場がなくなってもセーターが生産できるという利点がある。これが最大の利点である。

あと、一体成型なので通常のセーターでは実現できないデザインが可能だという点も利点だろう。

 

ホールガーメントはリンキング工場がこの世から消滅してもセーターが生産できるために開発された編み機だといえる。

しかし、なぜかこの利点がほとんど強調されていない。不思議なことである。

この利点を強調せずして、ありもしない着心地の良さとかフィット感を喧伝しているというのはまったく理解ができないし、不合理である。

以前、あるパタンナーは、リンキング工場が減っていることを「悲しい現実」とし、そして「そんな悲しい理由を説明できない」と言ったがわけがわからない。悲しかろうと嬉しかろうと現実は現実でしかない。それを説明せずに嘘っぱちの理由を説明して何かが解決するはずもない。

 

こういう「嘘の神話」は繊維・ファッション業界にはよくある。

例えば、以前にもこのブログで紹介したことがあるが、「染色した糸を何年間か寝かせたら色に深みが出る」というものがあるが、よほどに化学変化を起こす染料や糸を使わない限りあり得ない。むしろ保管状況が悪ければ退色・変色する。

 

 

とはいえ、もう一つ、リンキングなしでセーターを作れる方法がある。正確にいうと「セーター風商品」をである。

それはリンキングしている部分をすべて縫製すればよいのではないかと思う。

そうすると、この商品はセーターではなく、「セーター風商品」、正確にいうと「セーター風カットソー」になる。

 

セーターとカットソーの違いは分かりにくい。

分厚さから明らかに判別することはできるが、最近、ユニクロなどで夏の定番になっている薄手半袖セーターと半袖Tシャツの違いはなんだろうか?

生地の厚さは似たようなものである。

もちろん編み方は異なる。しかし、手触りや着用感は似たようなものである。

 

ニット(編み物全般)に詳しい人ならお分かりだろうが、最も大きな違いはリンキングしているかどうかの差である。

カットソーはどうしてカットソーなのかというと、カット(切る)&ソー(縫う)が語源だということは、アパレルの初歩の知識である。

しかし、切って縫うのはどの製品も同じだ。例えばジーンズもワイシャツもスーツも生地を切って縫う。ことさらそこを強調する意味はない。

この強調は、切って縫わずに製品が作れるセーターに対してのことである。

 

アパレルの展示会に行くと、「ニット風カットソー」みたいな説明をされる商品がある。生地の編み方とか風合いもさることながら、例えば、セーターに使われる横編み生地をカットしてから縫製すれば「ニット風カットソー」ということになる。

 

カットソーの原理主義者、カットソーのタリバンと異名を取る山本晴邦さんがトップセラーで同じことを説明しているので参考にどうぞ。

いまさら聞けない『カットソー』とは?

 

そんなわけでホールガーメントについては業界はキチンと説明した方が消費者の理解も得られやすいということである。

 

 

 

3000円に値下げされてるザ・ショップティーケーの新潟製ホールガーメントセーターをどうぞ~

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