先日、池井戸潤さんの小説「ルーズヴェルト・ゲーム」を読み終えた。
今年の春にドラマ化された。

小説とドラマはあらすじでは8割くらい同じだが、細部はかなり異なる。
主役となる青島製作所を、ライバル企業のイツワ電器(原作ではミツワ電器)が特許問題で告訴してゆさぶりをかけるが、これはドラマオリジナルである。
また、東洋カメラへ青島製作所が自社のイメージセンサーの売り込みに成功するが、イツワ電器にひっくり返されるという部分もドラマオリジナルで原作にはない。

あと、スマートでクールだった江口洋介さん演じる笹井専務だが、原作でもクールなところは同じだが年齢設定はまったく違う。笹井専務は60歳手前の初老の男で、髪は薄いと描写されている。

青島製作所を創業したのは青島会長で、一代で売上高500億円強の会社に育て上げたカリスマ経営者である。
社長から会長へと退く際に、後継社長として数年前にコンサルタントから転職してきたばかりの営業部長、細川を指名した。

小説を読むと細川の年齢は40代前半と感じられる。

当然、古参の役員は面白くない。

青島が細川を後継社長に指名した理由がこう説明されている。

「自分たちには、自分たちの良さがわからない。外部の人間が見たとき、つまり比較するものを持っている人間が見て初めて、会社の良さがわかるんだ。青島製作所にとっては君の視点がまさにそうだった」

中略

「この青島製作所のどの技術が優れ、どの技術が並みなのか、わからない。事務管理体制のどこが平均以上で、どこがダメなのか、それが当たり前になっている笹井(注:古参の専務)には評価のしようがないんだ」

とある。

昨日のエントリーと重複する部分があるが、己を知ることはこれほど難しいといえる。
そして繊維・ファッション業界でも自社の強みを取り違えている企業はたくさんある。

http://blog.livedoor.jp/minamimitsu00/archives/4182458.html

昨日のエントリーで挙げたアパレルも自社の強みがまったくわかっていない。
流通との大口取引が成立した理由は、機能性素材の採用だけではない。
機能性素材のみが取引理由であるなら、大手流通はこのアパレルをすっ飛ばして、直接、大手素材メーカーと取引をすれば済む話である。
その方が、製造コストも安く抑えられるだろう。

今では多くの素材メーカーも自社内やグループ会社に製品化部門を持っている。
素材メーカーと流通がアパレルを介さずに取引することは可能になっているご時世である。

そのアパレルが評価されたのは、型紙製作だったり、色柄の選定だったり、デザインのアレンジだったり、というノウハウの部分である。
それが自社の強みだと考えないあたりに己を知ることの困難さが表れているのではないか。

もっとも、その細川新社長にしたところで、

コンサルタントとして数百社の内部を見てきた細川には、比較する術がある。だが、それを当たり前だと思っていた細川もまた、それが特別な能力であることに気づいていなかった。お互い様だ。

と描かれている。

他人のことは的確に見抜けるが、自分のことは見えていないというコンサルタントも実際に数多く存在する。
かくいう筆者だって似たようなものである。

本当に「己を知る」ことさえできれば、百戦百勝することは不可能ではないだろう。

産地製造業でもそうだ。自社の強みがわかっていない企業も多い。
強みが技術力なのか、それとも社の歴史なのか、新規性なのか。
例えば社の歴史が100年を越えるということはそれだけで一つの価値である。
これだけはいくら金があっても買うことはできない。
それを理解していない企業なんていうのはざらにある。

はてさて、筆者も自己の強みというものを一刻も早く的確に把握したいものである。