つくづくとアパレル業界に所属する人は「作ること」が好きなのだと感じる。
先ごろ見学させていただいた勉強会でも嬉々として作ることを論じていた。
もちろん作ることは重要である。しかし、物を作った限りはどこかで売らなければならない。

アマチュア芸術家なら作っただけで良い。
けれどもプロの芸術家は作品は売れてナンボである。
それで生活しているわけだから売れないことには芸術家としてもプロとしても存続できない。

芸術(アート)はデザインよりも主観的で独善的である。
デザインは客観的であり、ある程度工業的でなくてはならない。

その芸術ですらプロとして生活していくためには、額の多寡は別として売れなくてはどうしようもないのに、工業製品たる洋服やら生地はそれこそ売れてナンボでしかない。

http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/seizou/apparel_supply/report_001.html

以前にもご紹介した経産省がまとめた提言である。

興味のある方はリンクから全文をどうぞ。

かいつまんで言うと、

アパレル業界が「無難」なトレンド品を打ち出し、供給過剰になって値崩れしていることに対して、その解決策が「クリエイティブな商品を強化する」とか「クリエイターを育成する」

ということである。
まあかなり圧縮しているが。

いわんとすることは、より個性的でクリエイティブなデザインの商品を増やし、それを生み出すクリエイター育成を強化すべきというのが結論である。

が、果たして本当にそれが解決策だろうか。
個人的には相変わらず「物作り脳が寝言を言っている」としか感じられない。

まず、洋服の値崩れの原因は、供給過多にある。
洋服は大きくわけて、ベーシック品とトレンド品に分かれるが、トレンド品の情報ソースは均一なので、各社の製品が似るのは仕方がない。
スキニージーンズがトレンドだったら各社スキニージーンズを作らざるを得ない。
ワイドパンツとかサルエルパンツを打ち出しても構わないが、それはトレンド商品ではない。
「トレンド商品」は似てて当たり前なのである。

ディテールで差異を強調するのは可能だ。
ファスナーをいっぱいつけたり、スパンコールでギラギラにしたり、そういうアレンジをするのは構わないが、そういうアレンジ過多な商品は需要自体も少ない。

トレンド品で、ある程度のマス層を狙うなら、どうしてもベーシック寄りのデザインとならざるを得なくて、その結果、見た目はどのブランドもあまり変わらないということになる。

それを打破するために、「個性的な見た目」の商品づくりを奨励するとして、そういう商品の需要自体は少ない。パリコレのステージに登場するようなデザインの服を欲しいと思う人は少ない。
明らかに着こなしが難しいからだ。

となると、個性的な見た目の商品を増やしたとして、それすら早晩供給過剰に陥ることは目に見えているのではないか。
需要の少ない市場に向けた商品を強化するのだから、確実に供給過剰になる。

そうするとどうなるかというと、売れ残りは期末に値引きして叩き売るのである。
在庫を抱えて20年も倉庫に積み上げておくような産地企業もあるが、そんなものは普通のやり方ではない。
たいがいは値引きして叩き売って現金化するのである。
そうでなければ在庫が経営を圧迫する。

結局は今のアパレル業界と同じで何ら変わらない。
ただ売ってる物のデザインが少し変わっただけである。

個人的には、物作り脳の連中は、物作りが好きだから放っておいても工夫して変てこりんな物を作り出す。

だから、経産省なり業界が本当に値崩れを起こさせないようにするつもりなら、強化すべきはクリエイターやら物作りではない。

売るほう、見せるほうを強化すべきである。

同じような商品を扱っていてもバーゲンをせずにほぼ定価で完売する店と、バーゲンで投げ売りしても売り切れない店がある。
セレクトショップとか専門店で考えてみればわかるだろう。

同じメーカーから同じ商品を仕入れても、定価で売り切れる店と70%オフに値引きしても売れ残る店がある。
それは商品の問題ではない。なぜなら同じ商品だからだ。
違うのは売り方・見せ方だろう。
販売員、店長、広報の能力ややり方が異なるのである。

となると、値崩れさせずに洋服を売り切るために真に強化すべきはここではないか。

圧倒的な発信力、圧倒的な販売力を持ったスタッフや店長を育成する。
それこそが解決策である。

洋服に限らずそんな事例はいくらでもあるのではないか?
POPを工夫したら定価で売り上げが伸びたとか、販売員が変わるだけで売れ行きも変わったとか、いう事例は食品でも書籍でも薬品でもあるのではないか。

なら、そういうことを強化した方が確実に洋服も値崩れを防げる。
どんなに工夫したって洋服はアートにはならない。
最低限「着用できる」という機能が求められるからだ。
しかも生産背景は家内制手工業ではない大量生産型の工業製品である。

ここにアートの要素を持ち込めると考える理由がわからない。

そして業界人は基本的に作ることが大好きで放っておいても工夫する。
なら強化すべきは弱点である売り方・見せ方だろう。

問題点が一つある。
経産省も業界のエライサンもその強化策がわからないことだ。
クリエイター育成は税金事業としては楽ちんである。前例がいくらでもあるし、強化策(効果的かどうかは別にして)を打ち出しやすい。

「若手デザイナーへの支援額を2倍に増やしました」といえば世間もそれなりに納得する。

売り方・見せ方への支援策・強化策は前例がないし、そういうわかりやすい強化策もなかなか思いつかない。
そして経産省もそのブレーンもほとんどが物作り脳だから、物作り強化が結論となってしまう。

経産省も業界人もどこかでいまだに「良い物は必ず売れる」という幻想を抱いているのだろう。
が、残念ながら良い物でも売り方・見せ方が不味ければ売れない。逆説的だが「売れた物が良い物」なのである。

そして、物作り強化をブチ上げている間は、絶対に洋服の値崩れは食い止められないだろう。
筆者はそう見ている。