先日、東京テキスタイル・マルシェの会場で、たまたま、出展者とカタログとかポスターの撮影について話した。

ちなみに今回の東京テキスタイル・マルシェは2・5日間で650人強の来場者があった。
すごく良いとは言わないが、まずまずの来場者数だったといえるのではないか。

ついでにいうと、よく「南さんは出展者なんですか?」と尋ねられることがあるが、主催事務局の一員である。

それはさておき。

筆者は業界紙記者のほか、雑誌編集者、業界雑誌広告製作の仕事もしたことがある。
その経験からいうと、グラフィックやデザインの類をいくら言葉だけで説明しても、製作実務者やクライアントには1ミリも伝わらない。

雑誌編集の仕事の進め方でいうと、カメラマンに指示を出さねばならない。
そしてライターにも指示を出さねばならない。
文章と写真が出来上がったら、それをもって誌面デザイナーに指示を出さねばならない。
どの写真をどんな風に配置して、文章を流すかという指示である。

例えば「真ん中に女性が立っていて、その背景は紺色で、右肩に見出しが来るようなデザインにしてください」と言葉だけで伝えても誌面デザイナーは困惑するだけである。

女性はどんなふうに立っているのか?
その大きさは誌面上ではどれくらいなのか?15センチなのか?25センチなのか?10センチなのか?
背景の紺色の彩度は?明度は?
紺色と言っても、ブルーに近い紺から黒に近い紺まである
右肩の見出しは縦なのか、横なのか?

ざっと思いつくまま挙げただけでこれだけの疑問点が出てくる。

カメラマンに対する指示だって同じだ。
「いい感じで撮ってください」なんて指示はまったく何の役にも立たない。
それよりも「色を明るめに撮ってください」とか「陰影のコントラストをはっきりさせて撮ってください」とか具体的にいうべきだし、それも言葉だけでは伝えきれない。

じゃあ、どうすれば良いのか?

自分が描いているイメージに近い写真、誌面、ポスターを見せることである。
それを見せながら言葉で補足する。
誌面を見せながら「背景はこれよりももう少し彩度と明度を上げたいんです」というように。

業界雑誌で広告を製作する業務を3年間こなしたことがある。
雑誌の場合は社内に誌面デザイナーがいたのでやりやすかったが、業界雑誌は広告デザインを外注していた。
外注先なので余計にこちらの狙いを具体的に明確に伝える必要がある。

筆者が画像ソフトを使えれば、それでデモ版を作って外注先に渡すのだが、あいにくと画像ソフトは使えないし、しみったれた会社にはそんなものは備え付けられていなかった。
そこで、筆者は昔の脅迫状よろしく、いろいろな誌面や紙面から文字や画像を切り出して、それを紙に貼り付けてデモ版を手作りした。

これでほぼ一発で外注先に意図が伝わるようになって業務がはかどった。

最悪は手描きのラフスケッチでもないよりはあったほうが何倍もマシだ。

画像や視覚に関する案件では、言葉だけでは伝わりにくい。
「赤」といったって、さまざまな赤がある。
ある人は朱色に近い赤を思い出すかもしれないし、別の人は深紅を思い浮かべるかもしれない。
「赤いジャケットを企画しましょう」と言葉だけで言った場合、朱赤のジャケットを思い浮かべる人もいれば、深紅のジャケットを思い浮かべる人もいる。

それよりは「この色にしましょう」とイメージしている商品そのものを見せたほうが早いし、確実である。

今では産地の織布工場や染色加工場も自社のカタログやパンフレットを用意することが増えた。
当然、多くの場合は専門業者に頼んで製作してもらっていることは言うまでもない。

その一方で、これからカタログやパンフレットを用意しようという産地企業も少なからずある。
その場合は、上で書いてきたようなことを念頭に置いて発注、指示すると、早いし確実に伝わる。

発注主は画像のイメージを頭の中に描いていることが多いが(稀にノーアイディアの呆れた発注主もいる)、頭の中にある画像は他人には見えない。
製作業者はテレパシストではないから、発注主の頭の中にしかない画像やら思惑やらイメージなんてものはまったく受け取ることはできない。
それを素早く、間違いなく伝えようと思うのなら、具体的なモノを見せながら指示を出すのがもっとも賢明な方策である。

言葉だけで画像のイメージを伝えようとするのは、あまりにも非効率的なやり方だし、間違いも起こりやすい。

それほどに人間同士は分かり合えないということでもある。


情報デザインの想像力―イメージの史学
藤本 貴之
プレアデス出版
2005-02