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南充浩 オフィシャルブログ

自社に「利」をくれる既存顧客だけを愛するべき

2015年9月1日 未分類 0

 個人的には「お客様のために」とか「〇〇の笑顔のために」とか「お客様へ愛を」みたいな標語に居心地の悪さを感じてしまう。
気持ち悪いというか「嘘くせー」というか、まあ、そういう感じである。

しかし、業務をする上でその心構えは間違っていない。
間違っていないどころか正しいといえる。
筆者個人はそういう無条件に前向きな姿勢になんとも居心地の悪さを感じるというだけのことである。

「お客様へ愛を」みたいなことを言われても、赤の他人に無条件な愛情を注げるはずもない。
筆者同様に感じてしまう方も中にはおられるのではないかと思う。

韓非子にこんな一節がある。
原文を書いても読みづらいので口語訳にする。

名御者の王良(おうりょう)は馬を愛し、越王勾践(こうせん)は人を愛しました。

馬は走るからですし、人は戦うからです。

医者は患者の傷を吸い、血を口に含むけど、肉親の情からそうするのではありません。

金が儲かるからです。

車を作る職人は、人が皆金持ちになればよいと思っています。

棺桶を作る職人は、人が皆早く死ねばよいと思っています。

前者が善人で、後者が悪人というわけではありません。

金持ちにしか車は売れませんし、人が死なないと棺桶を買ってくれないからです。

人が憎いのではなく、人が死ねば自分が利益を得るからです。

である。

こういう風に説明されるとさすがの筆者も納得である。
個人的には社員教育でもこのように説明してはどうかと思う。

「私たちに利益をくれるからお客様を愛しましょう」と。

その方が教育を受ける社員も理解するのが早いのではないだろうか。

名御者と呼ばれた王良は馬を愛したが、それは馬を良く走らせるためである。
越王勾践は、人民を良く愛したが、それは人民に他国と戦ってもらうためである。

会社の社長だって社員を愛するが、それは社員が働いてくれるからであって、働きの悪い社員まで愛する社長はそういない。皆無と言っても良いのではないか。

「お客様は神様です」という一節を曲解した消費者がモンスタークレーマーとなる事例があちこちで散発しているが、販売側もこれまで「神様扱い」しすぎて過剰にサービスしていなかっただろうか?

ユニクロの柳井正会長は「顧客は神様ではない。王様程度に思っておいたら良い」というような内容をおっしゃっていたことがあるが、個人的には「王様」扱いする必要もあるのかと感じる。

何故顧客を大切にするかというと、自分なり会社なりに「利」をくれる人だからである。
「利」をくれない人は顧客ではないし、「愛情」を注ぐ必要はない。
べつにビジネスは慈善事業ではないし、ボランティア活動でもない。
顧客でもない人にまで平等な愛情は不要だ。

将来的に顧客化してくれそうな消費者は大切にすべきだし、それなりに愛情は注ぐべきだろう。
ただし、それなりで良いのではないか。

ビジネスで真に大切にすべきは定期的に「利」をくれる既存顧客、固定客である。

携帯電話通信会社はこれの逆をずっとやってきた。
新規顧客獲得のために新規契約者には格安で携帯電話を提供したり、最近だとキャッシュバックまで用意するようになった。
既存顧客はそこまでの優遇を受けられない。

少し前までは携帯電話通信会社を変えると電話番号を変えなくてはならなかったので、それが不便で通信会社を乗り換えることを躊躇する人は多かった。筆者もそのクチである。

しかし、マイナンバー制が導入されて、通信会社を変えても電話番号を変えなくても良くなった。

となると、現行の制度では携帯電話機種料金は2年縛りが多いから、2年ごとに通信会社を変えることがもっとも経済的だということになった。

現に筆者の知人でも2年ごとに通信会社を変える人がいる。
もっとも安上がりで済むからだ。

携帯メールアドレスはマイナンバー制でも変わらざるを得ない。
このため、通信会社の変更を躊躇する人も少なくはなかったが、5年ほど前からSNSが流行し始めた。
フェイスブックにもツイッターにもダイレクトメッセージ機能があり、携帯メールを使う回数が格段に減った。
LineというSNSもある。

SNSの流行によって通信会社の変更はさらに障壁は下がったといえる。

顧客がすぐに離れてしまう、顧客が固定化しない、という店やブランドは携帯電話通信会社のように新規顧客や見込み客ばかりを優遇していないだろうか?
既存顧客・固定客をないがしろにしていないだろうか?

今、不振といわれている店、ブランドは自社の既存顧客・固定客対策を一度点検しなおしてはどうだろうか。


韓非子―強者の人間学
守屋 洋
PHP研究所
2013-05-24


韓非子解題
小柳 司気太
2013-10-21


韓非子 (第1冊) (岩波文庫)
韓 非
岩波書店
1994-04-18


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