このところ、雑誌「商業界」でエクスマの特集が続いている。
エクスマとはエクスペリエンスマーケティングの略で、販促コンサルタントの藤村正宏さんが唱えておられる販促手法である。

安売りをするな、体験を売れ

というキャッチコピーである。

注目が高まったのは3年くらい前からだと認識しているが、筆者が初めて藤村さんのセミナーを拝聴したのは、意外に古くて2007年ごろだったのではないかと記憶している。

この3年くらいでエクスマのメイン手法はSNSに移ったが、当時は手書きPOPがメインの手法だった。
(もちろんPOP以外の手法の紹介もあった)

「安売りをするな」とはおっしゃられているものの、安売りを完全否定されていたわけではない。
集客のために特定の商品を割安に設定するのはアリだとセミナーでも「カメラのキタムラ」を例に挙げながらそう述べられている。

エクスマを知った古さを自慢したいのではなく、このエクスマの考え方はマーケティングの「インサイト」に通じるのではないかと感じる。
そう、本題は、「インサイト」という考え方について紹介したいのである。(笑)

http://www.yomiuri-is.co.jp/perigee/feature13.html

ちなみにこの記事が掲載されたのは、2012年の6月。ちょうど3年前である。
記事中にもあるがインサイトという考え方は「海外では80年代、日本では90年代から広まった」とある。
2015年の現在、果たして繊維・アパレル業界はこの考え方を理解しているのかどうか。(笑)
繊維・アパレル業界というのはそういう勉強は概してあまりしない業界だから。

さて、この「インサイト」ってなんだろうか。

ホンダの自動車ではない。
ウェブメディアの媒体名でもない。

辞書で調べると、「洞察」とか「見通す」というような意味の英単語である。

本文から引用すると

簡単に言えば「消費者のホンネ」のことです。ただ、ホンネのすべてがインサイトかというと、そうではありません。ブランディングやマーケティング活動のアクションにつながるものに限られます。そうでないものは、いくら消費者のホンネであってもインサイトではありません。消費者自身が気づいていないような深層心理の中で、マーケティング活動に活用できる「心のホットボタン」がインサイトです。

インサイトは最初は消費者インサイトを探ることから始まって、今は店頭のショッパー・インサイトを探る段階にまでなってきています。「消費者インサイト」であれば、「思わずその商品が欲しくなるポイント」のことですし、「ショッパー・インサイト」であれば、「売場の前を通りかかったときに、『あ、これ、いいな。欲しいな』と思うポイント」ということになります。そのポイントをとらえて、商品開発やコミュニケーション、店頭プロモーションをするのが本来のインサイトです。

とある。

ちょっとまだ分かりにくい。
象徴的な部分は以下だろう。

昔は、「差別化」ということがよく言われました。それが機能したのは、消費者自身が欲しいモノをわかっていたからです。しかも、冷蔵庫や洗濯機という同じカテゴリーの中で選ばれることが勝負でした。ですから、競合商品と差別化をして、自社製品がより優位だと強調すれば売れたのです。性能や付加価値で少しでも相手より優位に立つことがこれまでのマーケティングの基本的な考え方だったのです。

最近は若い人たちが車に乗らなくなってきていますが、そういう人たちに、他社より高スペックだと言っても意味がありません。車自体を欲しいと思わせることが大事です。そのためには、彼らが普段の生活でどんなことをしたいのか。それに対して車という商品がどういう役割を果たすのかを探って商品を作らないといけない。そうしないとメッセージも伝わらないということなんです。それが、今、さまざまなカテゴリーで起きているんですね。

経済が右肩上がりの時代は、製品やサービスの“改良”や“改善”が売り上げに結びついていました。だから、消費者の不満を聞き、それに応えることに大きな意味があったのです。ただ、「顧客満足」は自社製品を買ってくれる人という前提ですし、見込み客まで含めたとしても範囲は非常に狭い。

とある。

繊維・アパレル業界はここで語られている本質が理解できるだろうか?
性能や付加価値、単なる価格競争だけでは消費者に伝わらないということである。
蛇足だが、以前なら契約した有名タレントに服を着せればそれが売り上げにつながったが、その手法も現在ではあまり効果がなくなりつつある。

高スペック、高性能、単なる安売り、契約したタレントに着せる、なんて表層的な取り組みでは服は(服だけじゃなく物は)売れなくなっている。
この中でかろうじて効果があるとするなら、安売りだろう。
それも激烈な安売りならそれなりに効果はある。ただし、製造・販売側がどこまでその薄利に耐えられるかである。

そして

消費者を知ることはこれまでのマーケティングでも大切だと言われてきました。それで、消費者のニーズを探り出し、そのニーズを満たすベネフィットを見つけてきたわけです。しかし、これまでの消費者分析とインサイトでは、人のとらえ方が根本的に違います。

従来の消費者分析では、人は論理的にモノを考え、合理的に判断し行動すると考えられてきました。製品を選ぶときも、より性能が優れているもの、性能が同じなら付加価値を比較すると考えてきたわけです。それに対してインサイトは、人は気持ちや感情で行動すると考えます。それが消費者を一人の人間としてみるということの意味です。

また、消費者を口説くブランドからの提案「プロポジション」を重視します。それが人の気持ちをとらえ、人と製品の間に共感を作り出すと考えます。インサイトが消費者の行動を変える「心のホットボタン」だとしたら、そのボタンを押すのがプロポジションです。

と続く。

個人的には「消費者を一人の人間としてとらえ」という表現がちょっと気持ち悪いのだが、そこは無視して、消費者は合理的判断で動くのではなく、情緒的に判断するという部分に注目したい。
その情緒的な行動を変えるために「共感を作り出す」とある。
消費者と共感するというのは、エクスマでも眼目となる要素の一つである。

さらにこうも続く。

「消費者のホンネ」を探るときに問題になるのが、これまでの定量調査やグループインタビューのような定性調査の限界です。こうした従来の調査手法では、消費者のホンネを探ることはできません。その理由は、人は「なぜ」と聞かれても、それがホンネなのか自分でもわからないからです。

脳の情報処理の95%は潜在意識で行っているという話です。しかも、意識してない行動を根掘り葉掘り聞かれたら答えるしかないですから、何とか理屈をつけて話すわけです。だから、消費者のホンネを探るのに「なぜ?」は禁句なんです。そこで出てきた答えに沿って商品開発やコミュニケーションをしたら、絶対に失敗します。

とある。

これも注目すべき部分で、ニーズを探ってもそれは無駄だということである。
消費者のホンネというのは、記事中にもあるように自分たちでもわかっていないからである。
逆にこちらからニーズを示した方が理解しやすい。

「あなたたちの欲しいのはこれではないか?」
「あなたたちはこんな生活がしたいのではないか?」
「これを着るとこんなにいいことがありますよ。だから欲しくないですか?」

ということである。

これもエクスマの眼目の一つである。

その上で、

新しいマーケットを切り開いたパワーブランドというのは、創業者の夢から生まれたものが多いですよね。創業者の直感と熱意が人の心を捕らえて、新たな市場ができてきた。インサイトというのは、それを方法論化し、組織的に行おうというものなんです。

ということであり、これもエクスマで引用される事例である。

iphoneを開発したジョブズがまさにこれにあたるといえる。
(ジョブズの人間性の善し悪しとかapple社のビジネス姿勢はここでは問題にしない)

あれこそ、まさに彼の夢と熱意と直感の産物ではないか。
そしてニーズを示した事例ではないか。なにせ2007年1月以前にはスマートフォンという概念すらなかったのだから消費者のニーズを探るということは不可能だったからだ。

じゃあ、なるべく安売りをせずに売れる洋服や洋服ブランドを作るためには何が必要なのだろうか?

エクスマとインサイトを基に考える方が近道ではないか。

「パリコレのトレンドをどこよりも早く持ってきました」とか「〇〇という製造地が云々」とかそういうことはほとんどの場合役に立たない。
それこそ、スペックに頼った従来と変わらない売り方であり、それが最早効果がないことは身を持って体験しているはずである。

筆者は別にエクスマとインサイトの代弁者でもなんでもないが、単なる安売りをしたくないのなら、繊維・アパレル業界は新しい手法を取り入れるほかない。