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南充浩 オフィシャルブログ

企業などの事業所からの服の廃棄量は2・7%

2021年4月23日 誰がアパレルを殺すのか 1

「洋服の大量廃棄ガー」が喧しいが、以前からまともな識者は「企業からの廃棄量は少ない」と指摘していた。

理由は「捨てるにはけっこうな料金が発生するから」である。

ご自宅から大型の家電なり家具なりを捨てる際に3000円とか5000円を支払っていることを思い出してもらえばその理屈がわかるだろう。

産業廃棄物として捨てるには、捨てるための料金がかかる。

売れ残った洋服は値下げして売り切る努力をする。この時にすでに企業は営業利益を削っているわけである。廃棄するということは、売れ残りのさらに売れ残りを捨てるわけだから、値下げした上にさらに廃棄料金を取られるということになる。

アパレル不況と、コロナ不況で企業体力を削られている国内アパレル企業各社がわざわざ廃棄料金まで余計に支払って売れ残り品を捨てたいわけがない。

少しまともに考えればわかることである。

 

業界メディアはなぜ、これを指摘せずにミーハーどもの尻馬に乗って騒ぎ立てているのか理解不能だったが、ようやくまともな記事を繊研新聞がアップしてくれた。

「手放された衣類」大半は家庭から 環境省報告 | 繊研新聞 (senken.co.jp)

 

環境省が20年のファッション産業の環境負荷についての調査結果を発表した。注目すべきは廃棄された全衣類のうち、企業など事業所から出たものは2.7%である点だ。

 

である。メディアの性格としてイデオロギー性を強め、左旋回しているWWDに比べると繊研新聞の論調ははるかにまともなものが多い。ただし個々の記者は左旋回しているのが多いので、コラムはときどきとんでもなく左側通行をしているが。

それはさておき。

 

報告によると20年の「手放された衣類」は78.7万トン。このうち家庭からは75.1万トンと大半を占め、ごみとして廃棄(焼却・埋め立て)されたのは49.6万トン(構成比66%)を占めた。リユースが15万トン、リサイクルが10.4万トン。

 

というのが実態であり、また

 

一方、企業など事業者から手放された衣類は3.6万トン。廃棄が1.4万トンで廃棄量全体の2.7%ということになる。リユースは0.4万トン、リサイクルは1.9万トン。手放されたもののうち半分以上がリサイクルされている。

 

である。

 

どうしてこうなるのかというと、理由は先に述べた「廃棄料金を支払わなくてはならない」以外にも、アパレル・流通業界には、売れ残り品を処分するシステムがある程度確立されているからである。

まず、店頭セール。ついでファミリーセール、ショッピングセンターや百貨店での投げ売り催事。それでも残っているならアウトレットで売る。最近だとオフプライスストア向けに引き取ってもらう。最後はバッタ屋と呼ばれる在庫処分屋に引き取ってもらう。

イシキタカイ系の人々が思っているほど業界もアホの集まりではないから、ある程度は売れ残り品を処分するための業界インフラが整っている。

これについてもこの記事では端的にまとめられている。

 

企業から直接廃棄に出た衣類は実はあまり多くない。もともとアパレル企業などは、セールで残ったあともファミリーセール、持ち越し在庫として翌年販売、オフプライスストアや買い取り業者への販売などの仕組みを持っている。

 

またこれら以外には、最近だと中国や東南アジアに輸出して現地で安値で販売するというやり方もある。

繰り返すが「捨てれば廃棄料金が発生して余計に営業利益が削られるだけ」なのである。アパレル各社が潤いまくっていたバブル期なら廃棄料金を支払うくらいは何でもなかっただろうが、これほど経営基盤が揺らいでいては、節約するほかない。そうなると自動的に業界全体としてインフラが整っていくことになる。

 

この記事は

 

環境省の報告でも消費者1人当たりの年間購入数は18枚、手放す服が12枚と購入枚数の方が多い。着ない服は25枚あり、ファッションの短サイクル化や低価格化が多くの廃棄を生み出している。今ある服をもう1年長く着れば年間約4万トンの廃棄削減につながるとも指摘する。作り過ぎることなく、長く愛用される物作りが求められる。

 

と締めくくっているが、これは多分何の解決にもならない。

 

捨てる時期を遅らせたところでいずれ捨てなくてはならないし、買う量が減ればアパレル各社はさらに苦境に立たされる。適当に潰して社数・ブランド数を減らすしかない。役所もメディアも綺麗事でまとめずにハッキリとそう書けばいい。しかし、参入障壁が低いからわけのわからん新規参入者も多いから、現存のアパレルが潰れたところで「D2Cガー」とか「インフルエンサーガー」の有象無象の新規参入者は増え続けるから結果として、市場に出回る服の量も変わらないだろうし、各社とも自社が生存するためには1枚でも多く売ろうとする。自分がアパレルの社長だったとしても1枚でも多く、そして高く売ろうとする。自社が潰れるくらいなら他社に先に潰れて退場してもらいたいと思う。

本気でどうにかしたいのなら、何らかの免許制や資格制にして、今よりも参入障壁を少しでも上げるほかないだろう。もしくは社数やブランド数を規制するか、である。

そして、服が売れないということは、経産省や業界メディアがこぞって支援している国内の糸、生地、染色などの製造加工業者の生産量がさらに減って今以上に厳しい状況に追いやることになる。

「産地を守れ」とか「製造加工の雇用を維持しろ」と言いながら、洋服の製造量や販売量を減らせというのは、最強の盾と最強の矛が激突しているのと同じであることを認識すべきである。

それよりは大々的な不要な衣料品の廃棄施設なり処分方法の確立を急いだほうが現実的ではないか。

 

 

最強の拳と最強の盾を持っているドラゴンの聖衣をどうぞ~

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 comment
  • マークン より: 2021/04/23(金) 1:24 PM

    原状を変える出発点として、消費者の意識を問題にしたほうがよいのではないでしょうか。現在の日本は、安くてよいサービスを熾烈なほどにお互いに求めあって、結果としてみんなで一緒に割を食っている(デフレ、低賃金、貧困化)ように見えて仕方ありません。単純に言えば必要なのは商品の単価アップです。みんながちょとずつ痛みを分け合っていくことを目指すのは、いわゆる好き者相手に高額商品を売ることとは全く異なります。南さんが言われるところの「服など意識していない多くの人たち」が少し高くても、これこれの理由なら仕方がないか、という理解を広めるのもメディアの仕事ではないでしょうか。それから、右左は主観です。これまた現状は、左にしろ右にしろ意識している一部の人たちが、互いに相手に「極」のレッテルを張って罵り合っているだけにしか見えません。好みを書かれるのは自由ですがレッテル貼りは時に有害です。

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