ブランドの「イメージ価値」とは
2019年10月28日 考察 0
「ブランド作り」というのは周知のようになかなか難しい。
特に、「売れる高額ブランド」を作るということは至難の業である。
「ブランド」ということを論理的に考えると、いろんな分析手法があると思うが、以前もご紹介した河合拓さんによるとブランドには3つの価値がある。これは恐らく、どの価格帯にも当てはまる。
1、機能価値
2、サービス価値
3、イメージ価値
で、3つ全部をトップに持っていくことは不可能だから、どれか一つが突き抜ける必要がある。といっても残り2つも最低水準のレベルは必要だ。
例えば、ゴミ屑みたいな商品なのにイメージ作りのみで高価格を訴求してもそれは難しいということで、一度は興味本位で買う客がいるかもしれないが、使ってみて使いにくければリピートはされない。
個人的に言えば、イメージ価値の高い高価格ブランドを買うことが苦手である。だからそういうブランドの仕事は受けたいとは思わない。尤も買えるだけのカネも持っていないが、今後巨万の富を得たとしてもナイキのエアマックスシリーズは定価(だいたい1万円台前半)で買うかもしれないが、ベルルッティの靴は買わないだろうという自信がある。
革靴ならアシックス商事のテクシーリュクスを定価で買っているだろうと思う。
時計は当方にとってはアクセサリーではないので、ラグジュアリーさは必要なく、カシオの太陽光電池か、シチズンの太陽光電池あたりで十分であり、逆にそちらの方が電池交換もネジ巻きも不要でめんどくさくない。
今はカシオの3500円くらいの太陽光電池時計をしているが、巨万の富を得てもフランクミュラーなんて買わずに、数万円程度の太陽光電池時計を買うだろう。
当方はそんな価値観の人間である。だからイメージ価値の高い高価格ブランドは苦手だし、商品も欲しいとは思わない。
とはいえ、中価格帯、低価格帯にもイメージ価値の強いブランドはあるから、イメージ価値というのは全価格帯で通用するといえる。
2007年くらいに藤村正宏氏のセミナーで聞いた「銀座カルティエ事件」というのが、結局ブランドというものの本質ではないかと改めて思う。
クリスマス前に若いカップルが路上で喧嘩をしていたらしい。
理由は、女性がカルティエのタンクフランセーズという腕時計を欲しがったら、男性が「じゃあドンキに買いに行こうぜ」ということになったらしい。
ドンキだと2割引きか3割引きで非常にお得である。しかも本物である。
タンクフランセーズの2割引きとか3割引きだと、7万円くらいにはなるから、その割引額はかなり魅力的だ。7万円もあればかなり贅沢ができる。
ところが、女性はこれを嫌がったらしい。
女性はカルティエの店で買うことを理想としていた。何ともめんどくせー女である。
要するに女性は、もちろん物も欲しかったのだろうが、カルティエの「イメージ」が欲しかったわけで、イメージにお金を払いたかったということになる。
一方の男性は、多分当方と似たような価値観なのだろう。物が同じなら安いに越したことはないと考えているということである。
この「高い金を払ってでも買いたい」というイメージ作りがブランドには重要だといえる。特にラグジュアリ―系のブランドはほとんどがイメージ価値だといえる。
極細番手のウールで織ったしなやかな生地が云々という高級スーツがある。まあ、手触りは良いし、極細番手のウールは希少価値が高いから糸値・生地値も高いことは分かる。
とはいえ、この手のスーツは1日着用すれば何日間かは着用せずに休ませなくてはならない。
嬉しがって毎日着ればすぐに袖口が擦り切れたり、ズボンの膝が出たりしてしまう。まことにめんどくせー商品である。
30万円もしたのに2日連続で着用したら膝が出たということになるが、それは商品特性も知らずに2日も連続で着用した方が悪いのである。
機能性を求めるなら青山とかアオキのストレッチウォッシャブルスーツあたりを買うか、ポリエステル混入率が高い西友の1万円くらいのスーツを買うべきだ。
しかし、そういう商品を30万円で買う人がいるというのは、そこにイメージ価値を見出しているからで、ここを構築することがブランド作りだといえる。
繊維業界にはこの「イメージ価値」がわかっていない人が多いから「とりあえず高い値段を付けておけばブランドになる」という暴論を聞くこともあり、まあ、好きにしたらええやんとしか思えない。
何の背景もなく、突然にバカ高い価格を付けたところで、そんな商品は売れない。「無名のブランド」品に何万円も払う人がどれほどいるだろうか。
それが機械や自動車なら価格とスペックが比例する場合が多いから、買う人もいるかもしれないが、衣料品の場合、価格と機能スペックの高さは必ずしも比例しない。
「30万円もしたスーツなのに2日くらいで膝が出た」と嘆くのは本来間違いでしかない。
その30万円のスーツは2日連続で着用すれば膝が出る商品であり、そういう高級生地を使って作られている。
産地のオッサンが見様見真似で作ったモサっとしたデザインの無名な商品が何万円で売れるはずもなく、高い価格を付けるのはけっこうだが、いたずらに在庫を増やすだけということになりかねない。
逆にイメージ価値を作れば、平均点に満たない粗悪品は別として、平均点を満たしていれば何万円の価格でも売れるということになる。
じゃあ、どうやってその「イメージ」を構築するか、である。
低価格競争をしたくなければ、そこの構築方法を考えなくてはならない。ただ、その構築方法というのは派手にSNSで騒ぐことではないし、苦労話を盛り気味に披露することでもない。
そんなタンクフランセーズをどうぞ~