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南充浩 オフィシャルブログ

日本の繊維関連工場の技術は高いのか低いのか?総悲観論も楽観論もナンセンス

2018年3月5日 企業研究 0

現在の、日本の製造加工場の技術が高いのか低いのかという議論があるが、一概に高いとも低いとも言えないのが実情だと考えている。
とくに繊維関連では、その傾向が強い。
繊維分野においては、技術の高い低いとは何かという部分の見極めが難しい側面がある。
上質とされる生地、糸は「風合い」が良く、希少性の高さを評価されることが多いと感じるが、その一方で耐久性はまるでないことも珍しくない。
一方で、合繊メーカーが主導で開発するような機能性繊維・機能性生地は、機能性の高さが高品質だとされる。
ここが繊維分野のめんどくさくてややこしいところで、二つの評価軸が入り乱れている。
近年の風潮では、中国やアジアの工場の技術水準が上がり「日本ではできないが中国でならできる」という生地も多く見られるようになった。
例えば、手編みセーターを量産することは最早日本では難しくなっていて、数年前までは中国がその量産基地だった。
また、ハイキックストレッチデニムは日本の工場ではなく、トルコのISKOが最初に開発したもので、ユニクロのウルトラストレッチデニムも初期はほとんどがISKO製ハイキックストレッチデニム生地を使用していた。
またISKOは変型版二重織りストレッチデニムの特許を獲得していて、一見、裏毛(編み物)に見えるデニム生地(織物)はISKOが独占的に製造できるようになっており、そういう技術面からいえば、ある意味で日本よりも技術水準が高いともいえる。
じゃあ、日本の工場の技術が低いかというとそうでもない。
以前に取材した松原市のスポーツ靴下製造工場コーマは、旧型の編み機を使って3D編みを実現している。
足裏の部分部分によって編みの厚さを変えるという技法で、これを旧型の編み機を使ってやれる工場は数少ない。
工場というより工員が少ないと言った方が適切だろうか。
中国やアジアの最新鋭の編み機でもできないともいわれている。
このように一概には、高い低いが言えないのが繊維分野の技術であり、これは他の分野でも同様なのではないかと思う。
中国やアジアに追いつかれたことで危機感を募らせて、日本衰退論を唱える自虐的な人が多いが、中国が経済発展し始めて25年くらいが経過している。
赤ちゃんだって25年も経てば結婚するくらいにまで成長するのだから、中国やアジアの工場の技術が進歩するのは当然といえる。
逆に25年間進歩しないのなら、よほどのアホがそろった国だとしか言いようがない。
一方、繊維分野に限っていえば、国内工場は設備投資がほとんどされず人員も補充されなかったから、できないことが増えるのは当然で、それでもかつての水準を全分野において維持せよというのは、タケヤリでB29を落とせと言っていた旧日本軍と同様のアホな精神論でしかない。
それぞれの分野ごとで是々非々で比較対象し、努力するほかない。
極端な楽観主義も意味がないが、総悲観主義も意味がない。
日本よりも前に繊維製造大国だったのはアメリカだが、アメリカには現在ほとんど繊維の製造加工業は残っていない。
製造基地の海外移転によって、なくなってしまった。
日本は繊維関連工場がアメリカに比べれば残っている方だといえる。
じゃあ、日本の次の繊維製造大国になった中国はどうか。
すでに中国でも繊維関係の工場の工員が集まらないといわれている。
目先の利益に敏い(悪く言えば強欲な)中国人だから、今後経済成長が続けばさらに繊維関連の工場は工員が集まらなくなり、いずれはアメリカのようになるのかもしれない。日本ほどは工場が残らないだろうと思う。
日本の工場の現在の弱点は、ディレクションやプロデュースする人がいない、もしくはそれに対して頑強に抵抗するという工場側のマインドが一つ挙げられるのではないかと思う。
先日、このブログで書いたように、デニム製造関連の人々は、「色落ちしないデニム」や「合繊混デニム」をことのほか嫌う。
幾人も接したことがあるが、40代以上の人々の多くからは「できればやりたくない」という雰囲気を感じるし、あからさまにそう言われたこともある。
バブル期のファッションが見直されて、その当時の主流だったモヤっと色落ちする空紡糸デニムの需要が高まっているのに、国内メーカーは長らく腰をあげなかった。
彼らからするとデニムとは、リング糸で織られて、タテ落ち感があってヒゲ状に色落ちするビンテージタイプのデニム生地が正当で、80年代の空紡糸デニムは邪道だという感覚があるからだ。
しかし、ビンテージ風デニム生地を全廃する必要もなく、需要がある80年代調デニム生地を織りながら、ビンテージ風デニム生地も作り続ければ良いだけのことだが、なぜかそういう割り切りを嫌う人が多く、その心理は理解しがたい。
以前、こんなこともあった。
某産地で、若手デザイナー(当時)が生地提案をした。これはそういう業務と内容だったからだ。
全部で3色だったと記憶している。
黄色×パープル、ミントグリーン×紫、あとグレー×黒だったという記憶だ。
このうち、生地工場はミントグリーンを作ることを拒否した。
あからさまな拒否ではなく、最初のサンプルは色のトーンをグレーベースのくすんだものに変えたのである。
デザイナーの指示した色番号ではない。
理由は「明るすぎて売れないと思ったから勝手に変えた」である。
日本の工場にはこういう癖がある。これが良いように出れば、工場のアレンジによって売れたということにもなるが、悪い方に出れば工場が指示を守らなかったから売れなかったということにもなる。
そして、両方が繊維分野に限らず多々ある。
これが日本の工場の強さでもあり弱さでもある。
それをまあ、無理やり当初通りに修正させて展示会に出展させたところ、非常に評判が良かった。
そうするとその工場の社長は手のひらを返したように「ワシは最初から売れると思っていた」と言い始めた。
繊維工場あるあるである。
売れると思っていたならどうして最初から指示を守らなかったのか。
アホらしすぎて突っ込むことさえやめた。
こんなことは繊維関連の工場では日常茶飯事だ。何も珍しいことではない。
頑強に合繊を打ち込むことを拒否していたが、無理やりに打ち込まさせるとその生地は非常に評判が良かった。
そうすると、工場の社長は「ワシは最初から合繊混がイケると思っていた」と言い始める。
笑い話ではなく、これが業界標準である。
しかし、この工場メンタリティがある限り、日本の繊維関連工場が世界に先んじることは難しいだろうと思う。
繊維に限らず、日本の工場がもっとも真価を発揮するのは、詳細が明確でないモヤっとした指示を、工場が独自にアレンジしたときであり、それでは計画的な開発を続けるメーカーやブランドには太刀打ちできないのも事実である。

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「知名度主義」の人材起用がアパレル業界を低迷させている
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/n50ca3a6bf56c
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80年代調のデニムアイテムはこんな感じ

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