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南充浩 オフィシャルブログ

低価格商品に最高峰品質は必要ない 

2018年2月13日 産地 0

先日、神戸のレディース靴工場、ロンタムの神農社長と遅めの新年会をした。
実は、1月中に5人くらいで新年会をするはずだったのだが、前日にぎっくり腰を発症されて、欠席になってしまったので、今回はその挽回戦となったわけである。
当方も含めたオッサンの身体は漏れなく傷んでいる。(笑)
神農社長と知り合ったのは、2015年に当方がブログセミナーを開催した際、出席してくださったことがきっかけだった。
それから神農社長はずっとブログを書き続けておられる。
http://blog.livedoor.jp/masamichirontam/
ブログの効果としては、ブログを読んだと言って受注があることがチラホラ出てきたことだという。
何事も継続は力なりである。
とは言っても、工場の現実は厳しく、神農社長によると長田にあるケミカルシューズ工場は全般的に厳しい状況にあるという。
そうそう、ケミカルシューズという言葉だが、当方にはあまり違和感がないが、まれにその言葉を聞いたことがないという人もおられるそうだから、簡単に説明しておくと、本革の靴ではなく、合皮やビニールというような化学的な素材を使って作る靴のことである。
だから、元々は低価格向けとして作られていた。
低価格ということは大量生産・大量販売が前提である。
しかし、中国やアセアンなどでさらなる低価格ケミカルシューズが作られて、日本に輸入されるようになると苦境に転じた。
低価格ではアジア製には勝てない、かといって品質や機能性では高額靴メーカーには勝てない、というサンドイッチ状態に陥ってしまっている。
また、靴業界そのものも苦戦傾向にあるらしく、いわゆる品ぞろえ型「靴専門店」がかなり厳しいそうだ。
神農社長に言われてみると、パッと思いつくのは「ABCマート」やチヨダくらいで、「ダイアナ」「マリング」などの靴専門店は店舗数を減らしているし、店としての明確なイメージが思い浮かばない。
ABCマートだと「スニーカー」というイメージが思い浮かぶが、ダイアナ、マリングあたりになると一応、レディースのパンプスとかハイヒールが思い浮かぶが店舗に行くと、スニーカーはあるしワークブーツもあるし、で何が得意な店なのかがわかりにくい。
それ以外だと、ブランドの直営店やオンリーショップばかりが思い浮かぶ。
例えば、オッサン的発想なら「リーガル」だ。
そうなると、新規取引先の開拓といっても限られるので、必然的にロンタムはアパレルや大手セレクトショップの別注品やOEM生産が増えているという。
これは他の靴工場も同じなのではないだろうか。
そんな状況を打破すべく神農社長は奮戦しておられるが、上記のような理由で、いわゆる新規卸先を開拓するのはかなり難しい状態になっている。
神農社長にヒントを求められたのだが、そんなものを提示できるなら当方はとっくに金持ちになって、スーパー万代で定価で食材を買っている。
具体的なヒントは差し上げたくても差し上げられないからひどく原則的なことをお答えした。
オリジナル製品を作って拡販を図るとして、
1、品質、機能性以外の価値を提供できること
2、工場の背景や歴史をストーリー化すること
3、消費者に「欲しい」「買ってみようかな」と思わせる「価値」を作ること
を挙げた。
あくまでも原則論なので、これをもとにどう組み立てるかは、大手アパレル並みに相手に丸投げしておいた。
神農社長は「真面目」な性質で、「オリジナル製品を作るにしても僕らの商品はまだまだ品質的には最高峰には程遠く・・・」と常に言われ、その職人としての求道精神には本当に敬服しているが、それではなかなか進まない。
こういう職人の求道精神は大切にしたいと思いつつも、ビジネスを進める上ではどこかで割り切る必要があるとも思う。
最高峰の品質を実現した暁には、その商品の販売価格はいくらにするのだろうか?
最高峰の品質だから10万円では、よほどのブランド力やステイタス性がないと誰も買わない。
ましてや新参ブランドでは絶対に買わない。
また、神農社長ご自身でも、婦人のパンプス類の店頭販売価格は13000円くらいが限界だとおっしゃっている。
普通に考えても安いパンプスなら2000円くらいで売られているご時世で、よほどの何かがないと2万円を越えるパンプスは買わない。
そうなると、紳士靴ならまだしも婦人靴で2万円を越える高価格を付けることはちょっと現実的ではない。
どこかの部分で値段相応に品質を割り切る姿勢が必要だろう。
1万円だからこの品質、最高峰品質だから5万円という具合に。
これは以前に、初著書「小さな企業が生き残る」(日経BP)を紹介したセメントプロデュースデザインの金谷勉社長も同じ主張である。
金谷社長の場合は伝統工芸に対して、
最高峰のハイエンドモデルだけではなく、一般人でも手に取りやすい価格の入門編を作るべきだ。その入門編は簡略化した技法で作れば良い
と提言しておられ、まさにそれが必要ではないか。
例えば、オール手塗の漆器があったとして、それが10万円くらいするなら買う人・買いたい人は限られる。
しかし、漆塗りの技法を簡略化して5000円くらいにして発売したらどうだろうか。プロモーションの手法や商品デザインにもよるが、多くの人が買いたい、買ってみても良いとなる。
ロンタムのオリジナル靴もこの割り切り方が必要ではないかと思う。
さらにいえば、機能性や品質とは別の価値提供という部分では、スタートトゥデイのプライベートブランド「ZOZO」を参考にすべきだろう。あのTシャツとジーンズの品質や機能性は値段相応に過ぎないのに、多くの人がそこに「価値」を見出している。
正確に言えば、価値を見出したと錯覚しているだけなのかもしれないが、そう思わせる手法はブランド運営には必要になる。
神農社長の悩みを聞きながら、アパレルブランドも同じ部分で悩んでいるのではないかと思った。
もうすでに、服という単品での品質と機能性、デザイン性では差別化できない状況になっている。
もちろん、そういう部分にフォーカスするマニア客は存在するがそこの人数は多くない。
仲間と数億円程度の売上高が稼げて利益率が確保できれば良いなら、そのマニア層を狙っても良いが、何十億円・何百億円の売上高を目指すならマス層に向けて売るしかない。
しかし、マス層に「品質ガー」「機能性ガー」「デザインガー」ばかり唱えていても仕方がない。
デザインはさておき、もうすでにユニクロや無印良品の商品に品質も機能性も負けているアパレルブランドが多数あるから、その土俵で戦ってもさらに負けるだけのことである。
だったら違う価値を提示するしかない。
その価値を作れたブランドだけが生き残れるだろう。

NOTEを更新~♪
プライベートブランド「ZOZO」の生産システムは、現時点では「完全オーダーメイド」ではない
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/nc6e9da2bffeb
あと、インスタグラムもやってま~す♪
https://www.instagram.com/minamimitsuhiro
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