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南充浩 オフィシャルブログ

ド素人の身内にデザインを任せて産地企業のブランド化はいつも失敗する

2016年9月23日 デザイナー 0

 産地企業も純然たる下請けでは生き延びることができないので続々と自社ブランドを開発するようになっている。
で、先日、業界紙でそんな特集を読んだ。

記事の内容はまあ可もなく不可もなく、がんばってくださいねという感想しかないが、商品写真を見たところかなり「???」という感じを受けた。
もちろん、撮影が悪いことも考えられる。
また印刷されたのでそれによって見栄えが悪くなったことも考えられる。

もしかしたら実物はかなり良い感じなのかもしれない。

しかし、画像を見ただけの感想でいうなら、ちょっと購買してもらうのは難しいんじゃないかと感じる商品が多かった。

画像を見た感じだと、素人のデザイン画に基づいて素人が縫製したようだった。

ここからは完全に推測だが、商品デザインをもしかしたら工場のオッサンとかにいちゃんがやっていないか?

あと、このブランドのターゲットは?コンセプトは?テイストは?価格帯は?
工場の社長とかオッサンとかが思い付きで設定していないか?練られたものとは到底思えなかった。

多くの繊維の製造加工業者は「物」にはいくらでも金を支払うが、「形のない物」には1万円の金だって支払いたがらない。
ここでいう「形のない物」とはデザインだったり広報だったりブランドプロデュースだったりマーケティングだったりのことを指す。
これらはオリジナル商品を販売するにおいて必ず必要となる要素である。

けれども手に取って見られるような「物」ではない。

1台何千万円、何億円もするような機械を買うことにあまり躊躇はしない。
知っている範囲でいうと、かなり気軽に機械を買う。

が、デザイナーに支払う1万円は異様に惜しがる。どうせ毎晩酒を飲みに行って何万円も支払っているんだからそれをデザイナーのギャラに回せばよいと思うのだが、そうではないようだ。
このあたりの産地のおっさんのメンタルはまるっきり理解不能である。理解したいとも思わないが。

それはさておき。

ブランドスタート時にデザインのプロを使わないことで、当初の投資額は下げられるかもしれないが、走り始めてからの修正に次ぐ修正にかかるコストを考えると、どちらがお得なのかちょっとわからなくなる。
もしかしたら、素人デザインで素人製作から始まって何年も修正し続けていく方がトータルコストは高いのではないかと最近思い始めている。

また素人デザインで始めたことによってブランドがビジネス規模に育つまでの長い月日を考えるとこれもかなり無駄ではないかと思える。

プロを適切に使えば、その半分の年数でビジネス規模に育つ可能性が高い。

このあたりのコスト総額は算出するのが難しいが、実際のところ、開始当初にデザイナー費をケチることがそんなにお得だとは思えない。

それにしてもこういう話は10年前からあって今もまったく変わっていない。

某染工場がデザイナーと契約してオリジナル柄を開発し、その柄を使ったオリジナル製品を作ったことがある。
もう10年前のことだ。

ところが2年目くらいに助成金が切れたのか、彼らが想像したほど(かなり過大な期待を抱いていたっぽい)売れなかったからか、デザイナーとの契約をやめて自社で図柄開発をすると言い出した。

だれが図柄を開発するかというと、ド素人たる社長の息子である。
サンプルを見せてもらったことがあるが、近所のオッサンが描いた落書きと同レベルだった。

これをいろいろな展示会に出品したが、ド素人の落書きが施された商品が受注されるはずもなく、いつの間にかこっそりひっそりブランドは終わっていた。

こんなことをやっている工場は今でも珍しくない。

どうすれば成功するのかということをまとめることは難しいし、その通りにやっても成功するとは限らない。
ユニクロと同じことを今から別の会社がやったって成功するとは限らないのである。

しかし、こうやれば失敗するというノウハウは100%外れない。

勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし、である。

こういう産地企業の失敗事例は掃いて捨てるほどあり、どれもこれも同じような理由で失敗している。
産地企業同士の情報網でそういう失敗事例は即座に広まるはずである。
どうして繰り返される失敗事例に学ばないのか。

そういう産地企業のメンタルは本当に不可解で理解不能である。

「形のない物に金は払いたくない」という産地特有のメンタリティーはそろそろ矯正すべきである。
そうでなければ何百年やったって自社ブランド開発なんてできっこない。





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