ヌッテが特集された「ガイアの夜明け」を見た感想
2016年9月15日 企業研究 0
9月13日にテレビ東京系「ガイアの夜明け」で縫製職人とオーダーをマッチングさせるサービス「ヌッテ」が紹介された。
このシステムは今のところ、縫製職人とかサンプル生産工場に対して仕事を供給するものなので、発注側も1枚とか超小ロットが多い。
極端な話、「娘が来月の発表会で着用するドレスを縫ってほしい」というような依頼が主流である。
1型100枚(サイズ込・色柄込)のような商業ベースに乗るような生産依頼はあまりないし、現在のヌッテの登録者(縫製職人・サンプル工場)は小規模で対応できないことが多い。
放送を見ていたが、番組制作側もそれを見ていた視聴者もその部分がイマイチわかってなかったのではないかと感じられた。
同様にファクトリエやシタテルなどのインターネットを使って、縫製とオーダーを結び付けるサービスがあるが、ファクトリエ、シタテルが商業ベース、工業ベースの生産を請け負うのに対して、現段階のヌッテはあくまでも個人需要に近い生産を請け負っているという違いがあるのだが、その部分はあの放送ではあまりわかりやすく説明されていなかった。
実際に縫製工場の人や製造加工業の人も多数放送を見ていたようで、フェイスブックでもツイッターでも交流のある人たちが感想をいろいろと述べておられたが、彼らでは間尺に合わないのは当然である。
しかし、あの番組内では随分と疑問なストーリー展開も見受けられた。
ヌッテを活用している子持ちの若奥様の実例である。
自分でイメージした子供服を縫ってもらうのだという。
生地は「会津木綿」を生産するはらっぱから購入。合計で7000円ほどだった。
それをヌッテを介して縫製工賃15000円で依頼した。
1枚だけのオーダーだったし、サイズも画面に映っていたお子様と同じくらいだったので、てっきり「子供さんに着せるんだな。それにしても2万2000円の子供服ってこの奥様はセレブだな。羨ましい」と思って見ていた。
すると、子供服店での受注販売会みたいなのい出品してて、「え?売るんかい」とズッコケた。
しかも製造に2万2000かかったのに、売価は1万6000円。
ナレーションは「テスト販売品なので今回は赤字覚悟。でも受注数量がまとまればコストが抑えられて採算が好転するはず(意訳)」みたいな内容のことを語っていた。
それも「????」である。
通常の洋服は原価率が平均で30%前後とされている。
となると、16000円で販売するなら、製造原価は5000円強にしなくてはならない。
ちょっと素人商売臭かったから、原価はもっと高く設定しているのかもしれない。
会津木綿は38センチ幅しかないから、1メートル1000円と言っても、用尺が多くかかる。
サンプルで7000円かかっていたので7メートル前後を買ったということになる。
となると、いくら製造枚数が増えても生地代だけで7000円前後かかることになる。
製造枚数が増えれば生地代も1メートルあたり安くしてもらえると推測されるが、それでもまさか300円とか200円にはならないだろう。幅が狭いので1着当たりにかかる生地代は安くても4000~5000円になるはずだ。
となると、縫製工賃がどうなるかだ。
10着くらい生産しても縫製工賃はほとんど値下がりしない。
1型100枚くらい作れば、1枚あたりの工賃は1500円とか2000円くらいにはなる。
100枚生産してやっと製造原価が5500~7000円くらいになる。
これが通常の卸売り型子供服アパレルならまだまだ赤字である。
個人の趣味の延長線上でゆるく直接販売しているなら、このくらいの原価で16000円で売ることは可能だろう。
しかし、そんなゆるい個人販売で100枚も売れるのだろうか?
その部分に疑問を感じる。
もしかしたら、あの若奥様がものすごく影響力があって、インターネット上でフォロワーが1万人くらいいて、一声かければ100人くらいの受注はすぐに集まるのかもしれない。
でもそういう状況でない限り、100枚を売るのはなかなか難しい。
しかも16000円の子供服である。
同価格の大人服や大人向けアクセサリーよりも販売が難しい。
それはさておき。
1枚きりのオーダーで縫製工賃15000円という価格をどう思われるだろうか。
実はこれはけっこう安い。
サンプル生産工場だと1枚の縫製工賃はデザインの複雑さにもよると思うが、最低でも2万円くらいはする。
それに比べると割安なのである。
縫製工場もそうだが、縫製職人、サンプル縫製工場も総じて仕事を探すことが難しくなっている。
一つには中国や東南アジアに円高も手伝って受注が取られているからだが、もう一つは、縫製関係者があまりにもインターネット対応、自己発信をしていないからである。
一部の例外を除いて自己発信している縫製工場、縫製職人、サンプル工場はいまだに少ない。
ブログやツイッター、フェイスブックなどのSNSはおろか、ウェブサイト(俗にいうホームページのこと)すら所有していないところが大半である。
交流のある某サンプル工場の社長は「ホームページを作ったおかげで問い合わせがむちゃくちゃ増えた」と言っている。
大したデザインのホームページでもない。極めて初歩的なデザイン、システムのホームページである。
それでもアパレルやブランドからの問い合わせがそこそこにある。
このブログで何度も書いているが、今の世の中、物を調べるときに真っ先にウェブで検索する。
ホームページがなければこのウェブ検索に引っかからない。
ファクトリエの人は、電話帳の上から下まで全部電話を掛けたと言っているが、通常のアパレルもブランドもそこまでして縫製工場や縫製職人、サンプル工場を探そうとはまったく思わない。
なぜなら時間の無駄だからだ。ならOEM/ODM屋とか商社に多少割高でも依頼する。
そのほうが手っ取り早い。
彼ら縫製関係者が自分たちでウェブを使って自己発信をしていれば、別にファクトリエもヌッテもシタテルも必要ないのである。
それができない、やりたくない、やる気がないというのであれば、ヌッテなりそういうところに登録するほかない。
サンプル工賃として見た場合、ヌッテを介して提示される価格は概ね割安である。
ヌッテも含めて各社は今後、さらに様々なサービスを開始すると思うし改善点も多々生じると思うが、現在の縫製関係者が自ら変わらない限りはこれらのサービスは不可欠な存在であり続けるだろう。