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南充浩 オフィシャルブログ

「工場名だけは勘弁」という態度がますます工場を窮地に追いやる

2016年6月13日 産地 0

 今年4月に46歳になってしまい、もう気分は50歳である。
よく考えてみると残りの人生のほうが少なくなっており、もうすぐ人生が終わるなあとしみじみ思う。
大したことは何もしてこなかったが、最初の販売員時代も含めると、衣料品業界歴も20年を越えており、年数だけを見たらベテランと呼ばれる領域に入りつつある。

最近だと取材で自分より若い人に会うことのほうが多くなってきており、にわかに老境に達したことを思い知らされるわけだが、先日、30代前半のお若い方とお会いした。

年代が10年違うとやっぱり経験してきた事案が違うので、筆者世代が当たり前に知っている事件や風習も10年下だと「初耳でした」なんてことがよくある。

5年くらい前から繊維業界では、国内生産がメディア上では再注目され始めた。
実情でいうと国内生産比率はまったく上がらず、かえって倒産・廃業で国内生産比率は下がっているくらいである。
衣料品の海外輸入品比率は相変わらず97%で、国内品比率は3%くらいしかない。

国内工場が倒産・廃業する理由はさまざまあるが、織布工場や編立工場などの生地を製造する工場はまだしも染色加工場や整理加工場、縫製工場などはメディアへの露出が少なく、世間的知名度が低いため新しい仕事も新規従業員も入ってきにくい。
そのため、資金繰りに窮して倒産したり、後継者難でモチベーションが低下して廃業に至ったりする。

その原因はどうしてですか?とその若い人から尋ねられた。
それは一部の例外を除いて製造加工業者の多くは依然として自己発信が下手くそだからだ。
知られていないのは存在しないのと同然である。

じゃあ、どうして自己発信が下手くそなのかというと理由は2つある。

1、バブル期くらいまでは景気が良かったので自己発信する必要がなかった

2、取引先であるブランドやメーカーから止められている(止められていた)から

の2つである。

1については完全な自己責任である。
バブルもとっくに終わってるんだからそのあとは自分らで何とかすべきであろう。

2については、ブランドやメーカーにも責任の一端があるのではないかと思う。
バブル期ならまだしも製造加工業者の数がこれだけ減っているのに、まだこういうことをやっているブランドやメーカーが珍しくない。

その話をすると若い人は「信じられない」というような表情になったが、これが繊維・ファッション業界の実情である。
そんな話をしたつい数日後に繊研新聞にこんなコラムが掲載された。

http://www.senken.co.jp/column/metemimi/cost0610/

国内生産の話だが、こんな一節がある。

数日後、メンズブランドを立ち上げたばかりのデザイナーが、生地や副資材の調達先、縫製工場ともに、頻繁に通える距離にあることをうれしそうに話してくれた。ただ、小ロット生産を請け負う縫製工場を見つけるのには苦労したようで、「工場名だけは勘弁」とのこと。他のブランドに目を付けられては困るからだ

これまでブランドやメーカーが工場をひた隠しにしてきたのは、「他のブランドに目を付けられては困るからだ」である。
そしてバブルもとっくにはじけて、国内生産比率が3%にまで落ち込んでも相変わらずブランドの体質は変わらないということになる。

これがバブル期ならひた隠しにしても構わない。
そのブランド以外からも仕事が回ってきていた。

しかし、今はそんな状況ではない。
下手をするとこの立ち上げたばかりの脆弱なメンズブランドのみしか工場に仕事がない場合がある。
このブランドが毎月一定量の生産ロットを発注してくれればまだしもだが、発注もとぎれとぎれだと、工場は死活問題である。
おまけにこのメンズブランドが未来永劫ともに取り組んでくれれば良いが、ブランド側が自社の都合を優先して何年か後に取引を解消することは珍しくない。
もし、仮に何年か後に取引を解消すれば、この工場はたちどころに倒産するだろう。
なにせこの脆弱なメンズブランドしか取引先がなかったのだから。

工場名を隠すということはこういうデメリットがある。
メリットがあるのはブランド側だけである。しかも「他社に注文されない」という極めて後ろ向きのメリットだけが。

海外のラグジュアリーブランドもこういう面では厳しい。
しかし、例えば、「〇〇品番の生地を出荷しました。色番号はこれです」という具体的な情報開示には極めて厳しいが、「〇〇ブランドとは毎シーズン取り組まさせてもらっています」という程度の情報開示はそれほど目くじらを立てない。

その程度の情報開示を拒むのは国内ブランドくらいである。

かくして、いまだに「工場名だけは勘弁」などと言っているから、工場には他の仕事が入らず、最悪の場合、倒産か廃業に至る。そこまで言うのなら未来永劫工場の面倒を見れば良いが、そんな良心的なブランドの存在は耳にしたことがない。

国内のアパレルブランドやデザイナーズブランドの中には、国内工場の減少をグローバルファストファッションのせいだと指摘する声もあるが、果たして彼らだけが悪いのだろうか?
海外ラグジュアリーブランド以上の厳しい情報制限をしてきて、今もそれを続けている国内アパレル、ブランドにもその責任の一端があるのではないか。

そのため、工場の知名度は低いままになり、自己発信のスキルさえ上がらず、世間的には存在しないのと同然になり下がっているのではないか。

昨今、「国内生産を守りたい」みたいなことを口にするブランドが増えたが、本当にそう思うなら工場が立ち行くくらい仕事が入るように工場名くらいの情報開示はすべきだし、工場側に情報発信をさせるべきであろう。
それができないなら、単なる綺麗事である。

ブランド側にも都合はあるだろうが、この環境下において、いまだに「工場名だけは勘弁」などと言ってる姿勢は極めてナンセンスだと思う。

ユニクロ対ZARA
齊藤 孝浩
日本経済新聞出版社
2014-11-20




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