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南充浩 オフィシャルブログ

福知山に1軒だけ残ったタオル工場

2015年12月28日 産地 0

 京都府の福知山にタオル工場があるのをご存知だろうか。
恥ずかしながら筆者が知ったのは今月下旬のことだ。

そのきっかけは21日に開催した京都イージーの岸本栄司さんとの呑み会である。
以前から声をかけていただいていたが、日程を決めないままズルズルと年末まで来てしまったので、年内にやりましょうということで、日程を決めた。

そうすると、岸本さんから「藤田さんも連れて行って良いですか?福知山でタオルを販売している人です」との連絡があって、最初は額面通りに受け取っていた。

いざ、お会いしてお話を伺うと、タオルを製造されているとのこと。

これには驚いた。

これまでタオル産地は、大阪の泉大津周辺の「泉州産地」か、愛媛県今治市周辺の「今治産地」しか知らなかったからだ。
おそらく、一般消費者はもとより、繊維業界の多くの人もこの2つの産地しか知らないのではないか。

その藤田さんによると「昔は、福知山に8軒のタオル工場があった」とのこと。
しかし、すでに7軒はなくなって、今では藤田さんの三和タオル製織しか残っていないという。

「自分は4代目ですが、何度も経営危機があり、近隣のタオル工場が次々に消えていくのを見て、このままでは立ち行かないと感じて、ネット通販による自社販売を立ち上げました」と藤田さんは言う。
単なるタオル工場としては限界を感じていたからこその転進である。
いわゆる正真正銘のSPA(製造小売り)業へと踏み出したわけである。もちろん、卸売りは継続しつつだが。

http://www.original-towel.jp/

会社概要によると、製造設備はこうなっている。

「ドビー織機  自動へム機   プリント機
熱風乾燥機   製版設備   工業ミシン
刺繍機(多頭機)  検針機     整経機 」

である。

通販サイトは、「たおる小町」の名前で展開している。

http://www.towel-komachi.co.jp/

呑み会の2,3日後に突然、自宅に「三和タオル」から荷物が送られてきた。
何だろうと思って開けてみると、製品のサンプルが入っていた。

バスタオルとフェイスタオルとガーゼタオルである。

FullSizeRender

(送られてきたタオル)

生地はあまり厚くない。
もちろん、銀行や郵便局でもらう粗品タオルほど薄くはないが、昨今流行りの「今治タオル」のように厚手ではない。中肉と表現したら良いのだろうか。

そういえば、飲み会の席上で藤田さんは「うちは厚手のタオルを設備上作れない。薄地主体になります。でも極薄は別として、中肉くらいなら厚手と吸水性はあまり変わらないんです」とおっしゃっていたことを思い出した。

なるほど。

厚手のタオルは吸水性は良いかもしれないが、洗濯すると乾燥するまで時間がかかる。
中肉なら当然、乾燥までの時間は短縮される。
もし、本当に吸水性が変わらないなら中肉タオルの方が、日常使用には便利ではないか。

試しに1枚洗濯してみた。
乾かしてから顔を洗って拭いてみたが、吸水性は問題ない。

反対に厚手タオルの中には何度か洗濯を繰り返さないと吸水性が高まらない製品があるが、あれに比べると格段に手間がかからない。
何度も洗濯しないと水を吸いにくいタオルなんて、いくら手触りがふかふかであろうが、筆者にとっての製品価値はゼロだ。
タオルなんて使ってナンボであって、飾って楽しむ物ではない。

タオルに関していうと、現在の今治タオルは、ふかふか厚手の無地タオルが主流になっている。
これはいわゆる「後晒し」という製造法で作られており、この「後晒し」はもともと泉州産地が得意とする製造法だった。
今治産地は、後晒しよりもプリント柄や織り柄入りのタオル製造を得意としていた。

90年代半ばまでは、贈答用のタオルは、有名ブランドとのライセンス契約を結んだものが主流で、鮮やか、ときに毒々しい色柄でそのステイタス性を表現していた。
今治産地はこれを得意としていた。
タオルももちろんそうだが、タオルに限らずブランド側としてもライセンス契約は何の労力もなく金を得られるので美味しい話だったわけである。

だから「Celine」の便所マットなんていう珍妙な物が作られ、販売されていた。

ところがバブル崩壊後、そういう毒々しい色柄のライセンスタオルは「ダサい」と言われるようになった。
そこで今治産地は方向転換を行い、後晒しを全面的に打ち出した。

当然、そこに行きつくまでに産地内では喧々諤々の議論があったと聞いている。

結果的に見るとその方向転換は正解だった。

一方、「元祖後晒し」の泉州産地は出遅れたという感じがある。
挽回すべく努力をしているのを断続的に外野から眺めているが、有効な手段は見つけ出せていないように感じる。
どれもよくある「産地組合の取り組み」の域を出ていない。
どこか1社か2社が強烈なリーダーシップで、ときに独裁的に取り組まないと、産地の総意を持って進むというやり方を続ける限りは総花的な意見を採ることになるので、無理だろう。

さて、今回、三和タオルの存在を知って、世間的には知られていない会社がまだまだあることを再認識した。
1軒しか残っていないからこそ、ウェブ通販による完全SPAが実現できたのではないか。
8軒のタオル工場が残っていて、共同組合みたいなものが形成されていたら、逆に何もできなかったのではないかとも思う。

工場発のタオルSPA業態をぜひとも完成させてもらいたいと願っている。





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