洋服が売れにくい理由
2015年12月15日 考察 0
去年の秋口から月に2回、ファッション専門学校で講義(というか業界漫談?)を行っているのだが、つい先日、年内最後の講義をした。
相手は来春から就職する学生たちである。
彼らに対して言いたいことは「今は洋服が売れにくい・売りにくい時代」であるということ。
「売れない」ではない。
なぜなら、苦戦する大手アパレル各社でも減収したとはいえ、500億円とか1000億円とか2000億円の売上高があるからだ。売上高がゼロになっているわけではない。
しかし、高度経済成長期やバブル期ほどの売れ行きではない。
なぜ「売れにくい・売りにくい時代」になったのか。
理由をいくつか挙げてみたい。
1、可処分所得が減った人が多い
2、トレンドが長期間ほとんど変わらない
3、消費者はすでに多くの洋服を持っている
大きくはこの3つであろう。
バブル崩壊以降、雇用は不安定となり、賃金・賞与は減り続けてきた。
当然、節約志向になる人が多い。こういう状況下で湯水のように借りてまで金を使える人がいたら、よほどの豪傑かアホかのどちらかである。
どこから節約するかというと、嗜好品の性格が強い洋服代である。
食費も削るがゼロにはできない。
なぜなら、人間は食べないと死ぬからだ。
しかし、洋服を1年間1枚も買わずにいても死なない。病気にもならない。
となると、真っ先に今まで使い過ぎていた洋服代をセーブする。
次にこの10年間、トレンドは大きくは変わっていない。
メンズは相変わらず細身が主流だ。
ビッグシルエットが復活しつつあるとはいうものの、細身シルエットが基調にあり、そこにアクセントとしてビッグシルエットが加わっているというのが正確な現状分析だろう。
かつてのギャングスタイルやストリートが復活すると指摘する専門家もいるが、果たしてそれがマス化するかどうかは怪しいのではないかと個人的には見ている。
洋服を爆発的に売ろうと思ったらトレンドが毎年大きく変化すれば良いのである。
2005年にクールビズが提唱され、半袖ワイシャツが市民権を得た。
その結果どうなったかというとその年の夏、半袖シャツが爆発的に売れた。
ヤマトインターナショナルの夏冬のファミリーセールにはほぼ欠かさずに行っているが、この年の夏には半袖シャツが一枚も出品されていなかった。
顔見知りの社員を捕まえて理由を尋ねると「クールビズの影響で半袖シャツが品切れで、ファミリーセールに出品できなかった」との答えが返ってきた。
半袖シャツが品切れだったのは後にも先にもこの1度だけである。
またワイシャツメーカー、山喜の決算も好調で、理由は半袖シャツが爆発的に売れたからである。
別のワイシャツメーカーは、在庫の長袖シャツの袖をすべてカットして売って、長年蓄積されていた在庫を一掃できたという。
トレンドが大きく変われば、爆発的に売れるという実例である。
しかし、残念ながらこの10年間、トレンドはほとんど変わっていない。
5年前に買った洋服を今着用しても違和感はない。
となると、必然的に毎年服を買う理由がない。
そして、すでに消費者は多くの服を持っている。
春夏秋冬の各シーズンに着用する洋服をそれぞれ5枚や10枚くらいは持っているのではないか。
わざわざ今年、さらに買い足す必要がない。
トレンドは去年とほとんど変わっていないのだから、去年買った洋服だけで暮らしていても別に不都合はない。
なら、買う必要はないと多くの人が判断してもおかしくない。
高度経済成長期やバブル期くらいまでは、多くの消費者はそれほど洋服を所有していなかったから、毎年服を買った。
またトレンドも頻繁に変わったし、それに乗り遅れると恥ずかしいという気持ちが強かったから、新製品を並べると売れた。
売れ残っても値引きをすれば売れた。
消費者が当時のような考え、マインドに戻ることはあり得ない。
その中で仕事としてどのようにしたら自社の洋服がそれなりに売れるのかを考えなくてはならない。
今のアパレルの経営陣は良い時代に若い時分を過ごした人がほとんどである。
消費者の「不要な服は買わない」というマインドを根本的には理解できない人が多いのではないか。
だから「俺たちが若いころは~」なんて的外れの説教、アドバイスが飛び出すのである。
今後、我が国の景気がどれほど良くなろうとも「俺たちの若いころ」には人々のマインドは戻らない。
それを踏まえてどう売るか、売れるものをどう作るか、を考えるのが今後のアパレルビジネスではないだろうか。
残念ながら筆者にも提示できるような答えはない。
あればとっくに金持ちになっている。
個々のブランドやショップで自分たちに適した手法を模索するしかない。
それができなければ淘汰されるだけである。
新製品を並べたら売れるとか値引きをしたら売れるとか、タレントと契約したら売れるとか、そういう状況ではないし、今後もそんな状況にはならない。
タレント自身がやっている(とされている)ブランドでもほとんどは3年程度で終わってしまう。
話した内容はざっと以上のような内容である。