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南充浩 オフィシャルブログ

ゴルチエだけでGMSの衣料品は復活しない

2015年10月13日 デザイナー 0

 10月1日からイトーヨーカドーでデザイナー、ジャンポール・ゴルチエとのコラボ衣料品が発売された。

40代以上の人にとってはゴルチエとは懐かしい響きだろうと思う。

http://www.fashion-press.net/news/15689

セブン&アイ・ホールディングスの新ブランド「セットプルミエ(SEPT PREMIÈRES)」が、2015年秋、イトーヨーカドー、そごう・西武にて販売中だ。また、第1回目のコラボレーションとして、ジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)を迎えたコレクションを、2015年10月1日(木)から発売。

同グループのプライベートブランド「セブンプレミアム」の衣料品バージョンとも言える新ブランド「セットプルミエ」。イトーヨーカドーとそごう・西武が共同開発し、上質感のある日常に最適なウェアを提案する。「時代を映す新ベーシック」をコンセプトに、ベーシックでありながらそこに時代をあらわす色・素材・機能・フィット感を追及していく。

ファッションプレスの記事の引用だが、今回のゴルチエは新ブランドのコラボレーション第1弾ということであり、記事を読む限りでは永続的に取り組むという内容ではない。
第2弾、第3弾と違うデザイナーが起用されるのだと推測される。

商品写真を見る限りにおいては、従来のヨーカドー顧客の好むテイストとは少し違うのかなという印象を受ける。
では、国内市場のトレンドに合致しているかというとそうでもなく、ゴルチエ独特のテイストが何となく漂っているように感じる。
実際の店頭で商品を見てみないとなんとも言えないが。

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ところで、発売が開始されたことによって、メディアには「GMSの衣料品は復活するか?」という記事が並ぶようになったがちょっと気が早いのではないかと思う。

ヨーカドーに限らず、GMSの衣料品は苦戦を続けている。

本日の東洋経済オンラインにイトーヨーカドーの下方修正の記事が掲載されているが、
その原因の一つに「衣料品の不振」と挙げられている。

http://toyokeizai.net/articles/-/87684

イトーヨーカ堂は、消費増税や専門店の台頭で衣料品を中心に苦戦し、2014年度の営業利益は18億円に沈んだ(2013年度は112億円)。今年度はプライベートブランド(PB)商品の開発強化などで回復すると見込んでいたが、厳しい状況はそうすぐに変わらなかった。

この傾向はイトーヨーカドーに限らず、イオン、ユニーその他GMSも同じである。

その理由として、ユニクロやしまむら、無印良品、ハニーズ、ウィゴーなどの低価格衣料専門店がかつてのGMSの顧客を奪ったと筆者は考えている。
またそれ以外のファッション用途顧客もある程度これらの低価格店は取り込んでいる。

またまた回顧で申し訳ないが、DCブーム最盛期だった80年代・90年代前半、GMSの衣料品も絶好調だった。
低価格衣料専門店が台頭する前であり、百貨店やブランドショップで買えない人たちはGMSで買っていた。
とくに肌着や靴下などの実用衣料は強かったし、カジュアルやビジネスもそこそこに強かった。

ただし、今の低価格衣料専門店と異なるのは、GMSにファッション用途を求める層は少なかったというところである。学生だった筆者はそう感じていた。

ファッション的な洋服が欲しいという人が当時、GMSの洋服売り場、とくに平場へ出向くことは珍しかった。
せいぜいがマイカルのビブレまでである。

現在のファッション的衣料品を求める消費者は、ある程度の割合で低価格衣料専門店へ出向く。
実用衣料+ファッション衣料の需要を取り込めているのが低価格衣料専門店だろう。

そういう意味においては、GMSは当時も今もファッション衣料需要を取り込めていないといえる。

何もしなければ今後、永久的にGMSはファッション衣料需要を取り込むことはできないだろう。
それを打破するための新ブランドであり、コラボ第1弾のゴルチエであろう。

違和感があるのはメディアの姿勢である。
この第1弾でどれだけ効果が出るのか、ゴルチエでGMSの衣料品は復活するのか、とかなり短兵急な成果を期待しているように見える。

個人的な意見でいうと、ゴルチエだけでヨーカドーの衣料品販売が復活することはあり得ないと考えている。

中長期的に同じような取り組みを繰り返すことで、やっと「ヨーカドーにもファッション衣料はある」とマス消費者に認知されることになるだろう。

ユニクロだってどれほど長い間、この手の取り組みを繰り返してきたことか。

それでやっとある程度までブランドイメージが向上した。(完全に向上したとはいえないが)
90年代後半とか2000年前半のユニクロは、ファッション的というイメージはなかった。
施策を見ると、このころからファッションのイメージを植え付けようと苦心していたが、ほとんどが徒労に終わったと感じられる。

実際にそのイメージが好転し始めたのは2005年以降だろうし、ジル・サンダーとのコラボ「+J」が始まってからだろう。その「+J」にしたって最後期には商品はかなりあまっていたし、驚くほどの値引きで販売されていた。

デザイナーズインビテーション、+Jを経て、やっとユニクロにもファッション的イメージが定着したと見ている。

だからヨーカドーにファッションイメージが定着するのもそれと同じくらいの年月が必要ではないか。
1発花火を打ち上げて一気に何かが変わることなんてほとんどない。

それならイオンの衣料品はかつて東京ガールズコレクションに出展した時点で劇的に好転しただろう。
ところが実際はどうだろう?ファッション衣料を求める層がイオンの衣料品平場で買いたいと思っているだろうか。そんな人はほとんどいないのではないか。

そういえば、以前にイオン関連の人から裏話を聞いたことがある。
その人によると、自社製品開発だか新規事業開発だかのチームは、異様にパリコレをはじめとする海外コレクションを重視すると。
そしてその海外コレクションをできるだけ再現する企画を立ち上げたがるのだそうだ。

しかし、これは自社の顧客を把握していたら絶対にありえない思考である。
まず第一に価格帯が違う。
そしてそこまでハイセンスな商品を求める層は顧客にはいない。

パリコレをイオンの価格帯で再現することなんて不可能だから、最終的にいろいろと妥協した商品が出来上がるのだそうだが、当たり前である。

カットソー1900円という価格帯でパリコレを再現できる、再現しようと考える方がおかしい。

開発の方向性がおかしければいくらパリコレやTGCに入れ込んでみたところで無駄な努力である。

それはさておき。

GMSの衣料品を復活させることは相当に難しいと思うが、本当に復活させるのなら、1発だけの特大花火を打ち上げるのではなく、中長期的な取り組みが必要とされる。

ゴルチエだけで好転することなんて絶対にないだろうが、今回のゴルチエがそのきっかけづくりになれば良いのではないか。
ブランドイメージを好転させるということはそれほど腰を据えて取り組まねばならない案件である。


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