小規模店は既存顧客を最重要視すべき
2015年10月6日 未分類 0
事業規模の設定が必要。
ある大先輩はそうおっしゃっていた。
これはまさしくその通りだろう。
50億円とか100億円の売上高を目指すのと、2億円とか3億円程度の売上高を目指すのとではやり方が大きく異なる。
借り入れが必要なのはどちらも同じだが、50億円とか100億円を目指すなら単なる借り入れだけではなく、ファンドを引き込むことが必要になる。
銀行からの出向社員の受け入れだって必要になるだろう。
かつてドゥニームというジーンズブランドを展開しておられた林 芳亨さんが、ドゥニームブランドを売却した直後でリゾルトを開始する直前にお目にかかったことがあるが、その際、「これからは少人数(おそらく数人)くらいで数億円程度の商売をやりたい」と言っておられたが、そういう選択肢もある。
さて、先日、あるデザイナーズブランドに相談を受けた。
そのブランドの現状はこうである。
専門店への卸売りが主体で年商は1億円台半ばから2億円くらい。
ショールーム兼直営店を1店舗持っている。
自社でオンライン通販をしていない。
数人規模で運営している。
業界の現状としては大手セレクトショップ以外の専門店は一部を除いては苦戦傾向にある。
それゆえ小規模専門店への卸売りを主体とするブランドは良くて現状維持、縮小傾向が当然といえる。
しかし、やりようによっては2000万円くらいは売上高を伸ばすことができるのではないかと思う。
例によって机上の空論で考えてみるのでご了承いただきたい。
まず、オンライン通販機能を自社ウェブサイトに付ける。
すぐさま売上高が急増することはないが、すでにやり方とか内容は別としてブログやSNSでの自己発信をある程度しているから、いくらか売上高は増えるのではないかと考えられる。
卸売り先からバッティングを懸念する声が上がるかもしれないが、卸売りしかしていないブランドでも自社サイトでの通販を手掛けているブランドはたくさんあるから、説得するのはそんなに難しいことではないのではないか。
筆者は個人的に小規模店舗の売上高を伸ばすには「エクスマ」の考え方を導入するのが良いと考えている。
もちろん大手企業にも使える要素はあるが、小規模店舗への導入の方がやり易いと感じる。
そこを基にして考える。
このブランドは、毎シーズンのカタログを送る顧客が100人いるという。
新規顧客を取り込むことは大事だが、この規模のブランドなら既存顧客を手厚くする方が容易に売上高が伸びるのではないかと思う。
携帯電話通信会社の大手3社はすさまじい「乗り換えキャンペーン」を何年間も続けている。
携帯電話に限らず、大手企業はどれだけ利用者を増やすかということが重要だからそれも当然といえる。
しかし、番号持ち運び制度ができてからは、携帯電話通信会社を2年ごとに変える方が経済的だということになってしまった。
電話番号は変わらない。しかし、新規契約者はキャッシュバックがあったり携帯電話機主代がタダ同然になったりする。長年継続使用している人よりも料金的にお得である。
実際に筆者の知り合いには2年ごとに番号を変えずに携帯電話通信会社を変える人がいる。
これがもっとも経済的である。
新規客に厚くて既存顧客に薄いとそういうことになってしまう。
これもエクスマで使われる例だが、ホットペッパーや食べログなんかで、「初回限定〇〇%割引」とか「初回限定半額」みたいなクーポンが付けられることがある。
それを掲載することで通常よりは客数はある程度増えるだろうが、実際のところクーポン客が固定客になる可能性はあまり高くない。
そういう人(筆者も含め)は「〇〇%割引」とか「半額」が好きな人が大部分で、クーポン店を行脚している。
「安い」で集まる人は「安売り」が好きな人で、筆者も含めてそういう人は定価では物やサービスを買わない。
筆者はユニクロを定価では絶対に買わない。
大手だとそういうお客も必要だ。
セール品を買って行ってもらえるお客も重要である。そうでないとセール品が売れ残っていしまうが、小規模店や小規模ブランドならそういう「安いもの好き」のお客はそれほど多く取り込む必要はない。
定価かそれに近い価格で買ってもらえるお客を増やす方が重要である。
では例えば毎シーズンカタログを送付している100人の固定客にもう少し頻繁に手紙を送ってみてはどうだろうか?
例えば、
「夏と冬のバーゲンセール開始時」
「ノベルティが付属するキャンペーン開始時」
「はがきを送った固定客のみ10%割引のシークレットセール開始時」
などの案内である。
あとはイベントを作っても良い。
「お茶会」だとか「試着会」だとか、そういうイベントである。
おそらく来店頻度は何割か上がる。
来店頻度が増えれば、買い上げ数も何%か増えるだろう。
手紙はなるべく手書きが良いが、100人すべてに全文面を手書きにしていたらすぐに腱鞘炎になる。
手紙の本文は自筆で書いたものをスキャンしてハガキの裏面に印刷すれば良い。
ただし、文末の一言は全員に手書きで入れる。
そして徐々に送付先を増やす。
これはとりもなおさず顧客名簿に掲載する名前を増やすという作業である。
こうしたコミュニケーションを増やすことで固定客100人を200人に増やすことは不可能ではないだろう。
1万人の固定客を2万人に増やすことよりは難しいことではない。
固定客が200人になれば直営店の売上高は倍増前後になる。
このブランドが仮に
Tシャツ類5000~6000円
セーター類1万5000~2万5000円
ジャケット3万円台
コート類4万~6万円
くらいの商品価格だとする。
100人の固定客が年間に5万円~10万円を買ってくれたら、それだけで500万~1000万円の売上高になる。
そして固定客数が200人に増えれば計算上は1000~2000万円の売上高が見込めることになる。
ブログとSNSをこまめに更新しての呼び込みと、手紙(ハガキと封書のどちらでも構わない)のこまめな送付を継続することでそれは可能になるのではないか。
SNSだけで毎回、200枚~600枚近くの洋服を販売する短パン社長がいるが、彼の使っている手法はまさしくそれである。
彼の場合は、オンラインサイトも直営店もない。
しかしこのブランドは直営店があるのだからそこはアドバンテージともいえる。
より具体的に顧客を呼び込みやすい。
筆者の推測だが短パン社長には500人内外の固定客がいると考えている。
昨年から数えて10型強を発売しているが、この500人が毎回1万5000円の洋服を1枚買ったとする。
1万5000円×10型×500人=7500万円の年商ということになる。
商品によっては買い上げ人数が500人より少ない場合もあるから実際の年商はもう少し減るが、もし3000万円でも年商が増えれば、数人で展開しているブランドには大きなプラスになる。
そういえば、先日、大先達は「最近、あんまり業界では名前が登場しないが『パパス』というブランドは根強いファンがいて一定需要を支えている」とおっしゃったことがある。
実際のところパパスの顧客数がどれくらいかはわからないが、新規顧客数はあまり多くはないだろう。
ある日突然「今まで興味なかったけど急に『パパス』が魅力的に見えてきた」という人がそんなに存在するとは思えない。
やはり一定数の根強い固定客が売り上げを支えていると見るべきだろう。
大手ブランドが激烈な新規顧客争奪戦を繰り広げるのはやむを得ないが、小規模ブランドや小規模店舗は固定客作りに注力すべきだろう。
「既存顧客を死ぬほど大事にしなさい」というエクスマの方式を取り入れやすいのは小規模ブランド・小規模店舗だろう。
固定客作り=コミュニケーション=企業スタッフや企業オーナーの顔や考え方を見せる
という図式になるのではないか。
「余所行き」のコメントに終始した発信をしても仕方がない。
ブログやSNSの発信も手紙の送付もローコストで済む。
ただし手間はかかる。
そのひと手間を惜しんでいては、小規模ブランド・小規模店はたやすく大手に弾かれてしまうだろう。
めんどくさい部分は多々あるが、こういう地道なファン作りしか今後、小規模ブランド・小規模店が生き残る道はないのではないか。
品揃えの豊富さでもリーズナブルさでも大手の方が圧倒的に優位なのだから。