工員の賃金を上げる取り組みはなかなか難しい
2015年9月14日 未分類 0
先日、某小規模ブランドの人から「国内縫製工場を自前で構えようかなと思っている」と相談を受けた。
申請の方法によっては国や地方自治体から補助金や助成金が下りるのではないかと思うので、その旨を伝えた。
また資金に余裕があれば、廃業する国内縫製工場を買収することも一つの方法である。
廃業する国内縫製工場なんて掃いて捨てるほどある。
単一ブランドならまだしもフルアイテムブランドだと、どのアイテムを自社の縫製部門で担当するのかを決めるのは難しい。
何せ、縫製工場はそれぞれのアイテムによって使うミシンも縫製する人の技能も異なるからだ。
ミシンの種類と工員を豊富に集めれば「どんなアイテムでも縫えます」という工場を作ることは可能だが、そこまでの資金的余裕が無かったら、どれか単一のアイテムに決めなくてはならない。
たとえばジーンズを含めた厚地素材のカジュアルパンツとか、カットソー類のみとか、布帛シャツとそれに類した薄地カジュアルジャケット類とか、という具合である。
その某ブランドは単一商品ブランドではなく、どちらかというとフルアイテムに近いブランドなので、仮に本当に自社で縫製工場を構えた場合、どのアイテムに特化するのかも課題になるだろう。
ところで、なぜ国内の縫製工場は廃業が止まらないのだろうか?
もちろん、すべての縫製工場が廃業するわけではないし、やり方次第では今後も国内縫製工場はなくならない。
しかし、現状の縫製工場がすべて残ることは不可能である。
これは生地製造工場でも染色加工場でも整理加工場でも同じではないか。
原因はさまざまあるが若い人が入らず、高齢者と外国人実習生に多くの縫製工場が支えられている。
そのブランドの人から「どうして若い人が集まらないのか?」と尋ねられたが、それは低賃金だからである。
以前、某アパレルの社長が「繊維業界の会社はアパレルも含めて世間の平均よりも賃金が低いことが多い。入社当時は低くても将来的に平均程度までは賃金が上昇させてあげることができたら、若い就職希望者も増えるのではないか」と語っておられたが、まさにその通りだと思う。
ただし、この会社がその後、平均水準まで賃金を上昇させることができたのかどうかはわからない。
考え方としてはこの社長の意見は正しい。
しかし、これを縫製工場に当てはめてみると実現するのはなかなか困難である。
工員の賃金を上げるためには、最低でも工賃を上げるか、受注数を莫大に増やすかのいずれかを達成しなくてはならない。理想は両方を達成することである。
工賃を上げることは、その商品の店頭売価を上げることにつながる。
各ブランドとも値上げには消極的だ。
よほどの上手い仕掛けが無い限り、単純に値上げすれば確実に売上高は低下するからだ。
高額ブランドとの取引を増やせばある程度は解決する部分もあるが、現在だってその高額ブランドにも製造を依頼してる工場があるわけだから、さらに他工場に大量に製造を発注するということは考えにくい。よほどのメリットがないと実現しない。
一方、受注数を莫大に増やすことは、現在の状況下で、生産数量を飛躍的に伸ばしたい・伸ばさざるを得ないブランドなんてほとんど存在しない。
また、工場が生産数量を莫大に増やすためには、ミシンの台数と工員を増やすという先行投資が必要となる。
その受注量が5年後や10年後まで続くなら、投資に踏み切る工場もあるかもしれないが、そんな先まで受注量が続くという保証はない。
経営者としては投資に踏み切れないのも当然である。
これらの原因がグルグルと円を描くように循環して、今の状況がある。
その循環を断ち切るのは生半可な手段では不可能であろう。
そんなわけで、実現はなかなか難しいだろうが、この小規模ブランドの心意気は評価したい。
やり方次第では、もしかしたらある程度は軌道に乗るかもしれない。
そうなれば新しいビジネスモデルができる。
可能性は高くはないだろうが、ある程度成功することを願っている。