MENU

南充浩 オフィシャルブログ

繊維・衣料品業界では「高値=高品質」とは一概に言い切れない

2019年1月16日 企業研究 0

今日はちょっと引用多めで。
企業名が著名な割にはどんな業務をやっているのか多くの人にとってイマイチわかりづらいのが商社という業種ではないかと思う。
当方だって実は商社についてはあまり深くは知らない。
食品だって雑貨だって衣類を含む繊維だって商社は深く絡んでいるが、とくに繊維だと商社機能は多方面に渡りすぎていてわかりにくい。
繊維業界の人は、恐らく、自分の仕事分野に関わりのある部分だけしか商社を理解していないのではないかと思う。もちろん、当方も含めて。
商社の機能を最も熟知しているのは、当たり前だが商社の現社員、元社員だろう。コンサルタントや評論家の中で最も熟知しておられるのは河合拓さんではないかと思う。
それもそのはずで河合拓さんは元商社の社員である。プロフィールにも書かれてあるようにイトマンという商社に新卒で入社された。イトマンは現在、住金物産に社名が変わっている。
で、その河合拓さんの自身のブログでたびたび、商社の調達機能について述べられている。
https://ameblo.jp/takukawai/entry-12430342273.html
例えば、新年に更新されたこのエントリー。

最近、アパレル業界で、こうした食材の事例をつまみ上げ、「原価率を上げれば消化率も上がるはずだ」という人がいましたが、いかに的外れな意見か。この(私の手元にある)資料をみれば一発でわかります。原価率が高いのは、単に商社の使い方が下手、あるいは、調達のやりかたを知らないだけなのです。でなければ、ここまでバラバラに商社の利益率が変わるはずがない。
私の手元の資料には、最低5%程度。最高はなんと40%もあります。私はもともと商社にいましたから、こういう資料をみても何の不思議もありません。調達力のないアパレルは商社のカモになっているわけですね。

とある。
最近、アパレル業界では「原価率の高さを自慢するブランド」が増えてきている。
この動きは、2008年以降にアパレル各社、とくに販売不振に陥った百貨店向け・ファッションビル向けブランドが苦し紛れに、素材品質を落とし、工賃を叩きまくって原価率を下げて利益を確保したことに対するアンチテーゼという側面がある。
この利益確保の影響で、多くの百貨店向けブランド・ファッションビル向けブランドは、低価格SPAブランドと商品の見た目に遜色がなくなり、さらなる販売不振を引き起こした。
それに対するアンチテーゼが生まれるのは当然であり、彼らは「原価率の高さ=高品質」を掲げた。
しかし、その多くは、本当に高品質なのかどうか疑わしい。むしろ、製造加工業者からそういう彼らの取り組み内容を聞くと、単に非効率・不合理・極小ロットな生産であるため、アップチャージされて割高になっているだけという場合が多い。
先に引用した河合拓さんのブログの一節はこれを指している。
工程を煩雑化し、仲介業者を増やし、生産枚数がミニマムロットを下回れば、当たり前のことだが簡単に製造コストは上昇する。むしろ、アパレル製品において生産コストを上昇させることは簡単であり、極言すればだれにでもできることである。
多分、ド素人がやればやるほど生産コストは簡単に上昇するし、やろうと思えば際限なく上昇させることができる。
 
食品の場合、材料費の高さと品質の高さはイコールだと認識されており、例外を除く多くの場合、高い価格の食べ物はジャンクフードよりも美味である。
これは飲食も手掛けられたことのある河合さんによると
 

大手回転寿司の一社は、競合他社は原価率が45%だが、当社は50%。当社のほうが良い材料をつかっていると言っていますが、それは正しい。なぜなら、食材というのは需要予測が極めて安定しており、破棄損が一桁台だから「仕入れた量=売った量」。ほぼイコールだからです。
また、食材というのはやってみればわかりますが、それほど調達のスキームバリエーションが広くない。限られた調達先から限られたルートで仕入れる以外に選択肢はない。だから、調達力が均衡しているわけです。この場合、売上高原価率は素材の良さを表すというのは、ある意味合理性をもっているといえるでしょう。

 
食品の場合、調達のスキームバリエーションが少ないため、高い食材=美味につながることが多いというわけだ。しかし、繊維の場合、調達ルート・製造加工ルートは無限にあり、それぞれによって価格や工賃、ミニマムロットが異なるから、一概に「高い=高品質」とは言えない。
例えば、国内の某デニム生地工場は欧州ラグジュアリーブランドに長らくデニム生地を販売している。
このブランドのジーンズは10万円くらいする。しかし、使っているデニム生地はこの国内工場の1メートル700円前後の定番デニム生地だという。
用尺2メートルとして生地値はジーンズ1本あたり1400円くらいとなり、ラグジュアリーブランドは高い利益率を甘受しているのかというとそうではないらしい。
このデニム生地工場から幾人もの仲介業者やエージェントの手を経てラグジュアリーブランドに売られるため、その際には1メートル7000円くらいになっていると、デニム生地工場の人から直接聞いたことがある。
そうなると用尺2メートルで生地値だけで1万4000円となり、10万円のジーンズを売っても世間が想像しているほどの利益は残らないことになる。
これなどは、繊維では「高値=高品質」とは言い切れないことの代表例ではないかと思う。
もちろん、真っ正直に「高コスト=高品質」に取り組んでいる衣料品ブランドはあるが、飲食業界のようにほぼすべてにその公式が当てはまるわけではない。「なんちゃって高コストブランド」も繊維・衣料品業界では決して珍しくないということである。
消費者のみなさんは気を付けなくてはならないし、もしかすると、衣料品業界人でもこのことを知らない人も多いのではないかと時々思う。
 
最後に商社の機能だがこうまとめられている。

商社は、工場から商品を買い付け利益をのせて納品するだけ、と思っているのであればとんでもない間違いです。前述のように、商社は金融機能を駆使し、アパレルが買い付ける素材の時期と販売して換金するまでの間のファイナンスもしますし、私はイタリアから素材を日本に持ち込み、日本の染色工場で3日で染めて一週間でPOSデータと連動したQRを作り上げたこともあります。
もし、キャッシュフローが読めないアパレルが、商社のまねごとをしたら一発でキャッシュが枯渇し THE END となるでしょう。実際、そうした倒産劇を私はたくさん見てきました。

実はファイナンス機能もあり、例えば、デニム生地をジーンズアパレルが買う場合、工場とは直接話し込むが、決済は商社経由になることがほとんどで、傍から聞くとちょっと奇異に感じる。直接やり取りすれば商社の仲介手数料が省けて安くできるのではと思ってしまうが、なぜファイナンス機能を商社にゆだねるのかというと、この一節が理由になる。
 

久しぶりにNOTEの有料記事を更新しました~
「アパレルの簡単な潰し方」
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/n479cc88c67bf

 
 
河合拓さんの著書をどうぞ~

この記事をSNSでシェア

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ