MENU

南充浩 オフィシャルブログ

アパレル業界が20年前に気付かなかった「不景気」以外の不振のもう一つの要因とは?

2019年1月11日 考察 0

以前から深地雅也さんにすごく的確なファッションビジネスのコメントをする方がいると聞いていて、年明けにたまたまその方のNOTEを拝読したのだが、その評判通りだと思った。
松田剛さんという方で、これが偽名なのか本名なのかはわからない。お顔も存じ上げない。何せアイコンがイラストなので。(笑)
NOTEをいくつか書いておられるが、業界のことを知り尽くしておられ、それがムードや気分に流されずに、分析が冷静で的確である。感服するほかない。
で、数多いとはいえないそのNOTEはどれもこれも勉強になることばかりだが、その中でもこのNOTEのこの一節が目を惹いたのでご紹介したい。

アパレル業で私が知ってる事 余談。ZOZOについての雑感。というか百貨店の凋落時のお話。

https://note.mu/alex_t_m/n/n6d7951618cf7
ZOZOのあれとかこれとかを論じたいのではなく、92年ごろにバブル経済がはじけた時のことである。
 

さて、バブルが弾けちゃいまして、百貨店の売上は低迷します。当時は気づきすらしなかったんですが、どうもこのバブル期のどこかの段階で需要過多から供給過多に遷移しているようなんですよね。まあなんでそう思っているかって言えば、それまでアパレル業界って不況を食らった経験がある人がほとんどいなかったみたいで、適切な対応を取れる人がいなかったんですよ。
 
バブルが弾けて以降アパレルが低迷し続けているのは、本来なら需要過多から供給過多に移った時に取るべき施策が、バブル崩壊の陰に隠れてしまって、本来別々の施策が必要だったところ(バブル崩壊だけなら単価の話なんですけど、需給バランスの話なら供給量調整の話なんです。実際の動きはどうあれ、ベースとする施策は違うんです。数学的に言えば2変数問題を1変数だと勘違いして解こうとしたら無限に解が発生しちゃったみたいな感じですかね)を勘違いしてしまったことで無意味に複雑化しちゃったってのがあるんじゃないかと思ってたりします。

 
この指摘は実に慧眼だと感じる。
当方も含め、当時の上司や先輩、経営者は景気悪化への対策がほとんどで、このタイミングでユニクロが山口県から関西方面へ進出してきており、その低価格が注目された。
そして98年ごろにあの空前の「1900円フリースブーム」が起き、ここからアパレル業界は「安くしないと売れない」という強迫観念に取りつかれた。そしてその裏側には「安くすれば売れる」という安易な気持ちもどこかにあったように感じる。
ところが、この松田さんのご指摘のように、景気悪化という要因以外に、低価格品の増加による「供給過多」も同時に引き起こしていたと考えられ、この「供給過多」はようやく2015年ごろに認識されるようになり、現在の「衣料品廃棄問題への関心」につながっているといえる。
認識されるまでに実に20年前後の時間が必要だった。
もちろん要因はこの2つだけではない。POSとクイックレスポンス対応への安易で過剰な依存による「各ブランドの同質化」や、SPA化の推進やら、平均所得の下落やら、とさまざま要因が複雑に絡み合っていたことは言うまでもない。
 
松田さんの指摘に戻ると
1、バブル崩壊による景気悪化
2、供給過剰に陥った
この2つの問題への対策は本来は別個でなければならない。
景気が悪化したなら、アパレル各社がユニクロを目指したように「低価格化」「安売り」すれば問題はある程度解決できた、もしくは緩和されたはずだが、供給過剰問題は低価格化では解決できない。
供給過剰を解決できるのは、生産調整か、さらなる消費増大を喚起することでしかない。
 
そして、2への対策がなされないまま、やみくもに低価格化を推し進めたことで、「安くても売れないブランド」が続々と生み出され、その売れ残り在庫がさらに供給過剰に拍車をかけたといえる。
表には出ていないが、驚くほどの不良在庫を抱えているブランドは数多くある。
先日、某アパレルから不良在庫の処分について相談を受けたが、なんと帳簿上では12年前の商品がまだ残っているというし、去年までの売れ残りの不良在庫は総数で20万枚~30万枚もあるという。
報道されないしディスクローズされていないが、実はこんなアパレル企業は決して珍しくない。
これはひとえに景気悪化に対する低価格対策のみをとった結果、供給過剰への対策が手つかずのまま、2018年を迎えたということになり、何もこの某アパレルだけのことではなく、アパレル各社は一部の例外を除いてどこも似たような状況になっている。
そういえば、「業界一消化する」と自称していたアパレルでさえ、実際のところは在庫処分屋に昨年一年間で20万~30万枚を流したらしい。これは在庫処分屋からの証言である。
だから、アパレル企業はどこもかしこも一部の例外を除けば似たような状態だということになる。
ようやく昨年、一昨年ごろから「不良在庫の廃棄問題」がクローズアップされ始めたが、実際のところ、対策は手つかずでアパレル側が生産調整を始めたという話は聞かない。「数量を抑えている」という話は時折聞くが、それは供給過剰対策ではなく、単に自ブランドの売れ行きが不振で不良在庫を抱えているからに過ぎない。
そして我が国アパレル業界の不幸として松田さんが指摘しているように、バブル崩壊までアパレル業界が深刻な不振に陥ったことがなかったということもある。
たしかにヴァンヂャケットが倒産したり、リップスターが経営不振でジャヴァに吸収されたり、日本ハーフがつぶれたり、UFOジーンズがつぶれたり、ということはバブル崩壊以前にもあった。しかし、それは個々の企業の経営の問題であり、業界全体が不振に陥ったわけではなかった。
アパレル小売市場は90年代まで右肩上がりに伸び続けてきたからである。
だから、バブル崩壊後、わが国のアパレル業界は初めて業界全体の不振という未曾有の事態に直面したといえる。そして初めて対応する事態だからそのまま適切な対策が打てずに20年以上が経過してしまった。
供給過剰を解消するためには、アパレル各社の長期的な取り組みとともに、わが国アパレルの生産を長らく請け負ってきた商社の協力も必要になる。河合拓さんが常々ご指摘されているように、大手商社も巻き込んでの新しい生産体制を確立するほかなく、それがなされるまでは、各アパレルは独自で「欠品による機会ロスを恐れない」ことを前提とした少量生産を実施して自衛するほかないといえる。
 

久しぶりにNOTEの有料記事を更新しました~
アパレルの簡単な潰し方
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/n479cc88c67bf

 
商社についてはこの本の著者である河合拓さんに聞いてください~

この記事をSNSでシェア

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ