我が国は年々、老人人口が増える高齢化社会となっている。
このため、何年も前からその人口の市場規模が拡大すると考えられてきたが、こと洋服に関してはその予想は当てはまらないのではないかと思う。

これまで、老年層の衣料品需要が伸びないのは、「欲しいと思うような服がないからだ」とされてきたが果たしてそうだろうか。
異なる理由があるのではないかと思う。

今回は身の回り調査のみでの推測論となるが、議論のネタにしていただければ幸いである。

当方自身が最早50歳手前の初老となっているので、親戚や周りで当方より年上の人はみんな老人である。
個人差はあるのだが、彼らが口々にいうのは「だんだんと物欲が薄れてきた」ということである。
これが60歳くらいから薄れる人もいるし、75歳を越えてから薄れる人もいる。この辺りには個人差がある。
しかし、例外なく加齢とともに物欲は薄れるようだ。

当方自身に照らし合わせても、今と25歳ごろを比べると、今の方が物欲が薄れている。物欲だけではなく睡眠欲以外のすべての欲は薄れつつある。睡眠欲は旺盛だ。時間とカネが許せば何時間でも眠っていたい。

となると、年配の人々が口をそろえるように、もっと加齢すればもっと物欲は薄れるのではないかと感じる。

先日、あるシルバーレディース向けニットブランドの社長と話す機会があった。
2000年頃に立ち上げたブランドで、当時のターゲット層は60歳だったが、顧客はそのまま加齢して今では70代後半から80歳くらいになっているという。

このブランドはちょっと変わっていて、もともとは大手アパレルの下請け工場だったが、自立化を目的としてこのブランドを立ち上げた。
その一方で大手アパレルの下請け生産も継続している。自社ブランドの卸売りと、大手アパレルの下請け生産がこの会社の両輪という構造である。

生産を請け負う大手アパレル各社のブランドもやはり同様にシルバーレディース向けだそうだ。

最近の商況を伺うと苦戦傾向にあるという。

まず、大手アパレルの下請け生産だが、こちらが大幅に落ち込んでいるらしい。
理由は、大手アパレル各社の卸売りがさっぱり受注量がまとまらないからだ。

この層だけではなく、テイストとターゲットに関係なく、卸売り型アパレルはほぼ全社、売り上げ枚数が激減している。
理由は、専門店・百貨店の発注枚数が激減しているからだ。

ある商品が1型で3色展開し、3サイズあったとしよう。
ワンピースが紺、グレー、赤の3色でそれぞれSMLの3サイズがあったとする。
全部1枚ずつ小売店が発注すれば9枚の発注がある。

紺のSML各1枚ずつ、グレーのサイズ各1枚ずつ、赤各サイズ1枚ずつ、だから全部で9枚となる。

しかし、店頭の売れ行き不振、店舗の販売力低減によって売れ行きが鈍っているため、各店ともに発注量を極小化しているのが現状である。
紺のMサイズ1枚、グレーのMサイズ1枚、赤のMサイズ1枚の合計3枚発注という具合だ。

もっとひどい場合なら、紺のMサイズ1枚だけ、とか、グレーのMサイズ1枚だけというのも珍しくない。

その結果、店側からの発注枚数の総合計が恐ろしく激減してしまうというわけだ。

だから大手アパレル側も売上高を減らし、その生産を請け負う工場も売上高が減るという構図になり、今回話を伺った工場では年間5000万円分くらいの請負生産額が減少しているという。
年間5000万円も売上高が減少すれば国内工場としては死活問題だ。

それを自社ブランドの売上高で補填しているが、そちらも伸びなくなっている。

理由は、同じく専門店からの受注量が激減していることと、もう一つの理由は顧客層が80歳前になってきて、物欲が薄れて服を買わなくなっているからだ。

身の周りで見ていても60代までは結構洋服を買う人も、70歳とか75歳を越えるとあまり買わなくなる。
80歳にもなるともっと買わなくなる。彼らに尋ねてみると「欲しいとは思わなくなる」と口をそろえる。
服だけでなく、食べ物に関してもそうだ。高くて珍しい食べ物や高くておいしい食べ物を食べたいとはそんなに思わなくなるらしい。

当方は元々食べ物に関してほとんど興味がないからその気持ちはよくわかる。
別にスーパー万代の半額に値引きされた弁当(198円)を毎食食べたってなんら苦痛ではない。
毎日昼飯が松屋の牛めし(290円で味噌汁が付いていてお得)でもまったく苦痛ではない。

それ故、この工場としては新販路向けの新商材開発や新たな売り方を、生き残るために模索したいとのことだが、現状のままで何ら手を打たないとたしかに早晩倒れてしまうのは間違いない。

このような例と身の周りの話を合わせて考えると、今後、老人人口はさらに増えるが、市場規模はそれほど大きくならないのではないかと思う。特に衣料品や食品は。
もちろん、介護用品やらそういう物の市場規模は増えるだろう。必要不可欠だからだ。

しかし、衣料品、とくにカジュアル、ファッション衣料はいくらその世代の人口が増えようと、それほど市場規模は拡大しないと考えた方が企業戦略を誤らないだろう。
特に75歳以上のターゲット層、80歳以上の層の需要は人口の増加に比してほとんど増えないだろう。

かつて10年くらい前、団塊世代のリタイアに向けて、団塊世代向けファッションブランドを強化するというアパレルが何社もあったが、結局どこも成功していない。

ポイント(現アダストリア)はアンダーカレントという団塊向けブランドを開始したが、見込みがなくて早々に廃止している。

その原因については、「その層が欲しがるような商品が提案できていないからだ」とされることが多いが、最近、それは違うのではないかと思い始めている。団塊世代といえども、現在はそこまでカジュアルやファッション衣料には興味がないのではないかと思う。
少なくとも30代、40代の頃よりもそういう物への欲求が薄れているのではないかと思う。

団塊世代よりも上の層はさらにそういう物への欲求が薄れているだろう。

こう考えると、老年向けカジュアル・ファッション衣料というのは今後も大きく需要は伸びないのではないかと思う。
当方だって後20年もすれば70歳手前だが、その時まで生きていられたとして、カジュアル・ファッション衣料への物欲があるかと問われれば疑問だ。もう今でもそういうものがだいぶと薄れている。

さらにいえば、75歳になったとして、あと何年生きていられるかわからないと思えば、高額な衣料品をわざわざ買おうとは思わない。
5年で使い捨てて惜しくない程度の低価格品で十分だと考えるだろうと思う。

そうではないという老年層もおられるとは思うが、それは少数派だと考えられるため、もし、老年向けブランドを強化しようと考えるアパレル企業があるなら、その売り上げ目標は低めに設定しておくのが賢明だろう。

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「知名度主義」の人材起用がアパレル業界を低迷させている
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