先日、終了した阪急百貨店うめだ本店でのテキスタイル・マルシェにファッション専門学校生がいつもより多めに来てくれたが、その中に「卒業後は衣装製作の仕事をやりたい」という女学生がいた。

出展者に尋ねられてそんな話になり、そこからは就職相談みたいになっていたのだが、学校の先生の就職指導はちょっと現在の業界の実情に沿っていないとしか思えなかった。

衣装という仕事に関してもなんだか先生の方がきちんとした認識をしていないようだった。
舞台衣装という仕事はあるが、どれもこれも狭き門である。
宝塚や劇団四季などの有名劇団なんて数えるほどだし、それらが採用する人数も知れている。
小劇団は数多くあるがどれもこれも貧乏で、専用の衣装担当者を置くことは無理だし、そもそも衣装すら満足に作れるほどの資金がない。

テレビ番組でも、通常のドラマはアパレルやブランドからの衣装提供で賄っており、オリジナルの衣装を作ることはほぼない。バラエティ番組でも衣装提供かタレントの自前の洋服を着用している。

映画も同じだ。

テレビ・映画でも時代劇やSF、ファンタジー系なら衣装を製作するが、そんな作品は年に何本も作られていない。衣装製作担当者が毎年、コンスタントに収入を得ることは難しい。

比較的、コンスタントに収入を得るには、アニメ・漫画・特撮・ゲームのコスプレ用の衣装や、それらをモチーフとした洋服を企画製造販売することだろう。

実際に、筆者の知り合いで、もともとはそれなりのファッションブランドを企画製造販売していたデザイナーがいるが、現在ではゲーム用の衣装やそれをモチーフとしたカジュアルウェアの企画製造販売に移行している。
理由は、いわゆる「ファッションブランド」では安定的収入を得ることが難しかったため、ゲーム用の洋服に変わったという。

現在ではプロレス関係の洋服も手掛けているようで、本人いわく「こちらの方がずっとビジネスになりやすい。製造工賃や原材料費を叩かれることもない」とのことである。

その理由の一つとして、アニメ・特撮・ゲーム関係やプロレス関係の洋服がほしいというファンは常に一定数量いる。大きく増えることはないが激減することもない。
さらに、まともなクオリティの商品を提供できる供給側が少ない。
そのため、供給過多になりにくく値崩れしにくい。

一方、ファン側もそういう趣味の商品は値切ることが少なく、発売側の定価で買うことがほとんどである。
ファッションブランドの顧客のように「来週からバーゲンが始まるからそれまで待つ」なんていうことはあまりない。

そう考えると、衣装製造がしたいのなら、アニメ・特撮・ゲーム・漫画などのコスプレ用衣装やそれに関連した服を手掛ける方が、舞台や映画よりもずっとビジネスになりやすい。
この専門学生はそういう方面を目指すべきではないかと思うし、学校側でもそういう就職指導をするべきだろう。

そんなことがあったばかりだが、昨日、こんな発表があった。

世界観を忠実に再現したゲームキャラクター衣装を制作・販売する「coscrea(コスクレア)」ティザー公開
http://state-of-mind.co.jp/press-20161219/

日本初の1点から縫製職人にファッションアイテムを依頼できるマッチングプラットフォーム「nutte(ヌッテ)」( https://nutte.jp/ )を運営する株式会社ステイト・オブ・マインド(本社:東京都渋谷区、代表取締役:伊藤悠平)は、アクセルマーク株式会社(本社:東京都中野区 代表者:尾下順治 証券コード:3624)と共同で、公式ライセンスを取得したゲームキャラクターの衣装を製作・販売するコスプレ事業を開始します。
それにともない、版権元から監修・許諾を受けたゲームキャラクター衣装を製作・受注販売する「coscrea(コスクレア)」( http://teaser.coscrea.shop/ )のティーザを12月19日(月)より公開しました。

とのことである。

コスプレ衣装の場合、版権の問題が生じるがここで扱うのはいずれも版権元から許諾を受けた衣装だそうなのでその懸念は払しょくされる。

nutteの次の事業としてコスプレ用衣装というのは、ビジネス的にはなかなかの着眼点ではないかと思う。
実際のところ、普通の洋服の小ロット生産を手掛けるヌッテでは、事業規模の拡大には限界がある。
1枚~10枚程度の洋服を作りたいというアパレルやショップなんてそんなにたくさんあるわけでもないし、それが毎月・毎年コンスタントに受注があるわけでもない。

となると、事業規模は一定のところで頭打ちになる可能性が高い。
もちろん、むやみに事業規模を拡大しないという選択肢もあるが、安定的に運営をするなら、小ロット向けのみではなかなか難しい部分がある。

コスプレ用衣装というのは、先にも書いたように、通常のファッションブランドよりもずっとビジネスになりやすいから、これを手掛けるのはビジネスとしては正解だろう。

また、ファンも値切らないことから、工賃や原材料費を過剰に叩く必要もない。
ここが通常のファッションブランドと一番異なる点である。
通常のファッションブランドは原材料費と工賃の叩き合いで、どれだけ叩いて安くするかの競争でしかない。

それにコスプレ用衣装というのは独特の形状だから、パターン(型紙)作りや縫製にも一定水準以上の技能が要求されるから、作り手としては平凡なファッションブランドを手掛けるよりやりがいがあるのではないか。

レッドオーシャンで死力を尽くすのも一つの美学だが、違う方面へ進むのも一つのやり方である。
ファッションブランドというレッドオーシャンで苦しむよりも、違う畑に移ったほうが賢いのではないかと思えてならない。