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南充浩 オフィシャルブログ

製造加工業は「夢の世界」ではない

2016年9月27日 ファッション専門学校 0

 少し前に業界紙に「産地企業への専門学校生の就職が増えた」という記事が掲載されていた。

アパレル企業にデザイナーやパタンナーとして就職することは狭き門になってしまったから、「作り手志望」の学生がいわゆる、製造加工業へ就職するというのは一つの方策だといえる。

織布工場、染色加工場、縫製工場なんかに就職を希望する学生や若者をたしかに最近はよく見かけるようになった。

しかし、ちょっと気になることもある。

先日、久しぶりに工場へ伺ったのだが、そこも最近は「求人募集していませんか?」という若者からの問い合わせが増えているそうだ。
2,3年前からそういう問い合わせに対して何人か採用してみたところ、どの人も長続きせずに辞めてしまった。
長続きせずに辞めることは仕方がないにしても、そこに至るまでのエピソードはちょっとひどいので、聞いているうちに笑えてしまった。

例えば、勤務日初日から無断欠勤した人。

例えば、立ち仕事が多い工場内でなぜかソールの固いワークブーツをかたくなに着用し続け、足が痛いとしょっちゅう泣き言を言っていた人。(スニーカーは頑として履かなかったそうだ)

例えば、勤務開始早々から10分の勤務時間超過にも残業代を申請しようとした人。

ざっとこんな感じである。

また別の工場では、ファッション専門学校の新卒を採用したところ、1カ月くらいで退職を願い出られた。
思っていた仕事とは違うと言いたかったのかもしれないが、その元学生は何度も工場見学やインターンを経験していたから、職務内容が予想できなかったはずはないのだが。

製造加工業を目指す学生・若者の全員がこうだとは思わないし、職業人たる自覚を持った人も多いとは思うが、ちょっと認識が甘すぎる人も多いような気がする。
ファッション専門学校生と断続的に接触していてもちょっと認識が甘い人が多いと感じることもある。

製造加工業を志望するファッション専門学校生に多く見られるのが「売り上げノルマに追われる営業や販売はイヤだから、そういうことに追われない製造加工業へ行きたい」という動機である。

だが、46歳のオッサンからすると、製造加工業へのそのとらえ方は間違っているのではないかと思う。

もちろん、工場のラインで働く工員に売上ノルマが課せられることはほとんどない。
だからといって、工員が「私は売上高とか関係ないし、興味もない」なんてことは許されない。
結局、工場が儲からなければボーナスも支給されないし、毎年の昇給も望めない。
初任給が20万円だったとして10年後も20年後も給料が20万円のままなら生活は厳しい。

長く工場に勤めていれば、そのうちに経営にも携わるようになるだろうし、自らが経営しないまでも管理職になったり、経営陣のメンバーになったりすることもあるだろう。

そうすれば、完全に「金勘定」が業務の一つに加えられることになり、売上ノルマだとか利益率だとかそういうことを気にしなくてはならなくなる。
そういう立場になっても「金勘定」にはまったく興味がないなんて言っていたら、工場にとっては戦力外である。
プロ野球選手なら確実に戦力外通告されてしまう。

国内の製造加工場がどんどんと倒産・廃業に追い込まれているご時世である。
製造加工場こそ「金勘定」がもっとも必要な仕事であり、「金勘定」なしには存続はできない。

物作り志望の学生や若者は、製造加工業という仕事に対して、山にこもって生活している陶芸作家とか木彫り作家とかそういうイメージを抱いているのではないかとちょっと疑っている。

もしそういうイメージを抱いて製造加工業を目指しているなら、そんな間違ったイメージは今すぐに捨て去るべきで、どうしてもそういうイメージを追いかけたいというなら、陶芸作家とか木彫り作家を目指すべきだろう。

繊維製品の製造加工業は、れっきとした工業であり、アナログな手作業の部分はあるものの、完全に量産を目的とした作業である。
特殊な場合を除いては、一人の工員が1着の服を完成まで縫製するなんてことはなく、ある程度の流れ作業で部分部分の縫製を担当する。

1着をまるまる自分で縫製しました、なんていうのはオーダーメイド服の縫子さんくらいだろう。

営業や販売をしたくないから製造加工業というのは単なる逃げではないのか。
応対に「社会常識」が求められやすい営業や販売が嫌だと言っている人は、そういう「社会常識」がない場合が往々にしてある。だから勤務初日から無断欠勤なんていうことを平気でやってしまえるのだろう。

製造加工業は金勘定とは無縁ではないし、「社会常識」とも無縁ではない。

製造加工業は、楽園でも優しい世界でもない。
「社会常識」のない人が逃げ込むための「夢の世界」ではない。

他の職種同様に金勘定も「社会常識」も必要である。

専門学生や若者が製造加工業を目指すなら、そこを踏まえたうえで目指すべきだろう。

なぜ、日本の製造業はソリューションビジネスで成功しないのか?
株式会社ワイ・ディ・シー共動創発事業本部
日刊工業新聞社
2016-10-01



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