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南充浩 オフィシャルブログ

製造業の現場ばかりを見ていても、製造業は救われませんよ

2012年11月15日 未分類 0

 繊維業界において製造業の意識と、店頭販売者、消費者の意識は天と地ほど離れていると言っても過言ではない。
バブル崩壊から20年間この差を埋めようと努力されてきた方々もおられたわけだが、実際のところそれほどその差は解消できていない。

先日もあるブランドのセーターを拝見する機会があった。
部分ごとに編み地を変えており、その上からさらにインクジェットプリントを施すという手の込み具合だ。
販売価格はだいたい2万5000円~2万9000円の範囲内になる。
50代以上のミセスにはよく売れているということだったが、なるほどミセスが好みそうなテイストである。

で、製造業寄りの青年と一緒に商品を拝見したのだが、彼は見るなり即座に「これは価格が安いくらいですよ。もっと価格を上げても良いのでは」との感想を言った。
製造業者として見ると、そのセーターには数万円レベルの価値があるというわけだ。
しかし、有名でもないそのブランドが数万円という価格を付けて売れるかというと、はっきり言って疑問である。
同じ数万円を出すなら、大半の人は有名ラグジュアリ―ブランドのセーターを買うだろう。

それほど、製造業者と販売業者、ひいては消費者との認識は大きな差があるということである。

これについて、素晴らしい考察を加えているブログを見つけたのでご紹介したい。
繊維業界人ではないからこそ書けるのだろう。筆者など遠く足元にも及ばない。

あふれるモノや情報に囲まれて「なんとなく」消費する人たちと、それに対応できない作り手たち
http://keynotes.hidezumi.com/keynotes/2012/11/illogical_consumption_.php

よく「スペックではなく、ニーズで考えよ」というお題目を唱える人がいる。どこかの雑誌で聞いた言葉をそのまま鵜呑みにしているのかもしれない。このお題目「正しいこと」もあり「正しくないこと」もある。この「スペックとニーズの二択」に陥ってしまうのは、製造業の立場からはこれ以外がコントロールできないからだ。

(中略)

製造業の立場からがんばってみても「なんとなく消費している人たち」を捕まえる事は難しい。

今回、日本の製造業の強みは「細かく別れたプレイヤーが、なんらかの仕組みで統合されていた」ことだと分析した。ところが、統合は製造業の中だけで、消費者までのつながりは「誰か他の人が考える」ことになっている。だが「売れるか売れないか」は、この「誰か他の人が考える」分野で決まる場合がある。

「製造業がサービス業化している」といえる。

単純製造業が成り立ちにくいという意味で、政府分類はそもそも古過ぎるのである。実際には小売りだけではなく、情報産業も統合される必要がある。

「こだわりがない人がなんとなく買って行く」代表がユニクロだろう。一般的にユニクロは安さで成功したことになっている。しかし実際にユニクロの店頭で観察していると「それといって服に興味がなさそうな人たちが、とりあえずユニクロに来れば、ちゃんとした格好ができるだろう」といって来るように思える。大した品揃えはないし、店員もそれほどファッションに愛着があるとは思えないが、取りあえず合格点のものが揃う。

ファッションにあまり興味はないが、毎日何か着なければならない人こそが実は多数派なのだ。

「常識ある製造業人」がこのステートメントを読めば、ユニクロの悪口を言っているのだろうと思うだろう。しかし「ニーズを捕まえた」という意味では、極めて合理的なソリューションだといえる。

(中略)

ところが、実際には状況はその先を行っている。モノや情報がありふれているので、いちいち意識的に考えなくても何かが手に入る。意識して選択する場合には、まず何を排除するかということを考えなければならなくなっているのである。今回は利便性消費をとっかかりにして考えてきたのだが、実際に起こっている決定的な変化は、状態化した供給過剰状態だと考えられる。

さて、ここまで考えてきてやっと「言いたい事」が見えてきた。つまり、売れるなにかを作ろうとすると、様々なものを組み合わせなければならないのだ。それを「製造業のサービス業化」と言ったり「ハードウェアよりもコンテンツ」と表現したりしている。

ここから得られる結論は「製造業の現場ばかりを見ていても、製造業は救われませんよ」という簡単なものだ。だからといってユニクロのような業態を見て「ああ、あれは製造業だな」と思う人はいないわけで、製造業を救おうとしたら、全く製造業っぽくないものができたという皮肉なことも起こる。

今回は、政策について考えている。つまり、産業・地域別にプランを作成したり、細かく補助金を措置したりしても、あまり効果がないであろうという結論が得られる。

つまり「岡山のジーンズ生地産地を救うためには、小売りまで含めたシステムを構築する必要がある」ということになる。岡山県選出の国会議員や、繊維産業を主幹する役所が政策を作ってもあまり意味がないのだということを意味する。

とのことである。

長文なのでいささか割愛したが、興味のある方は全文をお読みいただきたい。

ここには繊維製造業者の業界病と、それを支援するためであるはずの行政の政策、補助金・助成金がうまく機能しない理由が的確に指摘されている。

このブログの筆者は「岡山の生地産地」を例に出しておられるが、これは岡山以外の国内の繊維生地産地すべてにもあてはまることである。「小売りまで含めたシステムを構築する必要がある」ということである。
しかし、実際には、生地製造工場のオヤジが衣料品を企画製造し、それを販売する直営店まで運営するということには無理がある。ましてや政治家や官僚がそれをコントロールできるはずがない。できるのであれば今頃とっくに成功している。

一部の製造業者が衣料品・雑貨の自社ブランドを立ち上げ、直営店を何とか運営しているのが現状である。
佐藤繊維や近藤ニットなどはその典型だろう。しかし、これは業界の中でもほんの一握りである。業界内に数社存在する程度だ。

この見地に立って事業を構築しないと、生地産地は行政から展示会費用をむしり取って、その場限りのアピールをするだけに終わってしまう。もう、かれこれ20年近く各生地産地が「産地素材展」を開催しているが、あまり効果がない。助成金の終了とともに展示会も縮小・終了してしまう。

原材料製造→製品の企画製造→小売り

と、ひどく大雑把に書くと業界はこういう流れになっている。
各段階の一部分だけを切り取り、そこに行政が補助金・助成金を流し込んでも成功するはずがない。
そういう支援事業のあり方やそれに頼る業者の姿勢・心構えも改めなくてはならないだろう。

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