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南充浩 オフィシャルブログ

低価格パターンオーダースーツの市場規模が小さいことは最初から分かっていたという話

2021年12月2日 トレンド 3

扱っている商品の内容や客単価、立地などによって売上高が変わるのは周知の事実である。

一言で「好調でよく売れている」と言っても、土台となる数字が話し手と受け手で全く異なることはよくある。例えば、毎月の売上高が200万円前後だった店が、300万円前後売れるようになれば「好調でよく売れている」ということになる。実に50%増であり、衣料品業界メディアなら確実に中畑清ばりに「絶好調」の文字が躍ることになる。

しかし、毎月300万円の売上高に増えたと言っても、年間売上高は3600万円なので、世間一般的に思われている衣料品店の好調という規模感からすると10分の1程度、多く見積もっても3分の1~5分の1程度である。果たして本当に「絶好調」と言えるのだろうか?

この手の事実誤認が衣料品業界に限らず多々あるが、衣料品業界はとりわけ同業他社の噂好きという生来の性質も相まって、不確かな噂と展望に振り回されやすいという特性が強い。

そしてそれを「絶好調」を連呼する中畑清業界メディアがさらに助長するという悪循環スパイラルが起きやすい。そしてこれは何も最近始まったことではなく、当方の知る限りにおいては30年前から続いており、恐らくは30年前よりももっと以前から変わっていないのだろうと考えられる。

 

こうした「絶好調」報道に踊ったのが低価格パターンオーダースーツというジャンルではないかと思う。

もちろん需要はゼロではないことは承知している。しかし、今の青山・AOKI・はるやま・コナカの大手4社が販売している既製メンズスーツに取って代わるほどの需要があるのかと問われたら、今も数年前も変わらずに当方の答えはNOだという。

大手企業が何百億円の売上高を稼ごうと参入したところで、そこまでの需要はない。それは以前も今も変わらない。

 

ワールドのメンズオーダースーツ事業「アンビルド タケオキクチ」が今年12月29日で終了することとなった。スタートが2018年12月なのでちょうど3年で終わったということになる。

また、三越伊勢丹が展開する「ハイ・テイラー」も来年2月末日で終了することとなった。こちらは2019年10月開始である。

はっきりいえば、ワールドや三越伊勢丹という大手企業が潤うほどの需要は低価格メンズパターンオーダースーツという市場にはなかったということである。というか、当方から言わせると、これまで散々書いてきたようにそんな規模の市場ではないということは目に見えていた。ワールドも三越伊勢丹もそれが分からなかっただけの話である。

もちろん、2020年初頭からのコロナ禍というのが需要減少の悪化に拍車をかけた要素は否定できないし、それは大いにあるだろうと思うが、元来の市場規模が大きくはないので、コロナ禍が無かったとしても、ワールドや三越伊勢丹が思うほどの規模には10年かけても成長しなかっただろうと当方は考える。

両社ともに開始時期も微妙である。ワールドは2018年末、三越伊勢丹は2019年秋である。どちらもZOZOを始めとする低価格パターンオーダーの雑音的報道の尻馬に乗った感が否めない。というか、事業開始の大きな理由はそれだろうと当方は外野から推測している。

恐らくは5年後くらいに閉鎖されるのが少し早まっただけのことではないかと思う。特に三越伊勢丹はコロナ禍直前の開始なのでタイミング的にも、偶然ではあるが最悪期を選んでしまったといえる。

 

ではなぜ、低価格パターンオーダースーツにそこまでの需要がないと以前から思っていたかというと、消費者のマス層は今の大手4社のチェーン店と4社が運営するツープライスショップの既製スーツで過不足がないからだ。

ズボンの丈の長さは問題にならない。なぜなら、スーツのズボンは既製服といえども初めから切って合わせるようになっているからだ。

後はウエストとか肩幅の問題だが当方ですら、チェーン店やツープライスの既製服で問題ないのだから、多くの人も同様だろう。

袖の長さだが、当方の場合は肩幅に合わせると少し詰めてもらった方が良いだろう。当方は肩幅の広さの割には腕が短い。

裾上げと袖詰めだけで事足りてしまうので、わずかな満足感を度外視すればチェーン店とツープライスの既製スーツで十分である。

もちろんこだわりだしたらキリはないが、そこまでこだわる人がわざわざ低価格オーダーで間に合わせるだろうか?恐らく他の出費を削ってでももう少し高いオーダーであつらえるのではないかと思う。

チェーン店やツープライスから低価格パターンオーダーに積極的に乗り換えなくてはならない理由がないのである。

 

これを証明しているのが、低価格パターンオーダー最大手と目されるタンゴヤのグローバルスタイルの年間売上高だろう。

2021100440667001GENERAL.pdf (moneyworld.jp)

2021年7月期の売上高は前年比7・7%減の83億2600万円である。コロナ禍に見舞われたための減収だが、コロナ禍以前でも100億円には届かなかったのである。当然、他の企業は100億円に遠く及ばない売り上げ規模しかないということになる。

いかにこのビジネスの売上高規模が大きくないかがわかるのではないかと思う。

 

リンクを掲載した資料には「オーダースーツ市場規模の推移」という図がある。

この図によると

2016年 468億円

2017年 484億円

2018年 500億円

2019年 510億円(推定)

2020年 515億円(推定)

と記されている。500億円内外の市場規模しかない上に、毎年5億~20億円くらいしか伸びていないということがわかる。ZOZOブームとメディアの雑音的報道が大きかった2017年、2018年ですら10億円ずつくらいしか市場規模は増えていない。

となると、100億円弱のタンゴヤ(すでに10年前からこの事業をやっている)ならそれなりに稼げる市場ということになるが、2018年頃からの新参であるワールドや三越伊勢丹がタンゴヤまで規模を拡大するには少なくとも短期間では無理で10年くらいは見なくてはならないということになる。規模的にも時間的にもワールドや三越伊勢丹という大手にとっては旨味のないジャンルだということは普通に考えればわかるはずである。

これまで低価格パターンオーダーをやってきた企業はエフワン、ダンカン、ツキムラなど小規模企業ばかりである。それがすでに大手にとっては旨味のない市場だということがわかる。

 

まあ、メディアやSNSの情報なんていうのは鵜呑みにするものではないということを身を持って証明した事例だといえるだろう。

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2021/12/02(木) 1:04 PM

    低価格(3万円くらい?)のパターンオーダーは、買う方もあんまりメリットなさそうですね。去年、某経営コンサルタントに「お前の書いたアマゾンの書籍レビューで社会的信用が低下した。220万円払え。」と訴えられ、弁護士雇う金も無いから自分で法廷に立つのにハッタリかまそうとスーツをオーダーしましたが、色々調べて中価格帯(4~8万くらい?)のイージーオーダーにしました。低価格帯だと結局は、サイジング、生地とか中途ハンバな感じなんですよね。
    その後、私服用にコットンスーツとかリネンジャケットとかウールパンツとか作ってもらってますが、土日はいつも混雑していて、そこそこ儲かっていそうです。まぁ、小規模なお店だから売上高は大したことないとは思いますが、お店の人の話では仕事服じゃなく趣味としてスーツ作る人が来るから、コロナの影響は無いということでした。

  • とおりすがりの元・服売り より: 2021/12/02(木) 10:25 PM

    IT企業ですが、いまだにスーツ着用指示が出てるような会社で働いている自分の話を書きます。
    パンツはユニクロのスマートアンクルパンツ(紺)、シャツは無印のノンアイロンシャツ(青白ストライプ)、ジャケットはプラステのテーラードジャケット(グレー)を組み合わせて着ています。
    条件は「ストレッチなどで動きやすいこと」「全部自宅で洗えること」「安いこと」で、それぞれ自分にとってのベストな物を選んだら、こうなりました。
     
    どれかダメになっても簡単に入れ替えることができますので、これはこれで都合がいいです。
    パッと見ではビジネスカジュアルでそれらしく見えるため、周囲からはなにもツッコミがないです。
    そもそもデスクワークで客とも会わないのに、スーツ着用なんてバカバカしいし、わざわざ長時間座りにくいウール製のスーツをまともに着てるほうがバカを見ます。
     
    さて、そんな自分はコロナ禍以前は毎日出社で、今は4/5は在宅勤務です。
    在宅勤務中、社内の会議ではスーツ着用の指示もないため、上で挙げたようなスーツモドキすら、めったに着なくなっています。
    ますますスーツ着用の機会は減る一方です。
     
    そんな自分ですが、コロナ禍以前にパターンオーダーを1着買っています。
    「bref」というお店でですが、これはこれで気に入っています。
    気に入ってはいるのですが、仕事では上で挙げたスーツを着るので、当然ながら着る機会はまったくないです。
    たまにちょっといいところに着てくかもしれないと、念のため持っているにすぎません。
    なんなら、「たまに趣味で来てやらないとダメになるな」と思うほどです…まぁやっぱりないのですが。
    そんな人間がパターンオーダースーツを買うなら、多くても5~6年に1回、体型変わっちゃったなというタイミングぐらいです。
     
    自分のケースが一般的なのか、特殊なのかは自分では判断できませんが、そんな人間もいますよということで。

  • BOCONON より: 2021/12/05(日) 12:51 PM

    以前書いた通りですね。「イージーオーダーではおよそろくなものは出来ないし、パターンオーダーは型見本通りに作るからつまり既製服とほぼ同じ。型見本が気に入らない/体つきに合わないならそれまで。結局EOもPOも生地や色柄にコダワリのある人以外には無用のもの」「しかし遊び着用のスーツならとも角、ビジネス用に地味なようで凝った色柄のスーツなんて着るのは暴力団幹部みたいだし、浮かれた色柄のスーツなんて着るのはイタリアかぶれみたいであんまり感心しないね。既製のダークスーツでたくさんだろ。出来上がってみないとどんな感じになるかわからないという問題もないし」という…。

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