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南充浩 オフィシャルブログ

「検品」という工程ではサンプル生地と現物生地の違いは証明できないという話

2021年11月24日 ネット通販 1

くどい様だが、繊維・衣料品の製造加工に関する各工程は奥が深く、自分などは各工程のほんの入り口を知っているに過ぎない。いや、入り口というのもおこがましい話で、ドアノブくらいしか知らないと言った方が正確だろう。

そして、「全工程に通暁した」というような方はこの業界にはいないと経験上思っている。

 

OEM・ODMの普及と乱立で、ブランド側がかなり素人化しているが、ブランドだけでなく業界全てが素人化していると感じられてならない。

 

ちょっと話を蒸し返すと、少し前にアニュアンスというブランドが炎上した。

掻い摘んでいうと、炎上した経緯はこうだ。

 

ウール系のロングコートの素材がサンプルと、送られた来た物では異なるのではないか?

 

と消費者がSNSに投稿したことがきっかけだった。

そしてブランド側の対応が火に油を注いだ形となった。

 

素人化が激しく進む洋服ブランドとその買い手 – 南充浩 オフィシャルブログ (minamimitsuhiro.info)

 

アニュアンスを運営するDOT ONEは、11月10日から配送を開始したウールロングトレンチコートについて、SNSで「サンプルと手元に届いた製品で異なっている」といった内容の情報が拡散されたことに対し、「8月上旬に製造元へサンプルと同一生地での発注を完了させており、製造完了後に国外検品所、国内検品所の二重検品の元で弊社物流倉庫に納品しております」と説明。

SNSで生地が異なるとの指摘が拡散されたことを受けて、再度製造元へ製品の品質に関する確認を行った結果、拡散された情報は事実とは一切関係なく購入者に配送した製品とサンプルは同一生地であることの確認が取れたという。

アニュアンスのインスタグラムには11月16日に、コートの生地がサンプルと同一生地であることのお知らせに加え、事実とは異なる情報が拡散されたことによって多くの購入者の混乱を招き、カスタマーセンターへの問い合わせが集中していることから、今後は「詐欺」といった表現での情報拡散など連続的に事実と異なる内容の拡散が確認された際に然るべき手段として法的手順を取る場合があると投稿された。

 

この赤字の部分の「法的手段」をちらつかせた対応が炎上となったわけである。

そういえば、この騒動は終わったのだろうか?SNSを見ている限り忘れ去られているように感じる。人の噂も七十五日どころか、七日くらいだったわけで、いかにSNSの炎上などというものが短期間かつ実社会に影響力がないかである。

この対応のまずさは消費者対応のまずさであり、そちらはその手のアドバイザーやコンサルタントにお任せするが、個人的に気になったのは、

「8月上旬に製造元へサンプルと同一生地での発注を完了させており、製造完了後に国外検品所、国内検品所の二重検品の元で弊社物流倉庫に納品しております」と説明。

という一節である。たしかにSNSの原文にもそう書いてあった。

 

ただ、当方が客ならこの説明文は全く納得できない。ブランド側はやはり素人集団だと強く思った。

まず、「検品」という工程の内容を分かっていないのではないか。

検品とは一般的に

 

1、数量を過不足ないか確認する

2、生地及び衣料品が不良品でないかどうかを確認する

3、生地の組成が表記通りかどうかを確認する

 

という工程である。

「サンプルと本番製品の生地が同じかどうか」

を調べる工程ではない。

通常の検品なら、素材の組成がタグの表記と同じかどうかを検品した時点で終わる。

サンプル生地と異なっていたとしても、製品に「ウール88%・ナイロン12%」という表記があって、それと組成が同じだと確認されれば検品は通る。

2回やろうが100回やろうが結果は変わらない。

なので、個人的には、この説明で消費者は納得したのだろうか?と不思議になる。

 

一方、前回のブログでも書いたように、消費者の記憶が正しいとは限らないし、人間の記憶は容易く都合の良いように改ざんされる。

この消費者がサンプルとして見た生地の記憶が正しいかどうかは証明するすべがない。

 

結局は水掛け論でしかない。

 

サンプル生地と本番生地が同じかどうかは、検品会社ではなく、検査機関に別途依頼する必要がある。国内にもいろいろと検査機関がある。そこに依頼するほかないが、説明文からはそれをやったという風には読めない。

この辺りが、当方としては非常に不明瞭で「何だ?この騒ぎは」としか感じられない。

 

今回の騒動はファッションスナップドットコムが採りあげているだけで他の業界メディアは採りあげていない。すくなくともウェブ版では。

まあ、よくわからない忖度かもしれないし、報道するほどの価値がないと考えたのかもしれない。

ただ、メディアとしては、事実をそのまま報道することも大事だとは思うが、今回の件では「検品」なる工程がどのような物かは解説しても良かったのではないかと思う。

特に近年は、インフルエンサーブランドだ、D2Cだ、と業界外の素人がブランドを立ち上げやすい社会インフラが整っている。

これまでの既存ブランドが弱っている分、製造加工業者もこの手の新興素人ブランドのオーダーを受け入れることも増えるだろう。

そうなると、この手のトラブルは増えることはあっても減ることはないと考えた方が賢明だろう。

 

業界側にも読者側にも知識を共有化させることは今後非常に重大な役割になると思っている。今回の「検品」に対する解説などはその端緒としてやってみても良かったのではないかと思うが。

 

 

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 comment
  • 細野 より: 2021/11/24(水) 4:54 PM

    個人的には繊維の組成分析にどんなものがあるのか気になります。半導体しかやったことがないので、非金属のものは未知です。

    布団の検品のバイトをやったことありますが、ひたすらベルトコンベアに流れる何万もの布団を、シミが無いか、金属が入ってないかを調べるだけでした。

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