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南充浩 オフィシャルブログ

業界ではあまり「オシャレ」とは思われていないパルの経営が好調な理由

2021年10月15日 トレンド 4

欧米にはオシャレで有名なセレクトショップがいくつかある。

その辺りは欧米に詳しい方にお任せしたいが、それらの有名セレクトショップは大規模なチェーン店展開はしていない。当然、売上高自体も何十億円とか何百億円という規模ではない。

日本には、大規模チェーンに育ったセレクトショップがいくつもある。

ただし、実質的には洋服に関してはほとんどがオリジナル品で、他ブランドからセレクトして仕入れた商品は1割くらいである。洋服に関してオリジナル品が8割~9割を占めるという形態になっている。

世界標準のセレクトショップではなく、実に「日本型大手セレクトショップ」と呼んだ方が的確ではないかと思う。

 

8割以上をオリジナル品が占めるという特殊な形態を非難しているわけではない。

何百億円~1000数百億円という売り上げ規模で、ある程度の営業利益を確保しようとするなら、そうせざるを得ないからだ。

原初のセレクトショップとは、カッコをつけて呼び方を変えているが、専門店、ブティックと同じである。店オーナーが自分の感覚に合う物だけを仕入れて、それを中級以上の価格で販売するという店である。

店オーナーの感覚に合う物だから、万人にウケるはずもなく、その感覚に賛同できる顧客というのは多数派ではない愛好家みたいな人達ということに必然的になってしまう。

 

一方、大規模チェーン店化するには、ある程度のマスに支持されないといけないので、最大公約数的な品揃えが求められるため、趣味丸出しの仕入れなどできるはずもないし、利益率を確保するためにもオリジナル品を増やすしかない。

都会的でオシャレなイメージを都心店に特化することで保ちながら、最大公約数的なオリジナル品をマスに最安値ではない値段で売る、という極めてめんどくさい特殊な形態が「日本型大手セレクトショップ」ではないかと思っている。

しかし、こんなめんどくさい形態が無制限に成長し続けられるはずもない。だいたいはどこかの規模で限界点を迎える。今の決算を見ていると500億~1000数百億円が限界だろう。

おまけに昨年春から今年10月までの1年半はコロナ禍による人出の抑制があり、日本型大手セレクトショップが特化していた都心店が壊滅的な状況であるため、軒並み苦戦傾向が続く。

 

そんな中、好調なのは、日本型大手セレクトショップ各社の中においては直截的に言って「ダサい」と思われているパルグループである。

 

「スリーコインズ」1.8倍に成長  3〜8月期のパルグループ4割増収をけん引 – WWDJAPAN

パルグループホールディングス(HD)の2021年3〜8月期は、売上高が前年同期比39.9%増の631億円、営業損益が28億円の黒字(前期同期は17億円の赤字)、経常損益が27億円の黒字(同19億円の赤字)、純損益は14億円の黒字(同15億円の赤字)だった。

期末店舗数は12店舗減の920店舗だった。

とのことである。

この原因はなにかというと、低価格雑貨店「スリーコインズ」の好調である。

 

セグメント別売上高では、衣料事業が同24.2%増の398億円、雑貨事業が同78.3%増の233億円。巣ごもり需要を捉えた雑貨ブランド「スリーコインズ」の売上高が同83.8%増の187億円と急伸し、店舗全体の減収分をカバーした。雑貨事業の営業利益は前期同期比8倍の25億円と大きく伸ばした。

 

この手の報道だと、コロナ禍でスリーコインズが好調に転じたと読めてしまうものが多いのだが、スリーコインズの好調は今に始まったことではなく、10年くらい前からの継続である。すでに5~6年前から、パルグループ内で最大の売り上げ規模を誇るブランドは「スリーコインズ」だった。

ただ、不思議なことにこれまであまり業界紙でもそれは報道されなかっただけである。

 

今回の中間決算では、全体の営業利益が28億円なのに対して、スリーコインズがほとんどを占める雑貨事業部は25億円の営業利益をたたきだしている。逆に言うと衣料品の営業利益は3億円ほどしかないということになり、いかにスリーコインズがパルを支えているのかがわかる。

 

個人的には雑貨やインテリアにはまるで興味がないが、そんな自分からしても、低価格雑貨というのは洋服よりも購入に至るハードルが低い。

まず、たくさん買っても、洋服と比べると保管場所に困らない。当方は洋服を所有しすぎてすでに保管場所に困っている。

これを防ぐには洋服を買わないことだが、洋服業界はこの矛盾と戦わねばならない。

もちろん、雑貨とても増えすぎると保管場所に困るのは同じだが、洋服よりもまだコンパクトに収納しやすい。捨てるにしても捨てやすい。洋服の廃棄はめんどくさい。

 

そして、今は300円均一ではなくなったが低価格による購入のしやすさという点もある。昨年夏にスリーコインズで1000円の自撮り棒を買った。300~1000円くらいならたいがいの人は気軽に買える。この値段帯の洋服を買おうと思うとジーユーの値下げ品かしまむらの投げ売り品くらいしかない。

おまけに洋服でこの値段だと「品質ガー」が湧くが、雑貨だと、買ってみた感想でいうと、品質としても決して悪くない。(飛び切り良いとは思わないが)

また、日本型大手セレクトショップの衣料品が苦手とする、地方・郊外にも出店しやすいし、その客も取り込みやすい。

 

一方、低価格雑貨の最大の難点は客単価の低さと単品当たりの利益額の低さだろう。これをカバーするためには、生産ロット数が求められ、それは洋服以上にシビアに追求される。

しかし、スリーコインズはこの規模にまで成長したため、今後は逆にさらにスケールメリットが使えるようになり、コストパフォーマンスはさらに上がり商品の品質もより向上するだろう。

このスケールメリットを如実に表しているのが、ダイソー、セリア、キャンドゥの百均トップ3社だろう。年々歳々、品質もデザイン性もマシになり続けている。

一方、このパルが買収したものの、鳴かず飛ばずのまま消え去ったASOKOはスケールメリット化できなかった好例ではないか。

ASOKOは今年8月で全店舗閉鎖になり、現在実店舗無しという状態である。

 

スリーコインズは完全にダサいとは思わないが決して「超オシャレ」というイメージではない。ここまでの成長段階では商品のデザイン性・品質ともにイマイチの時期も長らくあった。

そこまで育てられたパルの手腕は評価するほかないし、その一方で「オシャレ雑貨」を標榜したASOKOがあえなく消え去ったのを見ると、同じ雑貨といってもやはりノウハウは異なるのだと感じさせられる。

 

日本型大手セレクトショップ各社はコロナ禍において得意の都心店が苦戦しており、支払いを何度もジャンプしたという会社が複数あると聞いている。

また、財務内容が極端に悪化しており、大量閉店に乗り出している上に、報道はされていないが契約社員を全員解雇するという企業もあると聞いている。

 

それらに比べると、オシャレイメージはかなり低いものの、地方・郊外出店を苦にしないという低価格雑貨スリーコインズという堅固な土台を確保したパルの経営は、他のオシャレな日本型大手セレクトショップとは段違いの強さを見せている。

業界人がいう「オシャレ」さと、経営の堅実さとは、決して一致するものではないということがパルの経営を見るとわかるのではないか。

 

そんなスリーコインズの鍋をどうぞ~

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 comment
  • ヒデ より: 2021/10/15(金) 10:11 PM

    日本型セレクトショップの解説、腑に落ちました。自分はリサイクルショップ、古着屋のヘビーユーザーですが、リサイクルショップで日本型セレクトショップの商品を見た時に感じる違和感の理由がなんとなくわかった気がします。自分は基本的に日本型セレクトショップの商品は、買わないことにしているのですが、その理由は、1.似たようなシンプルなデザインの場合、ユニクロやGUよりも質が低く、無意味に値段が高いと感じるから。2.他社との差別化を図るためなのか(恐らくそう)、無意味に取ってつけたような余計なデザインがあると感じるから。3.海外のブランドとコラボした商品などは、オリジナルの海外ブランドの方が質が高いと感じるから。といった感想を持ってしまうからです。2ndストリートなどのリサイクルショップは、市場での需要や人気度が値段に直接反映されるので、今のところ日本型セレクトショップの商品は、ユニクロやGUなどと比べると、若干高めな傾向がありますが、最近は微妙だと感じられます。場合によっては、ユニクロUやアンダーソンコラボの方が高値が付く場合もあるからです。地方都市や都心では、傾向が異なるのかも知れませんが、消費者は薄々気付いているのかも知れません。セレクトショップの商品は、無意味に割り高だと。

  • くぼちhkb より: 2021/10/15(金) 10:26 PM

    サンリオから始まった日本型キャラクターショップがファンシーショップとなり、その均一店舗がミカヅキモモコとなり、しかしキャラクターから卒業した消費者は生活雑貨店に流れ、生活雑貨ショップに変化できずショーイチに救われた。上手く対応できたのがスリコで、アパレル事業に資金提供までしているということになるのでしょうか?アパレル業界は衣だけでなく、食、住ももっと勉強しましょうと言われているようなものですね。

  • kuki より: 2021/10/16(土) 10:15 AM

    いつも楽しく拝見しております。南さんの解説、腑に落ちることが多いです。
    まず、セレクトショップという名前を会社も消費者も引きずりすぎてますよね。セレクトショップ=オシャレという感覚を植え付けられたまま20年位来てしまった感じがします。あまりわからないからアローズで買ったら間違いない的な。
    服は1人の人が1日1コーデしかできないし、年間365日しかないです。昔より枚数を買うようになったとしても個数の上限はあります。人間の数もお財布の中身も大幅に増えないのに、会社は予算を前年より上げ、現場は前年比増を喜びます。多くのセレクトといわれる会社が、マス層にマッチしない規模感になってきて、頭打ちにあってる感じがします。でも予算は高いしとにかく作って売らなきゃ、的な。会社はどんどん伸びないとだめなのか、店舗数を増やす、社員を増やすことを全ての会社が目標にするべきことなのかと考えてしまいます。
    客を食い合い、商品がかぶり、食わしていく社員が多いから汎用性のある事故らないものづくりになっていく…。 
    また、「セレクトショップと呼ばれるオリジナル商品をたくさん作る会社」は自前で全てやるところが伸び悩みの原因だと思います。
    他業種からの転職者も少なく、プロのマーケッターがいる会社も少ないです。いてもアパレル専門の社長と仲良しおじさんコンサル。社員は販売員から本社勤務になった人、専門学校から商品チームに入った人が多く、大学出て大手に採用されるような人材はいません。「バブル期に服が売れた時代の上司」に育てられた若者が今30代40代になり現場の中心となっています。

    パルはセレクトが嫌がる縫製の汚い韓国仕入れなんかも柔軟にやっていたりして、おしゃれセレクトショップの地位は築いてないですが、お店の楽しさは未だにあると思います。こんな色作るんだ、こんなファニーなコラボするんだ、というワクワクがあり、低価格が地方でもウケてる感じがします。スリコは毎週正面のVMDが変わり、雑貨屋なのに新鮮さが保たれています。ちょうどいいマス受け感が今の結果に繋がってるのかなと思いました。

  • taku より: 2021/11/08(月) 6:04 PM

    いつも南さんの記事を楽しく拝見しております。
    以前、パルの株を持っていたので40代男性ですがスリコは追ってました。
    実際手に取っても見ましたがお値段以上に見える雑貨があったり、
    小物のアクセサリーも良いですよね、何より女性に支持されているのが伸びてる原因かと思います。

    セレオリに関しては個人的にはデザイン、質感、耐久性は言うほど悪くないと思うんですよね。
    ただ如何せん、セレオリのわりに高い、セールにかかりやすい、リセールバリューが悪いなどの悪条件が、、
    コロナもあってセレショ離れが気になってます。

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