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南充浩 オフィシャルブログ

マス層はインフルエンサーをあまり好意的に見ていない

2021年10月7日 トレンド 3

現代日本のような成熟社会において洋服が確実に売れるような手段は無いと基本的には思っている。

当方は外野で、製品ビジネスをやっているわけではないから、そんなことが気楽に言えるのだが、実際に製品ビジネスをやっている製造加工業者やアパレルブランドの方々は売れそうな手段なら藁にもすがりたい気持ちだろうということは十二分に理解できる。

その中の一つがインフルエンサーである。

インフルエンサーというのは平たく言うと、ウェブ上での有名人である。

代表的な取り組みとしては直近ではこんなのがある。

 

ゾゾ DtoCブランド企画でインフルエンサー募集 | 繊研新聞 (senken.co.jp)

 

ゾゾタウンに出店する人気アパレルブランドと商品企画に取り組むインフルエンサーを、10月6~20日、自薦・他薦問わず募集する。

 

とのことだが、各ブランドの売上高はこれで何十億円も増えることはないだろうと思う。もちろんある程度は売れるだろうが、参加している大手ブランドが期待するほどの売り上げ規模にはならないだろうと見ている。

たしかにインフルエンサーには何万人かの強いファンがいる。だからそのうちの何千人かくらいには、商品の価格にもよるだろうが確実に売れる。その一方で、ファン以外の人にはあまり広がりにくい。

有名なテレビタレントと異なり、「有名」といってもそこまで有名ではないというのが多くのインフルエンサーなので、ファン以外の人への消費行動に波及させるのは難しいだろう。

 

その証拠に、ファンを除くマス層はインフルエンサーについてさほど好意的に見ているわけではないというアンケート結果がある。

これだ。

年末商戦に日米マーケターの約7割がインフルエンサーを起用予定、消費者は懐疑的【Sitecore調査】(MarkeZine) – Yahoo!ニュース

 

〇日米マーケターの約7割がインフルエンサーを起用予定、消費者は懐疑的

日米のマーケターに「今年のホリデーショッピングにおいてどのようにインフルエンサーを起用するか」と尋ねたところ、7割弱が頻度にばらつきはあるものの、インフルエンサーの起用を予定している一方、3割強は起用しない予定であることが分かった。

 

とあり、今回のZOZOの取り組みと同じスタンスの企業が多いということが分かる。

しかし、消費者は日米ともにインフルエンサーを好意的に見ていないという結果が出ている。

 

一方、消費者にインフルエンサーに対する印象を尋ねたところ、日本の66%、米国の76%は「全く興味がない」と回答。日米ともに、消費者の6割以上がインフルエンサーという存在に「共感できない」「信用できない」「関係がない」という印象を持っていることが分かった。

 

この結果も照らし合わせて考えてみると、販促ツールとしてインフルエンサーを起用しても、不特定多数のマス層には広がりにくいと考えられ、購買に至るのはそのインフルエンサーのファンが中心ということになる。

昔、長嶋茂雄や石原裕次郎といった国民的大スターを起用すれば、多くの日本人が商品を買ってくれたというような消費行動はインフルエンサーでは極めて起きにくいだろう。

アパレル業界はインフルエンサーに過剰に期待しない方が賢明である。

 

 

各分野にインフルエンサーは存在するが、衣料品分野においてはインフルエンサーがオリジナルブランドを企画・販売することは珍しくない。

一昔前の読モやタレントがブランドを立ち上げたのと同じで、それがインフルエンサーに置き換わっただけである。ただし、一昔前の読モやタレントのバックにはれっきとしたアパレルブランドや商社などが付いていたため、商品の説明文は整然としていた。

 

一方、現在のインフルエンサーは自分の言葉で語っており、意味の分からない説明のオンパレードとなっており、ウェブでの拡散力以外の部分での素人度合いを見せつけ続けており、これがさらにファン以外の人間からの信用を失っている要因の一つでもある。平たく言うと「テキトーなこと言い過ぎ」である。

先日、インフルエンサーブランドから

・合繊100%のモヘヤニット

という謎の商品が発売されたことをこのブログでご紹介したが、これに類した商品は日常茶飯事で登場している。

最近見た中で印象に残った謎の商品は

・中綿入りダウンジャケット

・合皮の革靴

の2点である。

業界で勤務されている方々ならこの可笑しさは即座にお分かりいただけるだろう。

 

アンゴラ山羊の毛が入っていないモヘヤニットは存在しないし、ダウン(羽毛)が入っていないダウンジャケットは存在しない。革靴の革は本革という意味なので合皮の革靴なんてものも、定義上では存在しない。

これらはひとえにインフルエンサーがド素人である上に、まともなアパレルブランドや製造加工業者、商社などが監修していないからこそ生まれてしまったものだといえる。

 

それにしても、ド素人インフルエンサーは、独自商品をそろってD2Cと名乗り「中間業者を排除した」ことを謳っているがこれは事実ではないだろうと当方は見ている。

中間業者(いわゆるOEM業者、ODM業者)を排除するということは、ド素人インフルエンサーは直接縫製工場と折衝し、直接生地工場や生地問屋と折衝しなくてはならない。

その際、「合繊100%でモヘヤニット作りたいんですよね~」と口走れば、工場サイドは何を言っているのか理解できないだろう。中綿入りダウンジャケットしかり、合皮の革靴しかり、である。

こんなわけのわからないことを言われて、わかりましたと答える工場は当方の知る限りまずいない。

工場は絶対にダメ出しをする。

にもかかわらず、製品が出来上がっているということはド素人インフルエンサーの宇宙語を翻訳して工場に伝える役割の人間が介在しているとしか考えられない。

翻訳を担当するのはOEM・ODMを手掛ける中間業者である。

 

業界の製造インフラが整い、ド素人の新規参入の障壁が低くなればなるほど、逆に翻訳家としての中間業者は必要不可欠になっているといえる。皮肉なことに、中間業者の助けなしにはド素人インフルエンサーがオリジナルの製品を作ることはほとんどの場合において不可能だろう。

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2021/10/07(木) 1:07 PM

    この前、まぁまぁ好きなアイドルの女の子がデビュー10周年記念で写真集をクラウドファンディングで資金集めて出すという企画やっていました。
    その娘はTwitterのフォロワー1万7千人とかで、目標金額は250万円だったので、結構厳しんじゃないかなぁ~と思っていたら、案の定なかなか目標には行かず、最期のギリギリに合計224人、292万円で達成していました。
    1万7千人もフォロワーいても、たった1.3%くらいしかお金使うファンは居ないという現実。フォローは無料だから気軽にするけど、ほとんどの人はフォローだけでお金は使わないのでありましたw

    • kimgonwo より: 2021/10/11(月) 11:43 AM

      興味深いコメントありがとうございます。なるほどすごく腑に落ちます。
      私もインスタでフォローしている人がいますが 写真集作製にクラファンよろしくとあっても 正直お金は出してませんね 

  • BOCONON より: 2021/10/08(金) 1:13 PM

    比較的影響力のあるMB氏などはオンラインサロンで儲け,さらにオリジナル商品売って儲けてますね(信者以外には非常に評判悪いけどw)。そういう事が出来るインフルエンサーはたぶんアパレル会社自体の商品の売り上げなんて知った事じゃないと思われます。ユニクロの話でなければ高価なブランドの話ばかりしてるし。
    以前彼と “コラボ” したしまむらもどうやら一度で懲りた様子。実際笑っちゃうほどしょぼい服だったし,MBクンもたぶん本気で売れる商品考えたわけじゃない。しまむらも気の毒にw

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