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南充浩 オフィシャルブログ

増えすぎたOEM屋

2021年7月12日 トレンド 1

昔は、と言ったところで、自分がこの業界で知っていることなんてせいぜい28年くらい前のことまでである。

それより以前のことは学生だったので知らない。

もちろん、新聞やテレビのニュースや雑誌などから得た知識はほんの少しだけある。しかし、それが実際に正しいのかどうかはわからない。特に業界内の動きに関して言えば、一般メディアの知識はあまりにも低く、現在でもそうであるように的外れである場合が多い。すくなくとも業界メディアよりも大きく劣る。

学生時代に業界メディア、例えば繊研新聞や繊維ニュース、今は亡き日本繊維新聞なんてその存在すら知らなかったから読んでいるはずもなく、就職するまでに得た業界知識というのは、一般メディアからときどき流れてくるニュースくらいだった。

 

35年前とか40年前は、アパレルから独立してブランドを立ち上げる人が多かったと聞いている。もちろん、一般メディアのニュースによる知識である。

45年前、50年前も同様だったと聞いている。

黒木亮さん著の「アパレル興亡」にもその一端は描かれている。事実を基にしたフィクションなので、細かい社名やブランド名は置いておいて、大まかな流れとしては間違っていないはずである。

90年代でもまだアパレルから独立した人が自分でアパレルブランドを立ち上げるケースはまだ多かったと記憶している。90年代前半以降は当方は就職している。

最初の就職先で販売員をやっていたころの話である。

リーバイス、ボブソン、ラングラー、一部エドウインという品揃えで6900~8900円のジーンズを販売していた。

今よりも専業メーカーのジーンズが売れていた時代だが、それだけではなかなか売上高が稼げないから、低価格カジュアル品も多く仕入れていた。

例えば、1900円のインド綿スカートと、小泉アパレルの2900円のインド綿スカートがあり、なぜ1000円違うのか分からなかったが、店頭で触っていると何となく小泉アパレルの商品の方が縫製が丁寧で良い生地を使っているように感じた。

そんな中、たしか2900円の店頭販売価格だったと記憶しているが、名も知れぬメーカーから聞いたこともないようなブランド名のジーンズが大量に入荷した。

現在の2900円ジーンズと比べると、明らかに空紡糸で織られたカサカサのデニム生地(もちろん綿100%)で作られていて「安かろう悪かろうの値段なりの出来栄えだな」と感じた。

このメーカーは、ビッグエイトという社名だったと思う。大阪市に本社があるようだった。

本部のバイヤーに聞くと、数年前のどこぞの大手アパレルか商社にいた清水さんというオジさんが独立して一人でやっているメーカーだという。多分量販店向けのジーンズメーカーとして一応オリジナルブランドの名前を付けて納入していたのだろう。

販売員を辞めてから早、25年。四半世紀が経過してしまったが、その後、ビッグエイトの商品も評判も耳にしたことがない。

 

さて、2000年以降にアパレル企業や商社から独立した人がオリジナルブランドを立ち上げることは大きく減った。デザイナーズブランドから独立してデザイナーズブランドを立ち上げる人はいまだにいるが、アパレル企業から独立して独自にアパレル企業を立ち上げオリジナルブランドを立ち上げるケースは大きく減ったと感じる。

もうビッグエイトのような独立は激減している。

代わって増えたのが、OEM屋・ODM屋としての独立である。これは本当に驚くほど増えた。

また、近年のアパレル不況でOEM屋・ODM屋の倒産も増えたが、そこにいた社員がまたOEM屋・ODM屋を独自に立ち上げるというケースも珍しくなく、当方の知り合いにも多数いる。

犬も歩けばOEM屋に当たる、くらいに業界にはOEM屋が溢れている。

 

独立直後から数年間、非常にお世話になったOEM屋の社長が、先日亡くなられた。

ここ4年くらいはお会いする機会がなかったが、まだ60歳手前だったが、どうもこの4年間はかなり、相当に酒量が増えておられたと聞くので、その影響だろう。当方の伯父はアル中で亡くなっているし、亡父はアル中で激しく体を衰えさせて死んだから、酒量が増えすぎるのは確実に健康を害するということがわかる。

で、この社長さんからは本当にいろいろなことを教えていただいて感謝するしかないのだが、晩年はOEMの受注の確保に相当に苦労をされていた。

理由は、OEM屋が増えすぎているため、ブランド側からすればいくらでも選ぶ先がある。

さらに、昔は好調といわれるアパレルやブランドがもう少し多かったが、2010年以降は好調なアパレルはほんの一握り。あとは苦戦企業ばかりという状態になってしまい、増えすぎたOEM屋(商社含む)は、数少ない好調アパレルに群がるようになり、その結果、過当競争が起きている。

当方がもし、好調なブランド側の人間だったら、自社や自分にとって最大にメリットのあるOEM屋を選ぶ。商品のクオリティや納期を守ることは前提として、その上で

 

1、料金が安いこと

2、たっぷりと接待をしてくれること

 

という辺りがポイントになるだろう。

当方は接待にはあまり興味はなく、せいぜい鳥貴族辺りで接待してもらえば十分だが、そうではなくて接待好きの方も多くおられる。

それよりも最も重視されるのは料金の安さだろう。

世の中、上には上、下には下がいくらでもいるものだから、料金の安いOEM屋をいくらでも探すことができる。そうなると、生半可なOEM屋が受注を獲得するというのは難しくなってしまう。

アパレルにも厳しい状況だが、OEM屋にとってはさらに厳しい状況である。もちろん、製造加工業者にとっても。この過酷な状況が解消されることはあるのだろうか。もちろん何十年か後にはまた変化した形を見せるのだろうが、当方が現役でいる間に解消することはちょっと難しいのではないかと感じている。

 

「アパレル興亡」をどうぞ~

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 comment
  • OZ より: 2021/07/12(月) 9:55 PM

    お洋服そのもののデザイン自体は同質化してるし、ブランディングの要素の中でお洋服単品のオリジナリティが重要視されなくなったんでしょうか。社内デザイナーが意識高くエッジ効かせてもあまり売れないし、だったら外注出して、人減らそうってな感じで専門職の方がいなくなる。
    ちょっと自社オリジナルに戻りたくなっても、もう人材はいないどころかOENメーカーに専門職の人材が豊富だしっ。
    ていう感じなんですかね。

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