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南充浩 オフィシャルブログ

ファッション専門学校に思うこと

2021年6月23日 ファッション専門学校 1

ファッション専門学校で授業をするようになってかれこれ、4年くらいになる。

その前にも大阪文化服装学院の夜間コースで1年半くらい講義をさせてもらったことがある。

科目はその時々によって異なるが、以前だと業界研究と計数管理を担当していて、今年は計数管理と素材解説を担当している。

10代後半から20代前半の若い人たち、それも業界に対する知識のない人たちを相手に講義をするのだが、洋服の作られ方というのは、当たり前だがまったく知識がない。

他の専門学校でも1年間働いていたこともあるが、10年間が経過しても、専門学校の運営者も専属講師陣もやっぱりデザイン科・デザイン学部偏重の姿勢はあまり変わっていないと感じる。

デザイン科・デザイン学部というのはだいたいが「作ること」「デザインすること」を教える学部・学科で、これはこれで重要であることは否定しないが、最早それだけでブランドを立ち上げることは不可能だ。立ち上げるだけならできなくはないが、何年間にも渡ってビジネスを展開し続けることは難しい。

 

90年代後半にデザイナーズブランドブームがあって、その時、20代半ばから30代半ばくらいの多数のデザイナーが独立したが、今、ほとんどが残っていない。

その理由の一端には、専門学校で作ることだけを重点的に教えたことにあるのではないかと思っている。

極端な言い方をすると、自分のような者でも洋服を作るだけなら作れなくはない。もちろん、自分で縫製することなんてできないし、パターンも引けない。デザインすらできない。

しかし、巷に溢れるODM業者を1つ選んで、そこに料金を渡して、お願いすればオリジナルの洋服は作れる。

デザインだって、見本となる服を渡して「こんな感じでお願いします。色は、赤ではなくて青にしてください」みたいな指示で十分機能する。

1型50枚か100枚くらいがミニマムロットとなるだろう。

ただし、売れるかどうかはわからない。全くの趣味で数十万円を投じて1型100枚のオリジナル服を作るというのであれば、作っただけで目標は達成できるが、それを持ってビジネスとなすには売れなくてはならない。売って現金化し、そのお金で次のアイテムを作らねばならない。

 

何を当たり前のことをと思われるかもしれないが、これまでの専門学校経験でいうと、古参の講師であればあるほど、このことをデザイン科・デザイン学部の生徒に教えていないように見える。少なくとも知っている範囲においては。

 

また、ファッション専門学校に進学してくる生徒の特質として算数に極端に弱いことが珍しくない。数学ではなく算数ができない。

計数管理で必要なのは、足し算・引き算・割り算・掛け算の4つと、分数の計算と小数の計算だけである。

それ以外にナンタラ方程式も微分積分も行列も必要ない。

小学校6年生までの算数で事足りるのだが、分数の計算、%の計算の基本が理解できていない生徒が珍しくない。

 

当方の計数管理の知識もノウハウも、例えばマサ佐藤氏には遠く及ばない。しかし、そんな%の計算の考え方がわからない生徒に解説をすることくらいはできる。

入り口の知識を解説することくらいはでき、そこから本格的に学びたければ、それこそマサ佐藤氏を始めとするその道のプロに教えを乞えば良いのである。

そんな役割の人間も必要だと思っている。

 

それはさておき。

 

デザインする能力も重要だが、お金の集め方・回し方・借り方も必要だし、製造に関する知識も必要だし、製造をするための業界構造もザックリと知っておく必要がある。

独立してブランドを起こすには、むしろそちらの方の知識の方が重要になる。

独立しても長続きしているデザイナーの人を長い間観察していると、やはりそちらの方面に独特のノウハウというか嗅覚を備えるようになっている。

逆にカネ勘定の下手くそな人は、よほどの太いパトロン(親、愛人含む)がないとすぐに消えていってしまった。

 

もちろん、製造に関してだって、当方の知識は現場で商談をしていない分、浅い。

しかし、バリバリのOEM業者の方が、実績があるからといって生徒に上手く説明できるかというと、できないという人の方が多いだろう。

製造に関する入り口の知識を解説することが自分の役割ではないかとそこは確信している。どうしてももっと詳しいことが知りたければ、OEM業者に教えを乞うなり、就職するなりすれば良いのである。

まあ、そんな感じなのだが、つらつらと思うが、この辺りを授業内容に大々的に取り入れないと、ファッション専門学校は上っ面の夢だけを与えてしまうことになる。これまではそういう部分が多かったと自分には見える。

夢だけ与えられて、いざ、働いてみるとまったく想像していた世界と違うというのでは、却って若者を潰してしまいかねない。それは人材の無駄だし、ひいては業界全体のためにもならない。

衣料品ビジネスは、どちらかというと泥臭いことの方が多い。それを早いうちから学生に周知させることは学生のためにも業界のためにも必要不可欠ではないかと思っている。

 

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 comment
  • kta より: 2021/06/23(水) 1:00 PM

    東京都内の某服飾専門学校で勤めた経験がありますが、正にそれです。というか、教職員が現場に出ていない人間しかおらず、現状を理解しながらも自分らの仕事(指導)が嘘になってしまうので何もしないが得策になっていました。ある教職員は「2年間楽しければ良いじゃないですか」とまで言う始末。そもそも若年層が減り、入学者の頭数だけを考えていて中身は置き去り。自分らが詐欺紛いのビジネスになっている事を微塵も感じていない。その後の業界と学生の人生に対して何の責任も感じていない。
    現場で働きながら外部講師として受け持つ方々とは同じような危機感を共有できましたが、外部からの提言や案を悉く却下し、さらには次年度から外すというような仕打ちまでやります。
    辞めました。今はまた企画として現場に戻り勤務しています。

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