MENU

南充浩 オフィシャルブログ

物作り系ブランドが苦戦しやすい理由

2021年6月2日 企業研究 3

これまで、何度も製造加工業や老舗メーカーが企画製造した衣料品がなぜ売れにくいのかということを書いてきたが、当方の拙さのために伝わらないことが多かった。

これは工場発のブランドもそうだし、ジーンズやワイシャツ、スーツなどの専業老舗アパレルメーカーも同様である。

「物」自体の作り込みや品質の高さを追求するのは当然のことだが、ともすると、それの実現にのみ注力してしまうことになりがちである。

その結果

 

「うちの商品の品質は良いのに売れない。売れないのは社会や時代が悪い」

 

という具合に明後日の方向にこじらせて行くのである。

しかし、これを端的に指摘している方がおられる。

 

 

販売コンサルタントの平山枝美さんのツイートである。

ツイッターにアパレルビジネス系のインフルエンサーやコンサルタントはあまたいるが、体感的にはだいたい9割くらいはポジショントーカーか偽善者かピンボケである。

その中にあって、平山さんは派手さはないが数少ない的確な識者であると当方は見ている。

 

平山さんは当方と違って上品で人徳者なのでボカしておられるが、これは恐らく、「ガイアの夜明け」というテレビ番組で特集された三陽商会とジーユーのことではないかと推察する。

ここで言われている大手とはもちろん三陽商会のことである。

 

三陽商会は、ともすると「バーバリー依存」と言われがちだが、昔から物作りには定評があった。今でもその部分は受け継がれているが、これは三陽商会に限らず、老舗と言われているアパレルメーカーや最近増えてきた工場発ブランド、産地発ブランドに共通する宿病だといえる。

これまで何度も書いてきたように、品質は高いにこしたことはない。しかし、いくら「この生地の目付がどうのこうの」「この生地の糸の密度がどうのこうの」「折伏せ縫いが云々」と言ったところで、着心地が悪かったり、着てみたシルエットが不格好だったりすれば、消費者からすれば「不要な物」でしかない。

消費者は、生地や縫製仕様を購入しているわけではない。

消費者は生地問屋でもないし、縫製工場の社長でもない。その部分のみにカネを払うことは絶対にない。物作りの入り口を知っている当方ですら、そんな衣料品は買わない。

一方のジーユーはというと、

 

という姿勢で、番組の中でも広く試着してもらって意見を集めて修正点を検討していた。

 

三陽商会は数人の店長にヒアリングするだけだったと記憶しているが、三陽商会に限らず、老舗メーカーや工場ブランドだって別に企画者の独断のみで商品を作り上げているわけではない。

何人かにヒアリングはしているが、総じてだいたいが関係者数人にヒアリングするにとどまる。

関係者へのヒアリングが無駄とはまったく思わないが、不十分であるとは思う。

 

なぜなら、関係者もまた当事者の一人であり、完全に客観的に見ることはほとんど不可能だろう。どうしても甘めの評価を下しがちになる。

また、一般消費者とは異なる視点で、物作り寄りの判断を下してしまいがちになる。

 

物作りの知識がない一般消費者が下す判断というのは、物作り側からすればナンセンスなものもあれば、その商品自体の存在価値を否定するようなものもある。

それをすべて鵜呑みにする必要はないが、作り手側では気が付かない改良点を提示されることもある。

 

ジーユーを展開するファーストリテイリングという会社がすべて正しいとは思わない。

柳井正というトップの政治・経済観はまったく評価に値しないし、自動レジを巡る特許敗訴なんてクソだと思う。また普段は政治に対して批判する癖に中国に対しては「政治中立」と言い出す日和見主義もまったくの愚行でしかないが、ジーユーのこの姿勢は評価できる。

ジーユーは安さとトレンドのみが評価されがちだが、こういう商品開発ももっとクローズアップされるべきではないかと思う。

 

逆に、物作り系のブランドは、売れているブランドがなぜ売れているのか、自分たちがアピールする「品質ガー」がなぜ評価されないのか、そのあたりを虚心坦懐に再考すべきだろう。

常々、何度も書いているように、確かな技術を持っているからこそそれが加われば鬼に金棒ではないか。

売れなくて悔しいなら、売れるように努力するほかない。その努力とは「さらなる高品質を追求する」ことでは決してない。

 

 

平山さんの著書をどうぞ~

この記事をSNSでシェア
 comment
  • kimgonwo より: 2021/06/02(水) 11:22 AM

    確かにサンヨーのコートはいい物ですが
    ああいうコートを着ている人いないですよね
    安物のなんちゃってダウンコートがせいぜいです
    ノースなんとかなんか着てたらすごいです
    強い人が勝つのでは無く 勝った人が強いという理屈なら
    良い商品が売れるのではなく 売れた商品は良い商品ということに
    なるんでしょうかね
    ところでSPAとかで 販売員の傾聴力が
    商品の製作に反映されるんじゃなかったでしたっけ?

  • タナベ式 より: 2021/06/02(水) 12:21 PM

    5,6年くらい前からファーストリテイリンググループの求人が年収600万くらいで、コレクションブランドやその他アパレルは350〜450万程度になっていて(現在も)、コレクションブランドやその他アパレルで忙しいわりに下がるしかないボーナスに疲れちゃった優秀な人材がファーストリテイリンググループに流れはじめたんですよね。(モノつくりの知識の流出というのか流入というのか)
    GUはじめファーストリテイリンググループが安くて悪くないモノ(良いもの)を作れるのはスケールメリットだけでなく人材の流れをみると必然的なことだと思っています。

  • OZ より: 2021/06/02(水) 8:26 PM

    業界の人が一番気づいてるんですよね。
    自分が買うのは。。。ある意味こだわってるもの。
    自分が買わない物をつくるってる最中でテンションが下がる。
    もはや、ある種重要な細かな差、はどっちでもいい、気づかない。
    偉そうにうんちく垂れる。
    結果大きな差になる。

OZ へ返信する コメントをキャンセル

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ