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南充浩 オフィシャルブログ

「オフプライスストア」という看板は一般大衆の購買意欲を刺激できない

2021年4月14日 トレンド 2

国内のアパレル小売市場で、往年のような「ブーム」が起きることはまずなくなった。

可処分所得の減少とかそういうことも一因かもしれないが、30年近く服を買い続けてきた当方からすると、ラグジュアリーブランドや一部のデザイナーズブランドを除くと、百貨店向けブランドやファッションビルブランドと低価格ブランドの商品に大きな差が無くなったと感じる。

厳密に比べればもちろん差はあるが、2005年くらいまでの差が50センチくらいあったと仮定すると、今だとその差は10センチとか5センチ程度ではないかと感じる。

5センチ程度の差なら誤差の範囲内というふうに感じる人が多くても不思議ではない。

加えて、2010年以降のトレンドの急激な変化の消失と、前トレンド品が撲滅されず一定数存在し続けるという多様性がブームを起こりにくくしていると感じる。

2015年くらいでスキニーパンツへの一極集中は終わったものの、未だにスキニーパンツはほぼ定番品のような扱いで店頭に並んでいる。ワイドパンツとスキニーパンツ、テイパードパンツが併存している状況にあり、消費者もその日の気分やコーディネートのローテーションによってそれらを穿き分けている。

いうなれば、成熟化だろう。

 

そうなると、これまでのように「ブーム」を仕掛けて、タンスの中身を短期間で総入れ替えさせるという売り方は通用しなくなる。

しかし、アパレル業界では「ブームを仕掛ける」的な売り方が忘れられないのか、そういう取り組みが目立つ。

今なら「EC(ネット通販)」「エコ」「D2C」「オフプライスストア」あたりだろうか。

だが、どれも大衆が飛びつくにはあまりにもわかりにくい。カタカナ語でチョロまかすしか能のない広告代理店か、自我の肥大したイシキタカイ系が面白がっている程度である。

 

先日も某コンサルタントが、ワールドとゴードンブラザーズの共同オフプライスストア「アンドブリッジ」の今後の可能性について熱弁を振るっていたが、当方には疑問しか感じなかった。

そりゃ、安い商品の方が売りやすいことは事実だが「オフプライスストアだから」という理由で売れるとは到底思えない。

自社ブランドのみか、他社製品も揃えているか、という違いはあるが、すでに「アウトレット」が我が国では20年以上も存在していて、在庫品の安売りには国民のほとんどが慣れてしまっている。

ポジショントークの業界人を除いて、一般消費者にとってはアウトレットとオフプライスの区別さえできないだろう。

 

さらに、百貨店やファッションビルでの「在庫品セール」催事も頻繁に行われていたり、大都市都心にはバッタ屋と呼ばれるような在庫処分店が個店から小規模チェーンのレベルで点在している。

そういう環境を考えると、「オフプライスストアがすごく目新しい」「在庫処分店という存在が新鮮だ」とは一般消費者の目には映らないだろうと考えられる。

実際のところ、自分もさほどの目新しさは感じない。また一つ新しい名称(実態は昔から見たことがある)が出てきたな、程度である。

 

 

バッタ屋が多数軒を連ねる天神橋筋商店街のミクロな話をしてみようと思う。

昨年の新型コロナ拡大による外出自粛によって、2019年末までと比べて2020年以降のバッタ屋の売上高も大幅に減っている。

天神橋筋商店街は、個店もしくは小規模チェーンのバッタ屋が多いが、2020年に何店舗も閉店・撤退に追い込まれている。

大阪市内に3店舗を構えていた在庫処分店が昨年11月に天神橋筋商店街店を閉店した。跡地にはわらび餅屋がオープンしたが果たして大丈夫なのかと赤の他人ながら心配になる。

先日、ばったりこのオーナーと出くわして少し立ち話をしたのだが、大阪市内の全店を閉店したそうである。

理由は売れなくて採算が悪化しているからである。今後はネット販売のみで凌いでいくそうである。

 

また、心斎橋筋商店街の長堀通りを越えた商店街にあった在庫処分店も昨年末から今年始にかけて閉店・撤退していた。

この業者の苦戦理由は、2019年に取り組んでいた正規品販売の方が苦戦したことが大きな理由だということだが、コロナ自粛がそこに拍車をかけたのは言うまでもない。

さらにいえば、他の個店レベルの在庫処分店も苦戦傾向にある。

 

圧倒的な大手であるドン・キホーテですら、オフプライスストア業態は離陸できずに今年1月末で撤退している。

オフプライスストア (donki.com)

 

このように見てみると「在庫処分店だから」とか「オフプライスだから」という理由だけでは洋服は売れないということがわかる。

もちろんすべての業者がダメだとは言わないが「オフプライス」「在庫処分」というお題目だけでは、一般の消費者は動いてはくれないということである。

そこには、成熟化による衣料品のブームが起きにくいことも大きな理由として横たわっているだろう。20年前にはブームだったアウトレットモールも定着化してしまい、施設ごとの優劣格差が広がっている。「アウトレットだから」という理由だけでは売れない時代になったということである。

 

ドン・キホーテの撤退や、天神橋筋商店街の店、大阪市内に点在し撤退し始めている在庫処分業者を見るにつけても、メディアやコンサルタントが熱心に説くほどオフプライス店・在庫処分店に活路があるとは到底思えないというのが、業界の底辺に暮らす初老の正直な感想である。

多分、笛吹けども踊らずという状態が3年以内には顕在化するのではないかと思っている。

 

 

コーチの主力商品であるアウトレット品をどうぞ~

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 comment
  • BOCONON より: 2021/04/14(水) 1:39 PM

    ディスカウントストアなんてものはうちの近所にはなくなった。ブック・オフも。リサイクル/中古品売る店もあんまりパッとしない。ドン・キホーテは僕には買うものがなくてあまり行かないのでよく知りませんが。
    アウトレットモールも新しく作られるところは最近ない(花園アウトレットモールなんてほんとに開業するのやら)。既存のアウトレットモールもアウトレット専用ではない “良心的” で “お買い得” な商品売っているところ以外が客が入らなくなっているらしい。コーチのバッグや財布なんて今どき女子高校生も欲しがらないしw
    むかしは青山の店頭で客寄せに並べている安い商品の中からカジュアルの掘り出し物を見つけるのが結構楽しかったのだけれど,最近はそんな事もない。
    要は在庫品はネットで処分する方が手間いらずで良いのでしょう。「オフプライスストア」というのは実店舗のようですが,本気でそんなものを作ろうなどと思うならそれはあんまり正気の沙汰とも思えませんね。

  • OZ より: 2021/04/14(水) 8:31 PM

    オフプライスストアってなんでしょうね。
    オフプライスストア=アパレル商品ってイメージは定着してますが、当初ゲオ(でしたか?)が日本ではかなり早い段階で、オフプライスストアを立ち上げたと記憶してます。
    アパレルではない業種が立ち上げたことによって国内での”オフプライスストア”の名前の定着と、存在の意義があったなと思ったましたが、アパレル企業が立ち上げるのはなにか本末転倒があって違和感ですね。それこそ、アウトレットとの違いは?です。
    SDGsの流れで、ロスを無くそう、、、みたいな触れ込みもありますが、そもそもねぇ。
    まぁ、アウトレットモールも全国各地にありますがまだまだ空白地区もあるでしょうし、そういった地域に出店すればそれなりのお客さんが来てくれるのだと思います。しかも、コロナで溢れ返った在庫をかなり安く買い仕入れてるはずですし。どんどん拡大していくって感じはしないですが、なんちゃってアウトレット感覚でほそぼそ続くんじゃないですかね。

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